願いは叶うのか!? 伯耆の国で一発撮り!
2023.12/4
朝5時。アラームに起こされ布団の中で目が覚めると、すぐに激しい葛藤が始まる。行こうか、行くまいか・・・。たったの1地点での撮影のため長距離移動する価値があるのか。決断をなかなか出せなかったので、現地の天気予報を見て降水確率10%以上だったら出撃断念という厳しい条件を付け、アプリを開くと・・・。昨日20%だった確率は見事に0%になっていた。「しゃ〜ねぇ〜な!! 行ぐんべ!!」 昨日就寝前にも覚悟は決められなかったものの、一応撮影機材の充電などはしておいたので、洗面を済ませ起床からものの10分で出発。近所の駅に急いだ。数駅でJR駅に到着。自動券売機で新幹線の指定席をあたってみる。昨夜、実際に使ったことはないがスマートEXでこの時間帯の下り「のぞみ」の空席を見て見ると、どの便もほぼ通路側、窓際は当然押さえられていて、B席が数席残っている程度だった。この時点でもまだ遠征への葛藤はあったため、B席さえも満席で自由席一択だったら断念しよう、と言い訳の口実にも考えていた。すると一晩でキャンセルが出た模様で、2人掛け通路側D席を確保。クレジットカードの決済ボタンを押した瞬間、この旅の覚悟がようやくできた。
6:51 のぞみ5号、新横浜出発。今日の目的地へは新幹線から在来特急に乗らなければならず、この在来特急の乗車も、撮影に次ぎこの旅の第2の目的でもあったため、乗り換え駅までしっかり寝ておこう。隣りの窓際の座席に隣人は現れなかったので、名古屋までE席に移動させてもらう。市街を抜け相模平野に入りすぐにトップスピードの285km/hで快走する車窓から朝焼けの丹沢山地を眺めていると、久しぶりの東海道新幹線に興奮してしまい、寝ておかなければならないはずが、ギンギンに目が冴えてしまった。そして冴えてしまったついでにもう一つやっておくことが出来た。本日乗り合わせた列車は「700A」。700Aには来年春に廃止が決定している喫煙ルームを備えているのだ。来春以降、国内で列車内で喫煙ができるのは、自身生涯乗らないであろうサンライズか一部の近鉄特急のみとなり、貴重な体験ができるのだ。早速10号車の喫煙ルームに移動すると、順番待ちが2名。室内の定員は3名なので少し待つことにした。
パラダイスは3,10,15号車でスモーカーたちを迎えている。廃止後は非常時の食料備蓄庫になるようだ。
中央に小窓が一つ。数年前までは灰皿は3つあったと思うが、両サイドは塞がれていた。
喫煙ルームから戻り、再び窓際の席を拝借させてもらい富士山を眺めているうち静岡県横断。その先、名古屋でも京都でも新大阪でも隣人は登場せず、最後の区間である新神戸でようやく若いスーツ姿の男性が隣りに座った。
9:46 大都会 岡山着。そう、今回はあと4か月後に引退が決まっている381系、特急「やくも」に乗車し、国鉄色381、E5編成を、とある撮影地で頂く、というのがテーマである。今から乗車するのは国鉄色が充当される「やくも9号」の1本前に出発する「やくも7号」。やくもは日中1時間ごとの運転なので、到着後1時間以内に移動して撮影することになるのだが、どうも昨日から腹の調子が良くなく、目指す撮影地周辺に用を足せるような所は無いように思え、また徒歩移動なのでエマージェンシーリスクは大。最悪なことに最悪な結果になってしまったら、どうやって公共交通機関で生還しようか・・。天理臨の悪夢がよぎる。そのように出発時から腹のコンディションに細心の注意を払っており、朝から何も食べず、新幹線でもビールすら飲まなかった。でも何も体に入れないまま、9号のタイミングに重なってしまうより、今ここで食物を得て撮影前に「押し出す」ほうが安全ではないだろうか。つまり「毒をもって毒を制す」 と言う訳で、構内のコンビニで唐揚げ、ウインナー、卵焼きの入ったおにぎりセットを購入。「やくも7号」を待つ。やがて上り方から「ゆったり」カラーの381が入線。指定された6号車はモーター音の聞けない最後尾のクハか、と残念に思っていたものの、増結1両されており、嬉しいことにモハに乗ることが出来た。しかし「ゆったり」空間確保のためシートピッチが変えられており、指定された座席は窓と窓のど真ん中の最悪な着座位置だった。出発してから弁当、が流儀かも知れないが、前述した理由から座ってすぐに喫食開始。そして10:06 やくも7号は岡山駅を出発した。
構内を過ぎるとすぐに特急らしい走りを見せるが、381の自然振り子の本領を発揮するのはまだまだ先だ。今回はこの国内最後の自然振り子式の体験も楽しみだった。次の倉敷を出発すると、いよいよ伯備線に突入。車内放送では「これから先、伯備線の険しい山間を進みます。激しく左右に揺れることがありますので・・・」と、アトラクション前の気分を盛り上げてくれるアナウンスが入る。高梁川沿いに北上し、これまた珍しくなった直流直巻のモーターやMGの唸りに懐かしくなる。がしかし、列車は確かに車体傾斜装置搭載車らしく高速でカーブをクリアしていくものの、カーブ前後での普通の列車にない妙な挙動を少し感じる程度で、イマイチ期待していたほどではなかった。いくつかの乗りテツ系動画なんかでは、「揺れ過ぎて吐きそう!!」などのレポートを散見するが、自身乗り物酔いが全く無い体質とは言え、381の伝説として知られる、「特急はくも」とか「ぐったりやくも」などのスラングに期待し過ぎだった。
有名な「やくも」ならではの装備。かつては全席にあったんだとか。使用済みはどうするんだろう?
列車は右に左に進路を変えながら、山陰、山陽を隔てるサミットを目指して登っていると、いつしか空が怪しい雲行きになっていた。完全な曇り空。普段はもちろんだが、今日の撮影地では特にビカビカな快晴でなければ困るのだ。しかし峠を越えた直後少しづつ晴れ間が見えだし、里に下りてくる頃にはついに雲一つない真っ青な空が広がっていた。ならばそろそろ見えるんでないの?美しく気高い彼女の御姿が。
車内から。冠雪もいい具合だし、何より山容と存在感が尊過ぎる。好きな山のうちの一つだ。
もうここまでくれば撮影地はお判りだろう。列車は定刻通り12:17、米子到着。と同時に今回の旅の成功を決定づける重要な局面だ。まず米子駅から撮影地まで距離にして7km。撮影対象列車はちょうど1時間後の通過。なので徒歩では間に合わないし、この距離でレンタカーを借りるのもコスパが悪い。レンタルサイクルも出発前に確認したが空きは無く、普通にタクシーの選択となるのだが、駅前に客待ちのタクシーがいない可能性もあるし、なにより撮影後、迎車させるか、乗って来たタクシーを待たせるとなると、多分レンタカー以上の出費となってしまう。すぐにホームに降り、何度も利用した経験のある米子駅の改札へ向かうも、それらしい雰囲気がなく、近くにいた工事の警備員が、「あっち」と橋上を教えてくれた。いつの間にか、国鉄時代の鉄道の要所らしい味のあった駅舎から移転して、新しく駅が生まれ変わっている最中だった。そんな感傷に浸る間もなくロータリーに向かうと、よかった!客待ちしているタクシーが5台ほどいた。少し安堵したのも束の間、もう一つの懸案事項が片付いていない。岡山駅で、「毒を持って・・」とか抜かして食事をしたが、実は全然出ていないのである。駅の規模の割に極端に少ないトイレで順番待ちをした後、様々な努力をしてみたが、完全解消にならぬまま、到着してからすでに20分経過していた。ヤバい。現地で本当の「お花摘み」も覚悟しつつ、先頭にいたタクシーのドアをノックすると、80歳以上とみられる運転手さんだった。この時のために印刷してきた撮影地付近の地図を渡し、「ここに行って欲しいんですけど」というと全く分からないご様子。「この道が国道9号で、ここが道の駅、でこれが山陰道で・・・」と焦りながら説明するも、住所を教えてくれの一点張り。「この清水(しみず)交差点を目印に・・」というと「あぁ、キヨミズね」とのことでようやく理解してくれた。ここまで説明に10分。本格的にヤバい。ドアが閉まりクルマが動き出しロータリーから出ようとするとそこは赤信号。しかしそのまま進もうとしていたので思わず声をかけようとすると、他の仲間のタクシーが激しいクラクションで気づかせてくれた。その後も街でよく見る高齢者特有の不穏なショートカットや謎のブレーキングをくり返しながら、目的地に進む。しかし運転はアレでも聡明な方でいらっしゃるようで、現地に着くまでの十数分、本当に楽しく会話させていただいた。料金は¥2300ほど。昨秋に下見をしておいたので迷わず撮影地へ。その時の下見は夜だったので、明るい時間は初めてだ。到着した瞬間、あまりの美しさにため息が出た。来て良かった! 先客は5名ほど。通過まで15分。すぐに機材をセットした。
2023.12/4 山陰本線 米子〜安来 EOS6D 100-400mm
やくも18号が秀麗な大山に向かって高速で突っ走って行く。この列車は次の米子までの間で、目的の9号とすれ違うので、あと2,3分後には美しい国鉄特急色がここを通過するのである。一同に緊張が走る。しかし、その時間になっても奥に見える踏切は作動し始めている様子が無く、誰もが遅れているのかと察知し始めると、予測だにしなかった最も恐れていた事態に遭遇した。朝からこんだけ快晴が続いてきた日の昼下がり、突如としてドでかい一片の浮き雲が背後の太陽に掛かり始めたのだ。もう・・・ダメだ。終わった。全員が肩を落とした。
プロパティを確認すると上記18号通過から2分15秒後。こんなことってある!?
また課題が出来てしまったようだ。気候の荒い冬の日本海側。来春の引退まで何回チャンスがあるのか、自分はそれに立ち会えることができるのか。意気消沈しながらも一応撮影はしておこうと、暗くなったファインダーを覗きながら露出を変更。試し切りしても当たり前だが、線路に合わせると晴れの領域にある大山は白飛びしてしまうしどうしようもない。幾人の撮影者から舌打ちが聞こえた。奥の踏切付近はまだ日が当たっているように見え、なぜこんなピンポイントで神は意地悪をするのか恨めしく思ったその時! その日当がこちらに接近しているように見えた。幻か!? 本来であればすでに狙うべき9号は通過している時刻。でもまだ姿は現さない。徐々に近づく晴れの領域。やくもよ、まだ来るな!まだ来るな! 恨んでしまった神に贖罪することを誓い、一同は必死に天に祈りを捧げた。その結果・・・
2023.12/4 山陰本線 米子〜安来 EOS6D 100-400mm

こちらもプロパティを確認すると曇りの写真から、わずか2分40秒後のことだった。昨年撮影した井倉の鉄橋での奇跡でも言ったが、この反対は何億回も経験しているのに2回もチャンスをもらえるとは、さすが八百万の神々が住まう地へ向かう列車だからだと言えよう。列車は約5分の奇跡の遅れ。皆ホクホク顔で勝利を祝いあう。「いやぁ〜来て良かった!来て良かった!」と自分も大満足し戦利品を胸に機材をリュックへしまう。そして我に返った。

本当に何一つ考えていなかった。一応明日も休みなので今日この場所で失敗したら一泊して明日も、と考えていたが、成果はご覧の通り。別の撮影地、例えば昨年曇ってしまった井倉の大俯瞰リベンジや、未踏の阿哲峡なんかもチャレンジしたいが、予報によれば明日の天候は芳しくなさそう。なので撮影はこれで切り上げて帰路に就くことにしよう。381にもう一度乗っても良いが、せっかくなので近々置き換えが検討されているという、スーパーはくとで非電化高速体験を最後にしておこうかと、ダイヤを調べてみると、どうも明るい時間に鳥取を出発する便には厳しそうであることが分った。とりあえず駅まで向かおう。7km。徒歩で1時間45分と言ったところであろうか。国道9号に出て交通量が多く歩道が無い路肩を歩き、すれすれに通るトラックのバックミラーに何度も肩パンされそうになりながらも進む。しばらく行くとバス停を発見。このような立地だし1日数本程度であろうと時刻表を覗き込むと、色褪せていて判読することができない。諦めて再び危険な国道路肩を進み、ようやく半分の距離を歩き少し疲れてきたところで何個目かのバス停に辿り着き時刻表を見ると、なんと一日数本の米子方面のバスがあと1分でやって来るではないか!? 驚くや否や、本当にマイクロバスがやって来た。行き先を示すような物が無かったので、乗り際に運転手さんに米子まで行くかを確認。乗り込むと5人ほどの乗客が乗っていた。どうやら隣りの安来市のコミュニティバスのようで、市街に入ると中心部のようなところで全員下車していった。すぐに米子駅に到着。運賃はコミュニティバスということで自治体補助でたったの100円。安来市の皆さん、どうもありがとうございました。
・・・で、ですよ。ここからどうやって生還しようか思考を巡らせなければならない。これから復路も「やくも」に乗って今日中に帰還するのもいいが、別の交通手段で楽して帰りたい。考えた結果、大阪までの高速バスで新幹線に乗り継ぐことにした。駅前のチケットセンターで今から1時間後の便を予約。腹も減っていたので出発までの間、ちゃんと食事をしようと駅ビルに入ると、何と飲食店は焼肉屋のみ。焼肉を楽しむまでの時間もなさそうなので、駅前ロータリー周辺をウロウロしていたが、それらしい店舗はほとんどが廃業しているようで、仕方なく駅前のイオンに向かった。イオンならフードコート的なものもあるかと踏んで入ってみると、なんとテナントのほとんどが撤退している、地方にありがちな衰退する商業施設の典型であった。あの米子でさえ、イオンでさえ・・・自分の中ではかなりの衝撃だった。もう出発までメシを喰える時間は無くなって来たので、仕方がなくエキナカのコンビニで肉まんを購入。駅前の喫煙所で一服ののち高速バスに乗車。途中米子道に入り、今日何度目かの大山を眺めているうち爆睡し、暗くなったころ梅田のバスターミナルに到着した。今日一日おにぎりと肉まんくらいしか口にしていないので猛烈な空腹状態であり、たまたま見つけたお店で豚骨ラーメンと餃子、2つの替玉で苦しくなってきたので、退店。久々の満腹感に新幹線でもビールは呑まず、意図せず何年かぶりの休肝日となった。