最後の客車急行 「はまなす」で大惨劇

2015.7/6

 そんな昔のことではないのに、ポコッと記憶が抜けること。例えばおとといの夕飯何食べたっけ?みたいな。ま、大したことないので思い出そうとすることもなく、そのまま忘却の彼方へ。今回の旅がまさにそうであった。どうしても仕留めたい、現地に行って己の目とEFレンズで画像を自分のモノにしたい! と、普段なら大体そのようなモチベーションで遠征を決めるのだが、今回ばかりはその準備過程とか気持ちの持ちようとか、そういった事前段階が良く思い出せないのである。6年前にも一応捕獲は成功しているし、多分、夏至に近く日の出が早いから、2連休あってヒマだったから、そのような思い付きで出かけていたに違いない。ではご覧いただこう。

 午前9時過ぎ。山手線で上野駅に降り立つ。6年前と同じ時期、時刻、目的地で昭和通に面した高速バス乗り場へ向かった。今回は国内最後の客車急行「はまなす」を津軽海峡線内で撮影するために高速バスで青森に向かう。乗車10時間以上。日がなひたすら東北道を北上する弘南バス「スカイ号」を予約していた。前回2009年も同じバス同じ時刻であったが、あの時は「上野青森号」と名乗っていた。発車10分ほど前になりこれから一日共にする弘南バスがやってきた。4列シートの窮屈そうな廉価路線。10時定刻に上野を出発し首都高から東北道へと入る。仕込んでおいたビール2本と弁当は埼玉県内走行中にすべて完食し、あとはただひたすらに長い東北道の車窓を望みながら、青森到着を待った。



 定刻より40分早い19時30分、青森駅前到着。駅前の喫煙所で一服したのち、在来線に一駅乗り、隣の新青森へ。定刻だとバスの到着時刻には青森の駅レンタカーの営業時間外になるので、わざわざ21時まで営業している新青森で車を押さえておいたのだった。閑散とした新青森駅裏手にある営業所へ。書類に記入し案内されたクルマに行くと、待ってくれていたのはトヨタヴィッツだった。前回のはまなす撮影では最終の津軽線に乗って駅ネしたりしたものだが、今回はただダルイという理由から宿替わりレンタカーで現地に乗り込むことにしていた。鍵を受け取りビッツ君を操り早速市街地へ飯処を探す。青森までの高速バスでは長時間の旅程から、昼食のための長めの休憩が設けられているのだが、うかつにも車内で爆睡をこいてしまい、喰いっぱぐれ、とにかく腹が減っていたのでガッツリとラーメンでも食いたくなってきたのだ。青森のメインストリートを流しているといつの間にか町の明かりがまばらになってきてしまい、完全に郊外から外れてしまった。Uターンするタイミングも失い、やがて本日2度目の喰いっぱぐれ。時間がなくなっていた。青森発の下り「はまなす」の出発シーンを駅構内で撮影する目的もあったのだ。来た道を引き返し、クルマの駐車が容易と思われる西口の淋しいロータリーの隅に駐車し、入場券を購入し構内に入ると、すでにED79と14系客車はすでに入線を済ませたあとだった。



















国内最後の14系客車。「急行」という種別も過去のものに・・。
2015.7/6   いずれも東北本線   青森   EOS5D 24-105mm

 やがて定刻22:18。国内唯一の14系夜行急行列車は、客車特有の、機関士と車掌の出発の無線合図のためのインターバルの後、静かに札幌へ旅立っていった。今見送った列車が函館〜長万部のどこかですれ違う上り「はまなす」を明朝撮影する。そう思うとようやく気分が高まってきた。予報も明朝午前中は降水確率0%というし、明日の本番に備えて夕飯を済ませて本来の目的地である津軽半島北部に早く乗り込みたい。ロータリーに停めておいたクルマに戻り国道を流しているとすぐに、こんな時間でも駐車場に多くのクルマが止まっている盛況を呈していそうなラーメン屋を発見。活気のある店内でようやく食したラーメンはどんな特徴だったかは覚えていないが、とても美味だったと記憶している。腹も満たされ漆黒の闇をひたすら北上して原野を貫く国道280号線で本日の最終目的地へと急いだ。まとまった集落である蟹田で唯一営業していた名も無きコンビニで晩酌用のビールとつまみ、翌朝の缶コーヒーを調達し、寝場所を探していると、今は使われていないが、かつて対岸の下北半島を結んでいたフェリー乗り場の広場に到着。ここで潮騒を聴きながら一夜を明かすことにした。

2015.7/7

 昨日はバスでの移動中、あんなに昼寝したのに晩酌で呑んだビールが非常に利いて、ぐっすりと眠ることができた。そして気になる空模様は雲一つない鮮烈な日の出を予感させるほどに見事に澄み渡っていた。昨日にも増して上がるテンション! 4:40。野営地からものの10分足らずで中小国ストレートとして名高い撮影地に到着した。先客は4名ほど。まだ4時台だが空は明るく、今まさに背後の丘陵から陽が昇らんとしている。本番は30分後だがいつになく勝利を確信していた。




2015.7/7   津軽線  中小国〜新中小国(信)   EOS5D  100-400mm

 5:01。下り北斗星が高速で通過。まだ太陽は顔を出さないので高速シャッターは切れない。しかし北斗星通過後、徐々に露出は1分ごとに上がっていき、ようやく動いてる被写体を静止できるシャッター速度になっていた。いよいよ本番「はまなす」通過前の最後の練習。EH500牽引の貨物列車がやってきた。




2015.7/7   津軽線  中小国〜新中小国(信)   EOS5D  100-400mm

 ようやく上った朝陽が列車のマスクを照らし、さらなる勝利を確信。プレビューで拡大しながら先ほどのEH500の画像を確認しているとどうにもピントが甘く、かつ構図も少し気に入らなくなっていた。セッティングしておいた三脚を数十センチ横に移動。ピントも少し手前に照準を合わせていると、次第に雲行きが怪しくなってきた。本番通過まであと2分。晴れるのか!? そうでないのか!!?? まだ最終確定できていないピントに焦りを感じつつ、さらに急に陰ったため露出を変更していると、なんと画面奥から「はまなす」を牽引しているED79のヘッドライトが遠くに見えてきてしまった。ヤバい!! 露出、フォーカス2つを焦りながら同時に調整していると冷や汗がしたたり落ちた。




2015.7/7   津軽線  中小国〜新中小国(信)   EOS5D  100-400mm

 なんということだろう。この1本だけの目的で遠路はるばるやってきた結果。ご覧のありさまである。光線はしょうがないもののピントは14系の2両目に合っており、一瞬にして全身から力が抜けた。この後の下り貨物列車も撮影する気でいたが、そんな気分でない。敗北は何度も経験しているが、ここまでの道程でこの結果にすぐに退散を決めたのであった。しかし時刻はまだ5時半。レンタカーを返して帰ろうにもまだまだ時間があったので、まだ未訪問である津軽線を少し見て回ることにした。




初めて訪問した三厩。本州最果ての終着駅の感が漂い、真冬に訪れてみたいところ。
2015.7/7   津軽線   三厩  (スマホで撮影) 




津軽海峡を背にして上り一番列車がやって来た。
2015.7/7   津軽線   今別〜大川平   EOS5D 24-105mm

 一番列車を撮影後、気になっていた津軽二股駅へ行ってみた。ここは津軽線の「津軽二股」駅、海峡線の「津軽今別」駅と、ほぼ同一構内にあるものの駅名が違い、片や1日5本の非電化のローカル線。もう一方は本州〜北海道を結ぶ大動脈上に位置している珍しい構造をしてるのだが、来春開業する北海道新幹線の在来線併用区間の本州側最後の駅になることが決定されており、海峡線の「津軽今別」駅は、新幹線用として「奥津軽いまべつ」駅として名前のみを新たに開業する予定だ。しかし津軽線の「津軽二股」は駅名もそのままに残ることが決定しており、その対峙を見てみようと思って訪問することにした。




か細い津軽線の駅を飲み込むような新幹線の「奥津軽いまべつ」駅。周辺も立派に整備が終わっているが、人の気配はゼロだった。
2015.7/7   津軽線  津軽二股   EOS5D 24-105mm




2015.7/7   津軽線  津軽二股   EOS5D 24-105mm




蟹田で折り返してきた下り一番列車がやって来た。見物目的の観光客が2人ほど下車していった。
2015.7/7   津軽線  津軽二股   EOS5D 24-105mm

 そんな訳で本来の目的は達成できなかったものの、未訪問であった津軽線で少し溜飲を下げ、9時のレンタカー屋のオープンを待ってヴィッツを返却し、新青森駅構内のキヨスクで買ったビールで朝から酩酊。10:39発の「はやぶさ16号」の客となって青森の地を後にしたのだった。