四季を往く 久留里線 

「秋」

 夏が終わり朝夕の気温がぐっと冷え込むようになってきた。日中はまだまだバイク乗りにとって快適そのものであるのだが、日に日に季節は冬に近づいてくることを実感できる。なんというか夏の生命がみなぎっていた季節が終わり、この移ろいに少し寂しい気分になるのは、幼少期の体験が染みついているのではないだろうか。多くの体験と思い出を作った夏休みが終わり、余韻に浸る間もなく訪れてくる現実に絶望した初秋の日。しかし自然はこの季節の移ろいに合わせて、秋ならではの色づきが美しくなる季節でもある。




久留里線  上総松丘〜平山




久留里線  平山




久留里線  小櫃〜俵田

 月2ペースかそれ以上で久留里線へ撮影に出かけていたのだが、秋ならではの光線状態が作り出す光のマジックで、夏にはなんてことのなかった撮影地が、とても魅力的に思えたりもして、訪問する度に次回の作戦を立てて、実行に移すということがパターン化していった。そして夕刻の情景を撮影し終わると急激に冷え込む気温。凍えた体で東京湾を渡り、地元のスーパー銭湯でひとっ風呂というのも定番の楽しみにもなっていた。




久留里線  東清川〜上総清川




久留里線  平山〜久留里




久留里線  平山〜上総松丘




久留里線  久留里〜俵田

 レリーズを切った後も、ファインダーを覗きながら、望遠で去り行く気動車を見送っていると、最近の鉄道車両にはあまり見られなくなったボヨンボヨンと縦に揺れながら、キハは林の向こうに姿を消していった。個人的にこの界隈は久留里線沿線の中でも、撮影目的ではなくてもお気に入りの場所で、線路脇の高校のグラウンドから聞こえる部活練習の声を聴きながら、近くのラーメン屋で満たされた後の一服が至高のひと時でもあった。

 そしてお気に入りの場所がもう一つ。久留里から一つ奥に行った平山駅である。なんてことの無い1面1線の無人駅だが、春には桜、秋には駅前の大銀杏の古木がこの小さな駅に季節の彩を添えていた。









久留里線  平山

 また夜になると駅前ロータリーの照明と、近くのガソリンスタンドの明かりが、まるでライトアップのようになり、日中とは全く違う表情を見せる。これ目当てで何回か足を運んだことはあったが、当然ながら極普通のどこにでもあるような無人駅だったので、いつ訪問しても写真を撮っているような人も、ドライブがてら立ち寄った人にも出会ったことは一度もなかったので、いつもこの魅惑の駅を思う存分一人堪能していた。










久留里線  平山

 久留里線詣を始めて最初の頃、上総清川付近の線路をオーバークロスする陸橋の上から富士山が遠望できることを知った。方角的に午前中なら順光。午後になると大気が霞み始めるので、富士山と列車を狙うなら早朝からベストなタイミングを待とうと計画し、何年か前の真冬に挑戦したことがあった。しかし狙った日に限って富士山までクリアに見通せる日が少なく、何日か挑戦したものの諦め、そのまま忘れてしまっていた。しかしこの段階になると国鉄型気動車置き換えが12月と発表されており、空気が澄みそうなこの季節に最後の挑戦をしてみることにした。午前8時頃到着。一般色キハ30の運用も撮影に適した運用に、いい感じに充当されている。はやる気持ちを抑えて、富士山が白飛びしないよう、また列車のマスクが不自然にならないよう、こまめに露出を調整して、自身の中では歴史的瞬間を待った。






久留里線  上総清川

 そこまでクリアに見えていない上に、山頂付近の雲が怪しい感じだったが、自身の中ではこれでもベストな出来だった。

 そしてもう一つやってみたい撮影地があった。何十回も行き来している国道410号において数少ない観光地案内として目を引いたのが「久留里城址」の看板だった。国道からも、列車に乗っていても山頂付近に天守閣らしきものがかろうじて見える。線路から見えるのであれば、あちらからも列車を撮影可能ということでスーパー俯瞰が期待できそうだ。駐車場にバイクを停め天守閣の立つ丘の頂上を目指し、急な勾配を歩く。息も絶え絶えになってようやく山頂に到着。資料館というよりは展望台になっている天守閣に登ると、予想通りの大俯瞰。線路まで障害物なくすっきり見通せる。他に一般の見学者が何人かいたので、少し遠慮して展望デッキの端の方に移動し、手持ち400mmでシュートした。もちろん一般色キハ30の運用時刻に合わせての訪問である。




久留里線  平山〜久留里



 撮影を終え、久留里城址の山を下りている途中、落ち葉の絨毯が美しかったので記念に一枚。すぐにバイクに戻り、上総亀山方へ向かった。今日は珍しく、3両のキハ30一般色のうち2両が運用に就いており、先ほど俯瞰した上り列車が横田で交換する下り列車は、亀山方が一般色で、すぐにやって来るのだ。この頃なぜか一般色は木更津方に連結されていることが多かったような気がするが、この秋の夕暮れ、亀山方に一般色とくればあそこしかない、と目をつけていった場所に到着した。






久留里線  上総松丘〜上総亀山

 というわけでお目当ての画像が残せて万感たる思いだった。こうしてこの日は満足して帰宅したが、沿線の秋の気配が深まるにつれて、一般色でなくとも、全車両、国鉄型の完全置き換えがうわさされている時期でもあったので、その他の久留里色の形式も記録に残しておこうと、以前に増して久留里線通いは増えていった。




久留里線  平山〜上総松丘




久留里線  下郡〜小櫃




久留里線  平山〜上総松丘




久留里線  下郡〜小櫃




久留里線  下郡〜小櫃

 いつ訪問しても期待以上の表情を見せてくれた秋の久留里線。しかしもう一つの魅力といえば途中の有人駅、横田と久留里でもあった。国鉄型の置き換えが2012年冬。その年の春まで久留里線は非自動化路線であり、両駅でのタブレット交換と国鉄型気動車の組み合わせが見られたのだった。首都圏から100km圏内に取り残された国鉄時代の生きる遺産が、日々坦々とその任務を果たしている日常こそが美しく輝いていた。






久留里線  横田