秋の伯備線国鉄色381系「やくも」

2022.11/21

 秋も深まり、紅葉の色づきのピークも少し過ぎた、晩秋のある日の深夜、国鉄色を求めて西に向かう高速道を爆走していた。

 実は3日後、自身入社以来最大の、仕事上超重大な案件が待ち構えていた。そしてその超重大な案件が決定した1か月ほど前から上司、部下を巻き込みながら協力を得、休日出勤はもちろんのこと、金銭的にも多額の資金も投じて様々な修繕、必要以上の物品の調達など、時間と金を最大限に投資し、優先順位1位としてその案件を迎える準備を進めてきた。しかし、昨日。上司から一本の電話が。「あ、例の件、キャンセルになったから」・・・人目もはばからず膝から崩れ落ち、頭が真っ白になった。「この1か月何だったのか? 時間と金を返せ・・・」 しかしその3秒後にはもう別のことを考えていた。実はその重要案件の準備のために直前に自由に動けるよう、2連休にしておいたのだ。もうニヤニヤが止まらない。明日から本当の2連休だ。上司からの非情な電話を切り、まずしたことは中国地方の天気概況確認。明日は晴れ、明後日は曇り。もう今夜出発するしかなさそうだ。ひとまずその日の勤務を終了し、秒速で自宅に帰り、撮影機材、他必要物資をクルマに放り込み、自宅を出発したのは22時過ぎ。上司からの連絡を受けたわずか3時間後のことだった。

 新東名に入りすぐに120km/h制限区間。新車で購入してから1年。ほとんど使うことのなかったクルーズコントロールをぴったり「120」に設定し、車線追尾機能もON。追い越しする時だけハンドルを操作する程度の半自動運転となり、とんでもない速度で距離を稼いでくれる。おかげで深夜遠征の大敵である睡魔と疲労も全く感じることもなく、自宅を出て最初の休憩は滋賀県大津SAという自身連続最長走行記録である428kmを達成してしまった。また前回の伯備線詣ででは新車であるためタバコ休憩はいちいちPAに立ち寄って一服していたのが、半年前電子タバコに切り替えたため、走行しながらのニコチン接種が可能となったことも連続運転を可能にしてくれたのだ。大津SAではおにぎり1個とブラックコーヒーを調達。再び漆黒の高速を西に飛ばし、次の停車は本日の目的地、岡山道総社SAとなった。時刻は4:30。4時間程度仮眠できそうだ。

 アラームに起こされ目が覚めた。空は見事なまでの秋晴れ。今日の撮影の意欲が高まる。SAを出発し次の賀陽ICで高速を降り、いよいよ伯備線沿線へと入る。しかし標高の高いIC付近では、雲一つない快晴だったのが、夕べ雨が降ったせいもあってか、高梁川沿いの伯備線沿線に降りてくると、霧が谷を覆っていた。曇りというよりも太陽光を遮って薄暗いほど。車内で聞いたラジオの天気予報では濃霧注意報が出ていたくらいだ。迂闊だった・・・。意気消沈しながら本日の第一撮影地である井倉の鉄橋に「やくも8号」通過30分前に到着。先着1名。あとから1名の計3名で陣を構えた。「いや〜期待できないっすねぇ」と先客の方。互いに天気を恨めしく思いながら、やがて3080レがやって来た。今日のカマは更新色であるので、一応記念と練習にと、撮っておくことにした。




2022.11/21   伯備線  井倉〜方谷  EOS6D  100-400mm

 予想に反してまさかの原色! 根拠はないがなんだか展開が好転しそう。やがて8号通過10分ほど前になると、空の霧は晴れないものの、何となくさっきより明るくなっているように感じた。マニュアルでセットしておいた露出も2/3ほど上がっている。3人で背後の太陽の方角を仰ぎ見る。極わずかに晴れ間も見えだしてきた。3分前。鉄橋に光が当たりだしたものの、まだマンダーラ。そしていよいよ踏切が鳴り出すと、徐々に雲の影が消え始めてきた。「まだ来るな!もうちょい待て!」 そう願っていると381のマスクがカーブの奥から顔をのぞかせた。と同時にスポットライトのように光に照らされる橋梁。そしてついに・・・!




2022.11/21   伯備線  井倉〜方谷  EOS6D  100-400mm

あと通過が15秒早かったらこうならなたかっただろう。逆パターンは何億回も経験してきたが、こんなこともあるんだ! と3人で感動し、気持ちよくそれぞれ別の撮影地へと向かった。ひとまず腹も減ったので近くのコンビニでおにぎりを購入し作戦タイム。少しピークは過ぎているとはいえ紅葉も美しいので、手堅い撮影地もいいけど光と紅葉が織りなすコントラストをメインに国鉄色を絡めるのも美味だろう。いったん今日通って来たルートを戻り、車内からロケハン。ここもいい感じ、あぁーここもきれいだ、という地点を何か所かピックアップしているうち、備中川面まで来てしまった。カーブした鉄橋が有名な撮影地だ。前回春に訪問した時は南側から8号を撮影したが、反対側はどうなっているのか確かめることにした。狭い農道が入り組んだ畑作地帯のため、少し離れた国道にクルマを止めやって来ると、見事なカーブだった。時間的に正面に陽は当たらないが、ブリンッと体を傾けて振ってくる381が想像できてしまう。ここにしよう。まだ時間まで1時間近くあったが、キャパシティもそんなにない撮影地なので、すぐにセット開始。付近には多くのテツ車が止まっていたが、先客は1名のみ。他の皆さんは一体どこで撮影しているのか? そして待つこと1時間、太陽も本日最高高度の位置に昇りつめ、少し暑いくらいだ。通過前の練習電は2両編成の1本のみだったので6両が全て写りこむかは不明のまま、静かにその時を待つ。この緊張感が心地いい。




2022.11/21   伯備線  備中川面〜方谷  EOS6D  100-400mm

 マスクに陽は当たらなかったが、腰をアウトカーブに向けて疾走していった381は、まるでバイクのコーナリングのようで非常にクールだった。さて・・・この後の行動はどうしようか。今回のメインテーマである381国鉄色は、次は折り返し「やくも24号」でやって来るのだが、出雲市発15:30、米子発が16:26であり、この季節で伯備線内での撮影は難しいと思われる。なるべく起点の出雲市に限りなく近いところまで移動し、迎え撃ちたいのだが、そのためには24号までの間に上ってくる貨物3084レ、8086レに付き合っていると時間的に厳しいことが予想される。なので貨物撮影は諦め、24号一本に絞ることにした。一気に米子方面へ抜けるため伯備線沿いの谷田峠(たんだだわ)ではなく、伯備線から大きく逸れた国道180号で北上する。途中30分ほど仮眠し米子市街に入り絶賛無料開放中の山陰道で西を目指す。ここに来るまでの休憩中、山陰本線電化区間の撮影地をいくつか検索してみたのだが、午後の遅いこの時間、順光になりそうなもののコレといったところが無く、カーナビとグーグルのストリートビューと、自身の培ってきた勘を頼りに2地点候補を絞り込んだ。全線無料と思っていた山陰道だったが一部区間で有料になり、玉造ICで一般道へ降り、目星をつけておいた1つ目の候補地へ向かった。ポジションに立ってみると、なかなかいいではないか。やや障害物がうるさくその処理が難しいと思われたが、候補2つ目はただの編成写真の撮影地だったので、迷わずここを選んだ。




2022.11/21   山陰本線  来待〜玉造温泉  EOS6D  24-105mm

 西陽に照らされ宍道湖畔を行く24号が通過すると、気温が急激に下がってきた。今日はわずかな睡眠時間と一日中の行動で疲労しており、こんな時は温泉だ。すぐ近くの玉造温泉の風呂に行くと、ちょうど定休日。仕方なしに混雑する国道9号で米子へ向かい、市街の皆生(かいけ)温泉で一日のホコリを流す。そしてわざと我慢してきた空腹も最高潮。メシを旨く頂くコンデションになるよう一日整えてきたのだ。この温泉からすぐの距離にあるラーメン屋が超人気店とのことなので、楽しみにしながら歩いて向かっていると、またもや定休日。月曜ってそんな日だったか、と少し疑問に思いながらも、前回4月にも訪問した米子ラーメンの店で大盛+ライス+餃子のセットに大満足し、本日の宿泊場所へ向かった。明日の朝の撮影に都合のいい、道の駅「奥大山」に到着。今回もガソリン節約のためマット、寝袋、いつも使用している枕を持ってきた。まだまだ寝るには早い時間だったので、テレビを見ながらビールを呑み、つまみを喰いながら酩酊してきたところで、寝袋にもぐりこんだ。


2022.11/22

 翌朝、予報通りの曇りとなった。その上霧が濃い。そのため晴天時には逆光になるポイントも撮影できてしまうのだ。というわけで黒坂の跨線橋から一発目をやってみよう。




2022.11/22   伯備線  黒坂〜上菅  EOS6D  24-105mm

 暗いな・・ていうかフレーミングをミスってしまった。機材をしまいこみクルマに戻ろうとした時、突然あることに気が付いた。「ここ来た事ある!」 記憶がどんどん蘇る。夏季多客時に増結される編成が国鉄色だったので、それを撮影しに18きっぷで訪問。地図で発見したカーブした線路を国道が渡るということだけで撮影できるものと信じ、黒坂駅で下車し、延々国道を歩いてきたのだ。早速帰ってから昔の記録を見て見よう!




1997.8/15   伯備線  黒坂〜上菅  EOS55  28-105mm

 ありやした! 1997年8月だったので25年振りの再訪だった。記録によると18きっぷで日中の東海道線をひたすら下り、京都でEF58150牽引(!!)の臨時快速ムーンライト八重垣(!!)に乗車し、なぜか早朝の根雨駅で途中下車。その後やって来た普通列車に乗って生山でまた謎の途中下車。写真がないことから時間つぶしのためと思われ、ようやく米子へ。松江から木次線直通で備後落合。時間つぶしのためか芸備線内名駅まで往復。備後落合から三次に移動し、三江線の宇津井で駅寝の予定だったものの、芸備線が雨の影響で遅れ、三江線最終に接続できなくなり、そのまま広島へ。宮島連絡船の最終便で宮島に渡り野宿し、始発便で本土へ。西に向かい山口県厚狭駅で乗り換え、石灰石輸送の美祢線貨物(!!)を撮影。8時間近く沿線を歩き回って夕方、厚狭駅に戻る。どうしても風呂に入りたかったので、厚狭駅、小野田駅、下関駅まで足を延ばし銭湯を探し求めるも失敗。諦めて上り臨時快速ムーンライト九州(!!!)に乗車し、早朝の岡山駅に到着。そして「やくも」撮影となったのだ。全国の普通列車の地域色が進んだのが分割民営化から90年代初頭であり、遅れて優等列車の地域色も広がっていったのがこの頃で、薄気味の悪い新やくも色に置き換わる前に、増結時期を選んでの訪問だった。このようにお盆期間や年末年始に運転されていた夜行快速列車も多数あったので、宿代わりにしていた18きっぱーも多数おり、毎夜京都の各ホームには列車待ちの長い行列がいくつもできていた。14系シュプール編成も使用した博多行きのムーンライト九州、その兄弟関係にある下関行きムーンライト山陽、14系寝台車も連結していた出雲市行きムーンライト八重垣(旧:山陰)、12系の独壇場だった高知・松山行きのムーンライト高知・松山などのムーンライトファミリーたちが続々と各地へ出発していった時代だった。




1997.8/15   伯備線  黒坂  EOS55  28-105mm

 さて時代を現代に戻そう。8号を撮影しクルマへ戻り、後を追うようにして谷田峠を越え新見市街へ。コンビニで昼飯を喰いながら返し9号の撮影地を考えていた。峠を越えてきても岡山県側も一日雲りの予報。ならば、あの場所へ向かおうか。前回訪問後に知った撮影地なのでロケハンついでに撮影もしよう。「井倉俯瞰」もしくは「第7高梁川橋梁俯瞰」。 本来、ここで順光の国鉄色381を押さえるには朝の「やくも8号」を後追いでやるのが一般的だが、曇りならそんな制約は不要だ。国道から折れ、急勾配とヘアピンカーブの連続する道をひたすら上ってゆく。上って登って昇ってようやく平坦な道になると集落が現れた。スゴイところに集落があるもんだと少し驚きながら、某施設に到着。建物は現在改装中なようだが、目指してきた展望台は特に立ち入りを制限されているようなものは無かったので、遠慮なくお邪魔させてもらう。展望台にあがる鉄製の階段は腐食が進んでおり、床の鉄板が錆で穴が開いているよなところもあり、381引退を待たずして閉鎖されてしまうかもしれない。そしていよいよデッキに出てみると大迫力。とにかく「スゲェー!!!」の一言。蛇行する高梁川沿いに沿うように線路と国道と集落が形成され眼下に望める。調べてみると線路付近との比高はなんと250m。晴れていて順光であればさらに素晴らしいスーパー俯瞰になるのだろう。なので曇りである本日は先客の姿は全くなかった。






2022.11/22   伯備線  方谷〜井倉  EOS6D  100-400mm

 危なく6両ギリギリといったところ。ここは絶対に再訪確定だ。今回の旅の最後のショットを頂き、帰路に就くことにする。今回は良い意味で満足しなかった成果となった。次回に課題を残すことで再訪のモチベーションに繋がるからだ。という訳で山を降り、総社ICからまた長い長い行程の始まりである。ETC深夜割を狙って高速を降りる直前のSAで時間調整をし、目的のインターは無事0:02分に通過することができた。



井倉俯瞰展望台付近の紅葉がキレイだった。

 今回の総走行距離  1740km  終了。