乗って乗って東日本1周


2011.7/13

 先日、職場の自称「テツ」という人物が、もう一人の同僚に何やら熱く語っているのを聞いた。「1万円・・」「新幹線も乗り放題・・」「はやぶさも・・」と会話が断片的に聞こえてきた。前後関係で推察するに、どうやら夏休み前の期間限定でJR東日本管内の新幹線・特急が1日乗り放題で¥1万というフリー切符が販売されるらしい。敢えてその会話には参加せずに情報だけを自宅に持ち帰りネットで調べると、ホントだ。「JR東日本パス」なるものの告知が出ていた。同じ「テツ」でも普段、「撮り」の方に傾倒しているので「乗り」は最近めっきりだ。でもかつてはワイド周遊券や18きっぷで全国を巡っていたのも事実。久しぶりに「乗り」もいいもんだ、と思った。値段も¥1万円。仲間と居酒屋に行って呑んで、流れでカラオケで3時間ほど歌い、終電を逃してタクシーで帰って来ればそんな金額になる。ならば安い買い物だ。電車なので酒も呑める。思い立ったら早いので早速近所のJRの駅に行って窓口で発券を依頼。すると窓口氏、「指定席のほうはどうしますか?」 そこまで調べていなかったのだが、どうやら指定席も2回分選べるらしいのだ。切符を買ってからルートを考えようと思っていたのでそのままフリーパスだけを購入。その晩はルート選定に頭を悩ませた。まず押さえておきたいキーワード。「はやぶさ」「新青森」「485」「200系新幹線」「いなほ」、北越急行も乗れるらしいので「はくたか」。時刻表をパラパラとめくり、なるべくそのキーワードを達成できるような案を考えたが、どうしてもネックになるのは震災の影響で徐行運転を余儀なくされている東北新幹線のダイヤだ。所定より30分以上も余計にかかっており、どうしても乗り継ぎがウマク行かない。仕方なしにいくつかのキーワードを捨てるという妥協案を選択した。




 出発前夜、一番列車で東京駅に向かうため早めに寝ておこうと床に就くが、連日の熱帯夜で睡眠不足に苛まれているにも関わらず、扇風機を「強」にしても今日も生憎寝苦しい。結局3時過ぎまで暑さでのたうちまわりながら1時間ちょっとの睡眠で目覚ましに起こされた。荷物、といってもEOSkissX3と時刻表だけ。あとは財布と携帯とタバコのみを持って地元の駅から横浜へ。東海道の上り一番列車に乗って東京駅に到着した。まず旅の第一歩は上越新幹線「とき301号」。初め第一案として6:28発の東北新幹線「はやて11号」で反時計まわりに東日本を一周しようかと思っていたが、せっかく乗るなら国鉄型200系と思い上越新幹線で時計回りに動くことにした。ホームに上がると国鉄色のK47編成ではなくリニューアル色の200系がすでに鎮座しており、ドア扱いを待っていた。列に並んでいる人も少なかったので安心してホーム端まで行ってちょいと慣れない駅撮りなんかもやってみたあと、キオスクでアレを調達。




きみは西へぼくは北へ。毎朝繰り返される東京駅の光景。


 やがて出発時刻になり200系は走りだした。上野を出て地上に出るころ、仕入れていたブツを開栓して朝ビール開始。大宮を過ぎて間もなく、高速運転に入るのも束の間、寝不足もあってガックシ気を失ってしまった。途中上毛高原を通過するところで目覚めたかと思ったものの、我に帰った時はすでに新潟。終点。取るモノも取り敢えずあわてて新幹線を降り、乗り換えるべく次の列車に向けてダッシュした。乗り換え時間は20分あるがすでに次の列車は入線していることは予測済み。買い物もしている時間も無いので在来ホームに降りて「いなほ1号」の乗客になった。こちらも一応国鉄型。外観内装ともに元の面影はないが485系3000番台が迎えてくれる。同じ車両にはスーツ姿の団体が乗っており車内は賑やか。他の空いている車両にも移ろうとは思ってみたがすでに多くの新幹線からの乗客が乗り換えていており窓際、もとい日本海側の席は空いていない様子だったので、若人の熱気ムンムンの5号車の席に落ち着いた。車窓から見えるキハ110や115系を眺めているうち出発。200系新幹線と同様、直流モーターやMGの唸りが床下から伝わって来て飽きることはなく、5号車のモハを選んで大正解だった。さて列車は快調に越後平野を突き進むが、直流区間の村上までは単調な田園風景なので1時間ちょっともうひと眠りすることにした。眠りに就いてからしばらくして「テツ的」な勘で目が覚めた。ちょうど村上を出発した直後で、交直デッドセクションを通過する頃だ。MGの音が消え、車内灯が数秒消えるという儀式も485ならではで旅情がかきたてられる。そしていよいよ列車は日本海に沿って北上し、景勝地として有名な笹川流れにさしかかった。そういえば朝出発してからビールしか口にしていなかったので、そろそろ腹も減ってきたので、タイミング良く通りかかった車販のオネーチャンを捕まえて、一番搾りと1種類しかなかった¥950の鮭のなんとか弁当を購入。流れゆく景色を肴にしようとビールを飲みながら弁当を開くと・・・ショボい。ショボ過ぎる。1種類しかない売れ残りのため期待はしていなかったが、コンビニの¥390の海苔弁当の方がまだマシだというくらい残念なコンテンツだった。でもビールが旨いから良しとする。




 この「いなほ1号」は秋田行き。ほとんどの「いなほ」が酒田止まりになってしまった今、4時間近くという長時間、485の生粋の特急の走りを堪能できる列車は他にないだろう。そんなわけで快調な特急の走りを味わいながら、後半はまたウトウトしながらいつの間にか秋田に到着した。次は乗り換えの青森行き「つがる3号」まで約1時間もあったので、さきほどのショボい鮭弁当の口直しでもしようとちゃんとメシを喰おうとも思ったが、あまり不本意ながら腹も減っていないので、ホームをうろついて時間を潰した。駅には自分と同様、いかにも東日本パスの効力をフルに発揮しようと旅立ったであろうと思われる軽装な出で立ちの輩がコンデジで止まっている列車たちをせっせと撮影している。よーっし、自分も負けていらんない、とリュックからおもちゃのようなキスデジを取り出してチャキチャキ真似をしてみた。




よく見るとLEDの稲穂の絵が揺れて動いている!! 知らなかった。今回の旅の一番の発見だった!






男鹿線用のキハ。朝のラッシュには7連とかになるんでしたっけ? アレ違いましたっけ??



ED75じゃないか!しかも旅客会社所有のため原色。


 しばらくしてE751系が滑り込んできた。一旦車内清掃のあと乗車が許され車内へ。4両に短縮されたE751特急「つがる3号」は座席が8割ほど埋まるほどの盛況ぶりで13:10、秋田を出発した。いくつかの有名撮影地を車内から見てみたいと思い、進行方向右側を占拠することに成功したのだが、飛ばすのか飛ばさないのか中途半端なスピードで北上するもんだからまた眠りこけてしまった。二ツ井、白沢陣場、碇ヶ関・・と名だたる撮影地を爆睡で通過。2時間40分の乗車の大半は記憶に残っていないまま15:53青森に到着してしまった。ここから開通したばかりの新幹線で一気に帰る予定なのだが、まだまだ時間もあるので今度こそ飯を喰おう。とその前に新幹線の指定席を押さえておかなければならない。新青森発着の「はやて」全列車が全車指定席なので当然だ。自動指定席券売機で検索。17:38発の「はやぶさ406号」は全席満席。次の「はやて180号」に窓際席があったのだが、どういう訳かその場で発券せず、安心して街に繰り出してしまった。駅前の商店街を歩きながら物色。気分的にはラーメンが食いたい。ご当地物とまでは行かなくとも、海鮮系のヤツなんてあったら有り難い。ホタテなんかが入ってていかにも北の海の幸を売りにしてたりすれば言う事無しだ。駅から数百m歩きついにラーメン屋発見。ご当地物もある、が、残念ながら準備中。さらに歩き人通りも閑散となって来た頃、本格的に喰いっぱぐれの予感がしてきたので今来た道を引き返し、仕方なく途中にあったガストに入店。オススメメニューだった冷麺と明太ご飯、ドリンクバーで時間を潰した。腹も満たされ駅に戻り、さっきと同様自動券売機で新幹線の予約を取ることにした。しかしついさっきまで空席があった「はやて180号」の窓際席はこの数十分で売り切れてしまっていて、3人掛けの真ん中のB席しか空きは無くなっている。どんな列車でも通路側とか3人真ん中は勘弁だ。一方次の最終「はやて182号」はまだ窓際は空いているのだが、明日の仕事が早いのでもうちょい早目に帰りたい。後ろに並んでる人達のプレッシャーを感じつつもあの手この手を打ってみると、第一希望の「はやて180号」は盛岡からなら窓際が取れるとのこと。迷わず発券してしまった。で2枚目。新青森〜盛岡だがおなじ180号のB席で押さえるか、それとも後発の「はやぶさ」が盛岡の手前で180号を追い抜き盛岡で連絡できるので、迷った挙句「はやぶさ」の立席特急券をゲット。しかし時間がない。「はやぶさ406号」が新青森を発つのは17:38だが、それに乗るには17:20発の普通電車に乗らなくてはいけないが現在17:19! すぐにみどりの窓口を飛び出して自改に切符を通し跨線橋を駆け上がり出発ホームに向かってダッシュしていると、ちょうど701系が軽やかな音を立てて動き出すところだった。「乗り遅れ」た。すぐに改札を出てタクシー乗り場に直行。新青森は次の駅なのでタクシーで飛ばせばもしかして間に合うのかと思った。しかしあと10分ちょっと。止めよう。ジタバタは傷口をさらに広げる可能性がある。じゃぁどうすべきか?諦めて最終に乗ろう。しかし2枚指定席券を発券してしまったため、指定席上限2枚のこの切符では最終の「はやて」の特急券は自腹だ。何たる失態。ダメ元でみどりの窓口に相談してみた。すると発券済みの券をキャンセルすればカウントはリセットされるとのことで、無事最終「はやて182号」の窓際の切符を手にすることができた。ずいぶんと時間が空いてしまったが、よく考えると「あけぼの」入線〜出発を見ることが出来るではないか。ちょっと得した気分でホームで入線を待ち構えた。


 さすが国内に残された希少な寝台特急列車の出発とだけあって同好の士は10名ほど。一同重厚なEF81の牽引する「あけぼの」の出発を見届けた。では新青森へ向かおうか。ほどなくしてやってきたキハ40のの五能線直通快速「深浦」に乗車。わずか7分のディーゼルの旅を楽しんだあと新青森に到着した。新幹線の始発駅、青森の第2のターミナルとなるべくして生まれた新青森駅であるが、もともと在来線の奥羽本線の直交地点に設置された駅なので1面2線の島式ホームがあるだけの小さな駅だった。が、エスカレーターを上がり橋上駅舎に入ると、さすが新幹線の駅。出来たばかりの木目調の内装と大きなガラス窓で採光されるとても解放感溢れる空間だった。指定席を押さえた「はやて182号」までまだまだ時間があるので、今回の旅最後のビールで追い込みを掛け、さらにニコチンも追い込みのつもりで摂取しておいた。




新青森駅北側終端方向を臨む。ここから北海道新幹線が函館に向かって建設中。




酔っ払いが撮るE2系。ホーム柵と有効長が10両ギリギリのためこんな感じ。


 先行の列車は通路側も残り少ない有様だったのでどれだけの乗車率かと思い少し身構えていたが、こちらの182号は出発直前には座席は半分も埋まっていないほどで心配は杞憂になった。19:33、新青森定時出発。本来なら同時刻に新青森を発って23:08に東京に到着するのだが、例の震災によって一部徐行区間が存在し所定よりも30分余計にかかってしまう。ドアを閉めたE2系は音も無く青森を発車。暮れなずむ青森市街を見ながら徐々にスピードを上げて行き、すぐにいくつかの長いトンネルに突入した。当然初乗車区間でもあるので少し車窓は楽しみにしていたが、2本目のトンネルに入ったあたりで今日何回目だろうか、自分も爆睡モードに突入してしまった。途中新花巻通過のホームの明かりで一瞬目が覚めた気がするがすぐに再びまどろみの中へ。次に目が覚めた時はくりこま高原駅周辺でちょうど徐行区間に入った頃だった。相当に慎重な徐行で体感40km/h以下でしばらく走り、それが終わると怒涛の加速を開始。いつもの通りの走りののち23:32、終着東京に到着した。ホームを降りて酒の抜けたばかりのダルーイ感じで東海道線に乗り換え、久しぶりの乗りテツ三昧の東日本一周の旅は終了した。得たものは特に無かったが列車に乗りながらビールも呑めたしいいかぁーっ。と思いながらふと我に帰った。

結論:「なんだよ!昼寝しに青森行っただけじゃねーか!!」