国境の守り主 「上越北線カッター」

2023.2/3

 とある2連休の初日、少し残した仕事があったので職場に向かい、その業務に取り掛かっていると意外にも早く終わってしまった。現在時刻は14時。特に明日は予定は無いので、今の時間から少しお出かけしてみようと思い立った。場所はとにかく「雪」のあるところ。今季、まだ一回も冬タイヤの恩恵を受けていなかったため、勘を無くさないようにするための練習と決め、北に向かうことにした。でもドライブだけじゃ勿体ない。そうなれば、条件を満たしお手軽な距離にある上越カッターの撮影をしてみよう。目的地が決まり、急に今から出発するという期待感がハンパ無い。自宅に舞い戻り撮影機材一式をクルマに運び入れて15:30自宅出発。全く急ぐ行程ではないので、ひたすら一般道を北進し、暗くなったころに三国峠を越えることにしようと思う。関越トンネルでパッと抜けて別世界に飛び込む感覚も嫌いではないが、煌びやかな市街を抜け、長い山道を徐々に標高を稼ぎ、ようやく到達する峠のトンネルに到着、日本を二分するような大国境を越えるという体験をできる、数少ない場所ではなかろうか。昨年から共用を開始した新三国トンネルを通過するのも初めてだし、何より朝から何も食べていなかったので、伊勢崎か前橋市内で旨いラーメンを腹いっぱい喰らう、という楽しみもある。

 という訳で通過に面倒くさい都内は首都高でスルーし、さいたま市内与野ICで高速を降り、国道17号で目的地を目指し始めた。快適なバイパス道である上武道路を北上。すっかり日の暮れた前橋市内でいつものネギラーメンを頂く。今日は中のほうではなく「大」だ。空腹臨界点に達していたので、食後の罪悪感も極度の苦しさも無く、さわやかですらある。気温0℃の渋川を過ぎると街明かりは疎らになり、氷点下1℃を切った沼田を抜けると標高があがり始める。氷点下3℃の猿ヶ京温泉を過ぎるといよいよ峠道となり路面も積雪に覆われるようになった。スタットレスの本領発揮だ。いよいよサミットが近づいてくると気温は氷点下7℃を示してきたので、クルマを駐車帯に停め休憩とリフレッシュも兼ねて極寒の屋外に降りてみた。この時間になると国道の通行量もほとんどなくなって静寂だけが辺りを支配し、大山塊の圧倒的な質量感に加え、キンキンに冷えた空気のせいもあって得も言われぬ緊張感が支配していることを感じる。わずか数分の一服だったが、いい時間であった。さて新三国トンネルを通過し新潟県側へ山を下って来るにつれ、徐々に雪が激しくなってきた。湯沢市街手前では轍も埋もれ、時折クルマの腹を擦る音が聞こえてくる。除雪もタイミング的に来ていないらしく、消雪区間が待ち遠しい。そうしてようやく日付が変わったころ、明日の撮影場所に近い道の駅に到着した。上越カッターこと単9740レは6時少し前に目的地である越後中里に到着するので、今からなら4時間ほど仮眠できそうだ。

 4:30起床。起床というよりはほとんど眠りに就くことができなかった。寒かったのではない。久々の遠出と急な旅の出発に高揚感が抑えきれなかったのだ。雪は昨晩ほどでないものの本降り状態。カッター車特有のパンタからのアークを見て見たい気もするが、ああいうのって今日のような湿度の高い降雪の日よりも、霜が降りる氷点下の早朝な感じがするので、今回は期待できそうにないが、とりあえず撮影場所に移動する。この時季の5時台の撮影とあって当然真っ暗でもあるため、お手軽に明かりのある駅構内で通過の場面を頂こうと思う。唯一撮影できそうな対向ホームの大沢駅。2008年に特雪を撮影したことのある駅だ。駅に近づくとなんとこの時間から駅前の空き地には数台の県外ナンバーがいるではないか。上越カッターってこんなメジャーなもんだったかとかなり驚きながらも構内へ。すると上下ホーム共に複数の先客たちが待ち構えていたのであった。ちょうど待合室の軒が空いていたので、そこでカメラをスタンバイし、流しの体勢に入った。やがて接近放送が流れ始め、雪に吸収され音もなくふたすじの明かりが近づいてきた。




2023.2/3    上越線  大沢   EOS6D  24-105mm

 フレアで酷い出来になってしまったが、連写した数枚のうち、これで一番まともという有様だった。やっぱりカッターならバリバリのスパークをキメるところを見てみたいものだが、雪を蹴散らし突き進むロクヨンもカッコいい。高速で通過していった単9740レの本日の充当ガマはEF641031。機材を撤収し復路の単9741レの撮影場所を考える。この列車は越後中里まで上り線を作業し、6時前に到着。30分の折り返しののち今度は下り線の作業に入り、越後湯沢で約30分の停車。所属の長岡に帰っていくらしい。ここに戻ってくるのはあと2時間後。まだまだ暗い時間でもあるので撮影場所探しは日が昇ってからにすることとし、先ほどの道の駅で1時間ほどの仮眠を取る。ようやく明るくなってきたころに移動開始。何か所かカーナビを頼りに降りて移動を繰り返し、とある生活道路から上越線を見下ろすポイントに到着した。雪はだいぶ小康状態になり、通過予測時間20分前からスタンバイ開始。しかしその通過時刻を過ぎても一向にロクヨンは現れてくれない。それから30分ほど粘ってみたが、やって来るのは目覚め始めた営業列車ばかり。運転時刻の変更か、それとも故障か。帰りすがら湯沢駅構内や中里駅構内も確認してみたが、その姿は無く、どうやらとっくに長岡へ帰ってしまったと思われる。

 こんな訳で本日はたったの一枚撮り。今日もまだまだ長いので、雪深い国道18号で三国峠を越え、群馬県に入り何度か立ち寄ったことのある道の駅に併設された吉岡温泉に向かうも休館日。そのまま国道17号でひたすら大宮を目指し、首都高以外一般道での新潟往復ドライブは幕を閉じたのだった。




来ない・・・・

2023.2/17

 自分が学生だった頃、冬休みの旅行で余った青春18切符を使って、真冬に幼馴染のT君と旅に出たことがあった。新宿から165系ムーンライトえちごに乗り込み、高崎のバカ停で「あけぼの」のバルブなど楽しんだ後、再び乗り込み北上する。沼田付近を過ぎていよいよ山間部へ分け入ると、時折車窓から青白いスパークがフラッシュのように雪に反射していることに気が付いた。パンタが発生源だろう。さらに進むごとにそのスパークと音は激しくなり、バリバリと轟音を立てながら、まるで周囲の景色に照明を当て続けているほど連続し、水上駅に近づくと諏訪峡を挟んだ対岸を明るく照らしていたのを覚えている。多分M車に乗っていたと思うのだが、さすがにこれはヤバいだろうと感じ、パンタグラフが壊れかかっているものだと想像し、車掌に伝えたほうがいいのではないかとさえ思ったのだが、睡魔には勝てず、そのまま気づいたら終着の村上に無事に到着していた。あれが架線に付着した霜の現象だと知ったのは後のこと。当然ながらそういう冬季の対策はある程度なされているのだろうが、あんなのが毎日発生したのでは車両への悪影響も想像できる。そんな訳で令和の時代でもこのようなカッター車は存在するのである。

 前回の訪問から2週間が過ぎた。上越カッターの運転概況を毎日チェックしているが、かなりの頻度で設定があるようだ。また把握していた復路の9741レのダイヤも間違っていたらしく、中里到着後、すぐに折り返しということも分かった。気温が上がる前にリベンジせねばならない。前回と同じ時間帯に首都圏を出発。今回は第三京浜で環八を経て大宮へ。そこからは前回と同じルートで北上し、同じラーメン屋で飯を喰って、例の道の駅に到着したのもほぼ同時刻だった。本日は雪は降っておらず、気温もカッター車の出動を決めるといわれているマイナス3℃程度。仮眠を取り、また大沢駅にやって来た。今日も撮影者は数名おり、深夜で、しかもただの単行の機関車にこれだけ人が集まるのは10年前には予想だにしていなかった。




2023.2/17    上越線  大沢   EOS6D  24-105mm

 今回も1031号機。2週間前と同じく、ロクヨンは爆速で通過していったが、積雪は前回より明らかに少なく、いよいよ春が近づき、この列車も役目を終えようとしている。「あぁ〜リベンジは来年かぁ〜」と肩を落とす反面、生きる目的が1年延びた。さてのんびりしていられない。この列車の折り返し地点、越後中里駅を目指す。到着後数分ののち転線するとのことなので先を急ぐ。さすがにもう道路上に積雪は無いものの、氷点下の早朝なのでそれなりに気を付ける。そしてようやく中里駅に到着すると、先ほど以上のおびただしいクルマの数々で小さなロータリーは埋め尽くされていた。自分は恐らく一番最後に到着したため駐車場所探しに苦労する。何とか見つけて構内に駆け込むと、すでに下り本線の出発信号機は進行を現示し、機関車は新潟方の前照灯を点灯していつでも動き出せる態勢だ。大慌てで何度かシャッターを切ると、突然ブロアー音が大きくなり、ゆっくり動き出したロクヨンは闇へと消えていった。もう周囲にはほとんどテツは残っておらず、皆大急ぎでクルマに戻っていることから追っ掛けをするのだろう。




2023.2/17    上越線  越後中里   EOS6D  24-105mm

 今回はこれで切り上げることにする。楽しみは来年への持越し。さすがに三国峠越えはしんどかったので湯沢ICから関越トンネル区間だけ高速に乗り、月夜野から一般道へ。以前からここを通る度に気になっていた飯処へ向かう。津久田駅近くの国道沿いの有名な定食屋、永井食堂でもつ煮定食を頂きたかった。だいたいここ国道17号の群馬北部は深夜か早朝に通過することが多かったため、この店が営業している時間に訪問できるのは初かもしれない。上越線有名撮影地である桜の木カーブを過ぎて少し行ったところ。開店して間もない時間であるにもかかわらず、駐車場にはすでに多くのクルマが。店内に入り看板メニューであるもつ煮込み定食を注文すると、20秒もしないうちに提供されてきた。並なのにボリュームはバッチリ。味は言うまでもなく、驚かされるのは¥500ちょっとという破格設定。客の回転を重視するような少し殺伐とした雰囲気もあったので、メシの写真は撮らずじまいだったが大満足し店を出、またひたすら長い一般道を経て、ようやく生還した。