病み上がりの開放感は国鉄色で癒されよう  いすみ鉄道キハ52+28撮影ツーリング

2022.7/10

 7月になりすぐ、ついに流行り病に感染してしまった。某国のゲテモノ市場での騒動を発端としてから2年半、世間では、当初の正体不明の得も言われぬ不気味さや、命の危機があるという恐怖感はほとんどなくなり、他人事ではなくそろそろ自分も・・・という風潮になってきたそのタイミングでの感染だった。症状は初日に39.5℃以上の高熱と、人生で一番辛いほどの喉の痛み。それが3日間続くと喉はまだ痛いものの平熱になり、食欲も少し回復し、体がニコチンも欲しがるほどの余裕が出てきた。そうなると悪い意味で頭が回転し始める・・・。自宅療養期間は全10日。あと残り7日もある。6月末の猛暑は一段落しこれから普通の晴れの日が続くようだ。そんな初夏の陽気とは裏腹に、不自由ない体でこれから7日間、薄暗い自宅でじっとしている恐怖・・・。悪魔が耳元で囁いた。


「バイクで北海道に行っちゃいなよ」


「そうだな・・7連休なんて入社以来初めてだし、明日の大洗の夕方便で発てば、一周までは出来なくても道東、道北は行けるかも。この季節の北海道、サイコーだろうな・。で、でもダメでしょう! 昨日までコロナの症状のあったやつがフェリーに乗って旅行なんて!」


「フェリーには安い個室があるでしょう。

それにバイクなら3密にならないじゃん」


「そうかぁ・・考えればバイクとフェリーは感染対策には持って来いだなぁ。廃止の決まった留萌線末端区間や根室本線の富良野以南、函館山線も記録に残しておきたいんだよね。」


「いいね!国鉄色になったキハ183とか、

お前の大好きな深名線再訪とかどうよ?」


「そうそう!それ今考えてた!これら全部盛り込むと宗谷岬とかオロロンライン、知床峠や納沙布岬は難しいけど、テツ三昧で北海道を走り回るのも悪くはないな。7日もあるならガソリンコンロ持ってって自炊もできそうだし・・・、ってヤバいでしょ、会社にバレたら。懲戒までならなくても上司や部下から相当信用失うぜ」


「大丈夫だろ、自宅訪ねて来る人もいないだろうし

バレねぇよ」


「ま、そうだけど人としてどうかと思うのよ。他人に感染させるリスクは低いと思うけど、国がそうしてくれ、って言ってんだから国民として果たせることは果たしたいと思うんだ。もういい、帰ってくれ!!」

と、ここまで1時間。今振り返ると恐ろしい誘惑に負けそうになるところだったが、恥ずかしながら葛藤があったことは事実だ。それからというもの、自宅に備蓄食料はほとんどなかったため、細心の注意を払って徒歩圏内のスーパーで買い出しに出かけ、自宅に籠りながらテレビかYouTubeを視聴するか、調べ物をするか、はたまた飲食店の利用はもちろんコンビニさえも寄らないように県内をドライブしたり、こうして廃人のような数日間を過ごしていたが、自宅療養最後の日、ついに限界を迎えてしまった。なぜかと言うと、


日曜日なのである


 休暇を取ることがほぼ絶望的にあり得ない「日曜」を休めるのである。昨年、勇気を振り絞り、後ろ指を差されることへの覚悟を決めて取得した土曜日休みに、週末限定のいすみ鉄道国鉄型気動車を撮影した記憶は新しいが、今回再訪できるまたとないチャンスが巡って来た。自主隔離期間10日目のため本来は行動自粛しなければならないのだが、思い返せば発症した日が1日前だったような気がする? うん、そんな気がする。という訳で都合よく解釈していすみ鉄道へ向かうことにした。昨年撮影に訪れた際、どうしてもあの懐かしい乗り心地とエンジン音を体感してみたくなり、次回訪問した際は1往復でもいいから乗車することを決めていたのだが、流石に今回は遠慮しておこうと思う。キハ282346も今年11月に引退が発表されていることだし、撮影に徹してみよう。全行程で食事は摂らないことにして、出発前、自宅でソバの乾麺を大量に茹で、海苔をちりばめ卵を落とし、腹いっぱいになるまで掻き込む。そして9時半出発。アクアラインを突っ走り房総半島上陸。内陸を目指し、いすみ鉄道と小湊鉄道の接続駅、上総中野に到着したのは、基地のある大多喜から送り込みでやって来る普通101Dの通過10分前だった。国道から見下ろせるカーブのポイントには先客1名。前回と同様、週末限定とはいえ定期運行されているからか、撮影している「有難みを理解している人たち」は予想通り少数だった。




2022.7/10  いすみ鉄道 いすみ線  西畑〜上総中野   EOS6D 100-400mm

 夏の日差しを浴びながら終着駅に向けてラストスパートしてくるキハ52+28ペア。HMも付けていないし極上である。こんな光景も、間もなく見れなくなるだろうから、肉眼に焼き付けておかなければならないと、普段あまり使わないレリーズを付けて撮影した。と、そう言えば前回訪問時、貫通幌は28側に取り付けていたと思うのだが、今回は52に幌が装着されている。もしかするとこうして幌を付ける側を定期的に入れ替えてくれているのだろうか。だったら何というサービス精神。感謝しながら場所移動。今度はキハ28が先頭に立ち折り返してくる102Dだ。大多喜までのなんちゃって種別は普通扱いだが、ヘッドマークは出しているようだ。せめて普通の場合だけでもHMは取り外してくれないか・・・と贅沢な願望を思っているうちに、次のポイントに到着。春には桜並木でピンクのトンネルになる東総元だが、もちろん今の季節ではただの森。太陽光線もうっすらぼやぼやな感じになってきてしまい、20分前にはあれだけモチベーション高く一人興奮していたのがウソのようにテンションだだ下がり。しばらくするとかなりの鈍足でキハ28のマスクが近づいてきた。




2022.7/10  いすみ鉄道 いすみ線  久我原〜東総元   EOS6D 24-105mm

 ゆっくりと通過した102Dを見届けると機材をバイクのトランクに放り込み、即座に発進した。この後102Dはいすみ鉄道の中核、大多喜駅で4分停車したのちに急行に種別変更し大原を目指すのだが、急行とは言えども観光列車なので定期普通列車よりも足が遅く、この4分間を使い追っ掛けを試みる。また線路は大多喜市街をぐるっと取り囲むように敷設されているため、国道でショートカットをすれば楽々できそうだ。




2022.7/10  いすみ鉄道 いすみ線  城見が丘〜上総中川   EOS6D 24-105mm

 102Dを見送り、急行103Dとして折り返してくるまであと1時間以上。どうやって時間を潰そうか考えていると、どうもさっきから体調がおかしいことに気が付いた。とにかくダルい上に眩暈もするのである。自身普段の生活で眩暈とか立ちくらみのような症状は、酒を呑み過ぎた時以外全くと言っていいほど経験したことはないのだが、本日は酷暑の中の移動&撮影ということに加え、何よりコロナ発症後、しばらく食欲が全くわかず、ろくな食事を摂っていなかった期間が何日も続いたことも原因であろう。1日2食が基本で、朝、お茶漬け。夜、豆腐1丁に味噌をつけたキュウリ、なんてことを毎日繰り返してきたから当然だ。食生活の重要性を認識したところで、早めに103D撮影予定地に乗り込んで休憩でもしよう。選んだのは上総中川〜国吉間にある日本一有名な第四種踏切だ。しかし到着するとすでに4名ほどの方々が炎天下の下ですでにスタンバイされていた。普段ならばその一団に加わって列車を待ちぼうけると思うのだが、さすがに今日は無理そうだったので少し離れた木の陰で休むことにした。草むらに腰掛け少しウトウトし、ようやく通過時間がやってきたが、踏切まで移動する体力も無く、ここからの撮影で今日は〆ることにしよう。




2022.7/10  いすみ鉄道 いすみ線  国吉〜上総中川   EOS6D 24-105mm

 のんびりと走り去っていった国鉄型気動車ペアを見送ると、やっぱり乗ってみたい衝動が抑えきれなかった。大糸線で乗ったキハ52の乗り心地、20年以上昔、山陰線鳥取〜米子で乗車したキハ58「鳥取ライナー」の狂ったような爆走っぷり。どれもいい想い出だ。残されているチャンスはこの地のキハ52のみ。まだ各地で現役でもある40系列とは一味違う国鉄型気動車を味わえるのもあと少しのようだ。いつかまた訪れる日まで元気でいて欲しい。そう願い房総の地を後にした。

 翌日、11日ぶりの出勤。職場に到着すると開口一番同僚が放った一言に、大いに焦りうろたえてしまった。

「○○さん、自宅療養なのに遊びに行ってたでしょ!!」

「い、いや、バイクでち、ち、千葉になんか行ってないよ!!」

グローブの所以外の腕が日焼けで真黒だったのだ。