伯備線に国鉄色が復活。381系を追い遥かなる旅路。

2022.4/18

 住処である関東地方を出発して7時間。目的地一つ手前のSAに到着するころには空も随分明るくなっていた。昨夜仕事が終わり出発準備を整え、東名高速に乗れたのは23時。とにかく目的地を前にして睡魔による運転中止を避けるのと、現地到着してから少しでも仮眠時間を稼ぎたかったので、新東名では全区間、燃費の極端に悪くなる120km/hのクルコンを発動し、また途中休憩は2回ほど。しかも一服しただけの10分にも満たない休憩だったため、平均すると100kmの距離を1時間の表定速度で走り切ることができた。ここは岡山県山陽道瀬戸PA。サンライズにはさすがに追い付かなかったが、無事2時間ほどの仮眠を取って現地に向かうことにしよう。

 本日の物件は来年度の引退が決まった、最後の国鉄型特急、381「やくも」である。2カ月前、その後藤車両所所属の381系E7編成6両が国鉄色に復元されたという情報を知った時は、思わず声が出てしまったくらいの衝撃だった。キハ181「はまかぜ」、583「きたぐに」の引退の際、復元色を期待するマニアの声は届かず、国鉄型特急を葬り去ったJR西が、ついにこの381でやってくれたのだ。さらにその国鉄色381系E7編成が充当される運用が限定、公開されており、それによると「やくも」8.9.24.25号に就いて毎日出雲市〜岡山間を一日二往復するそうなのだが、25号については全線夜間走行のため撮影は不可、撮影できるのは日中の3便になるのだが、出雲市7:21〜岡山10:35の8号を撮影するには朝イチの新幹線+レンタカーで乗り込んだとしても、伯備線らしい情景がいただけそうな沿線深部までは間に合わないだろうし、高速バスorサンライズで現地に到着したとしてもレンタカー屋が開く時間には、すでに「やくも8号」は高梁川沿いのコーナーを高速で攻めている頃だろう。「8号捨てて9号から撮りゃいいじゃん。」なんて微塵も思っていない。せっかくの遠征になるのだから、少しもカットを稼いでおきたいというのが人情だ。

 というわけで鬼のマイカー終夜高速連続運転で捻出した2時間で仮眠をし、いよいよ目的地へと乗り込む。到着したのはカーブが美しい備中川面のガーター橋。すでに5名前後、通過直前には10名ほどの同業者が集結した。そしてスタンバイを完了して思い返した。国鉄色特急を最後に見届けたのはいつだろう。今から6年前、正月の多客臨として磐越西線で運行された485系仙台車だ。久しぶりに再会するクリーム4号+赤2号の登場に高鳴る鼓動を抑えきれなかった。




2022.4/18  伯備線  方谷〜備中川面   EOS6D 100-400mm

 貫通扉付きの変顔クモハ381が少し残念ポイントであるが、先月出場したばかりの美しい特急色が眩いくらいだ。国鉄時代から変わらないイラスト入りヘッドマークも誇らしげに急曲線を高速で通過していった。いや〜本当に来て良かった。さて、8号を撮影した後は岡山で折り返してくる9号まで大分時間があるため、600km以上の連続走行で使い果たしそうな燃料を給油して、人間にも給油。クルマも人も余裕が出てきたので次の撮影地を考え始める。伯備線は自身あまり詳しくないし、これから何度か通うことになるだろうからと初回は有名撮影地で押さえてみようと思っている。これからやって来る9号は出雲市に向けて北上する列車なので、なかなか正面に日が当たらなそうに思えたので、逆光覚悟のポイントへ向かうことにする。まぁカーブの多い伯備線なので北上する便でも探せば順光スポットはあるだろうが、それは次回以降の課題としよう。やがてその逆光ポイント到着。歩道も無いほどの国道沿いからの撮影なので、大分離れた駐車帯にクルマを停め、行き交うクルマギリギリの路肩を歩きながら、到着することができた。




2022.4/18  伯備線  井倉〜石蟹   EOS6D 24-105mm

 新緑の美しい季節はもうちょっと先になりそうだが、急勾配とカーブの続く難路線を克服するために与えられた装備を存分に駆使し、華麗にう通過してゆく国鉄型特急は、北国の重い雪を蹴散らして進む485系に通ずる美しさがあった。振り子式という特殊な機能を身に着けるため、重心を低くすべくすっきりとした屋根上は、機能美と言う他は無い。まるでひとつのショーでも見終わったかのようにその場で余韻に浸り、また移動を開始した。ところで381国鉄色復活の報を受けたとき、撮影の合間にこちらもまた原色で活躍しているEF64の貨物の撮影を合間に楽しめるだろうと期待していたが、どういういう訳か本日貨物はすべて運休だったため、次の24号までかなり時間が空いてしまった。なのである場所へ遊びに行ってみることにした。芸備線である。つい先日、JR西が各線区の営業係数を発表し、多くのテツ含む社会全般に大変な衝撃を与えたことがあった。その中でも中国地方のローカル線、とりわけ芸備線の県境区間はダントツで、営業係数は驚愕の25000以上、輸送密度は10人/日という、国鉄時代日本一の赤字線として知られた北海道美幸線の4700、24人/日を遥かに凌駕する結果だった。道路整備、過疎化と、地方ローカル線はJR化後も加速度的に採算は悪化している。災害などで復旧を断念し続々と廃線になっているのもここ十数年続いている。そんな訳で芸備線の県境区間である東城から備後落合まで乗ってみようと思って調べてみると、1日たったの3往復。ちょうど昼の便で往復できそうではあったものの、この後の「やくも24号」の撮影にはギリギリになりそうなことが判明。クルマで沿線を見て回ることにした。まずは芸備東線の中心駅である東城から一つ目の駅、備後八幡駅にやって来た。




赤い瓦と木造駅舎。恐らく駅務室だけ撤去されている模様。




交換設備もあったようだ。当然この時代には撤去済み。




懐かしい全国どこにでもあった木造駅舎の待合室。




モルタル造りの「THE・厠」




鉄道資産標が残っていた。御年88歳。もちろん開業時から残っているものだ。

 ひとしきり雰囲気を楽しみ次の駅に向かおうか。輸送密度日に10人てどんな秘境かと思っていたが、駅周辺にはそこそこ民家もあり、人間の営みが感じられる。次の内名駅もこんな感じかと想像しながら線路と並行する川沿いの道を進むが、これがとんでもなく狭い。離合するようなスペースもさっきからなさそうだし、万一対向車に出くわしたらお終いだ・・・。と心配しながら進んできたものの、1台のクルマはおろか、人にも出会うことが全くなかった。そんなこんなで到着した内名駅は集落が近い訳でなく、休耕の目立つ川沿いの低地より少しあがった場所にあった。




1日3往復のこの路線。まだ14時であるが次に来るのは最終列車。




乗降ゼロで出発。乗客は3名ほど。しかし全員旅行者のようだった。




ついつい観察してしまうローカル線駅のトイレット。瓦葺とホーロー看板がいい味出していた。

 18きっぷのシーズンとかになればもう少し乗客もいるだろうが、この本数と利便性じゃ、言って悪いが完全に時代遅れの負の産物のように思える。乗らなかった自分が言うのも何だが、趣味人としていつまでもこの情景を残してほしい・・と口にするのもはばかられるほど、事態は想像以上に深刻なのだろう。さて、今行った列車を追って芸備線県境区間の何駅か見て回りたかったが、ここで時間切れ。新見に戻り国道180号で米子を目指す。まず向かったのは大山バックが雄大な、岸本の河川敷だ。朝からほぼ快晴の一日で、これが夕方まで持つかどうか懸念していたが、無事16時を過ぎても保っていてくれて、なおかつ雄大な大山の全容がくっきりと見て取れる。川べりの土手に腰を降ろし、本日3回目のE7編成「やくも24号」を待ちわびる。通過時刻は16:40頃。この季節だと夕焼けの時間にはほど遠く、微妙な西日の光線の中をやってくるはずだ。遠くで踏切が鳴っているのが聞こえる。静寂が支配する田園風景の彼方からジョイント音が近づいてきた。かなり速度が出ている、と思うや否やファインダーに国鉄色が高速で飛び込んできた。




2022.4/18  伯備線  伯耆大山〜岸本   EOS6D 100-400mm

 ほぼ全速力と思われる381はあっという間に駆け抜け、再び静寂が周囲を支配した。本日の撮影は終了。はるばる中国地方まで来てたったの3カットの撮影だったが、非常に有意義で本当に来て良かったと思う。さてこれからは風呂→メシ→酒→寝るの旅のお楽しみの時間だ。こういう旅も久しぶりだ。早速付近の風呂、または温泉設備を検索すると、この撮影地からわずか1kmも無いところに日帰り温泉がある。公営の施設なのかとんでもなく安い料金だったがとてもキレイな施設で、1時間ほど滞在後、メシを求めて米子市中心部へ。今日はなんとなくガッツリ肉系で行きたいと考えそれらしき店を探そうと市内を徘徊していたが巡り合うことは無く、そうこうしているうちに口がラーメンの口になってしまい、所々で見かけた名物という「米子ラーメン」の店に入店。あっさり豚骨系の喰ったことのあるような味だったが、まぁまぁ旨く、コンビニで酒類を購入して山間部へと分け入った。今夜は生山駅に近い道の駅「日南」。九州の日南ではなく、こちらは米子で日本海に注ぐ日野川の南ということらしい。多分。そして就寝前はテレビでも見ながらマッタリするつもりでいたが、あまりにも奥地に来てしまったためテレビ電波は受信できず、またこんな時にとポケットWi-Fiも準備してきたがこちらも圏外。あまりにもやることが無くなってしまったので酒を呑んで寝袋に入ると1分と経たず泥のように眠りこけてしまった。

2022.4/19

 翌朝、フルフラットになるはずの後部荷室の3cmほどの段差が一晩中気になり、夜中何度も目覚めて熟睡することができなかった。自販機でコーヒーを購入し移動開始。ここからほど近い伯備線サミットの区間で「やくも9号」の撮影地を探したい。標高もそれなりに高いため、所々に咲き遅れている桜もあるのでそれと絡めたいところ。走りながら桜を見つけると県道を曲がってはアングルを考え、それを3回ほど繰り返しているうちに時間切れ。仕方がないので下調べ済の有名な大カーブへと向かった。通過15分前にセッティング完了。春の朝の心地よく清々しい空気を楽しみながら一息ついていると、背後から列車が近づく音が聞こえてきた。この時間に下り「やくも」ってあったかな・・・とファインダーを覗き込むと、姿を現したのはサンライズだった。この時間ではとっくに米子に到着しているのだが、どうやら遅延してしまっているらしい。有難く頂戴しよう。




2022.4/19  伯備線  生山〜上石見   EOS6D 24-105mm

 光線状態も良い山間のカーブを往く優等列車は存在感抜群で大変満足した。しかし、プレビューで拡大してよ〜く見て見ると、ん?



 遠目では全く気が付かなかったがケーブルが手前側にあったのだ! 注意すれば気が付けたであろうがあまりにもアホ過ぎる。このケーブルは画面左から外れた2つ目の架線中で終わっており、どうやら50m程度移動したところが定番ポイントだったようだ。ていうかもう時間がない。遅れサンライズがいるとは言え定期優等列車である「やくも」を遅延させるわけがないだろうから、遠くの生山駅で交換するのではなく、すぐそこの下石見信号所でサンライズが「やくも8号」を退避させるため停車し、8号は定通させるはずだ。通過時刻まであと5分。移動はやめて後でレタッチすることにし諦めた。




2022.4/19  伯備線  生山〜上石見   EOS6D 24-105mm

 無事?8号の撮影を終え列車の後を追い、伯備線も越える谷田峠をパスし、新見市街へ。昨日も寄ったコンビニで遅い朝飯を喰い、9号を撮影したら帰還しよう。24号まで撮影してしまうと夕方出発の600km以上の大移動となってしまうため、明日の仕事に影響するからだ。9号の撮影場所は、昨日往路で確認していた方谷の川べり付近。通過時間ではギリギリ順光になるかどうかといったところだったが、川幅が広くなりゆったりと水をたたえる高梁川の流れは穏やかで、水鏡が行けそうな予感。まだ時間があったため先ほどクルマをUターンさせるためにお邪魔した、方谷駅の駅舎がいい雰囲気を醸していたため、一度戻って見学してみることにした。




方谷駅。登録有形文化財に指定されているとのことだ。渋すぎる。




木造の荷物台も残存。ICカード読取り機のため改札のラッチが撤去されているのは残念だ。




2022.4/19  伯備線  方谷〜井倉   EOS6D 24-105mm

 通過直前、ほんの少しのそよ風で水鏡成功とはならなかったが、天候と被写体とロケーションに恵まれた2日間だった。381系撤退まであと2年はあるとのこと。紅葉、雪景色、春の色づきなど、どこをどう撮っても画になるのだろう。また今回は出会えなかった64貨物も必ず頂きたい物件だ。最高だぜ伯備線! 再訪は果たすつもりでいるが、遠いんだよな・・・。3連休が取れれば公共交通で楽して乗り込んでやろうと思っている。