かつての北陸本線・信越本線で、455+475系試運転トキメキ祭り

2021.6/18

 ようやく関東地方が梅雨に入った6月中旬。翌日休みが取れそうになったので、早速ネタ探しを始めた。そして探し始めて数分。関西地方で運用に就くため、日中の東海道線を特大車=シキが回送されるらしい。シキは人生初経験の物件。積み荷のない回送なので積載状態の迫力まではいかないだろうが、全長26m、自重だけでも63tと超巨大わがままボディが地元東海道線を午前中下るらしい。牽引するのは当然新鶴見区のEF65。最近では国鉄色のカマの方が多数を占めているので、確率高く国鉄色+シキの姿を頂けるかもしれない。そうとくれば詳細なダイヤ、撮影地なども調べ始めると、たまたま明日、見過ごせないネタをもう一本発見してしまった。

「えちごトキメキ鉄道 455系試運転」

 JR西より譲渡され、美しい交直色に塗りなおされた455系が直江津〜糸魚川、妙高高原をそれぞれ往復されるとのこと。来月からは観光、イベント用としてしばらく活躍し定期的に姿を拝見できるように思われるのだが、よりによってそういう列車は世間一般の休日に設定されるため、この業界に身を置いている自分としては、今回を逃せば近くて遠い手の届かぬ存在になってしまいそうだ。現にいすみ鉄道のキハ52も、平日の試運転を撮影してから、週末の営業列車を撮影したのは10年経ってからだった。この業界、それほどカレンダーの赤の日に休むことは勇気と罪悪感、周囲への配慮など、様々なハードルが待ち構えているのである。

 そんな訳で個人的にはシキより難易度の高い、455試運転に向かうことにした。現在時刻は23時。すぐに支度をして練馬ICを目指した。何年振りの関越道だろうか。こうして夜中、特雪や485を撮影するため何度も深夜の関越道を北進したことが遠い昔のようで懐かしい。藤岡JCTから上信越道へ分岐し長野方面へ。ところで本来このようなネタ列車のスジなどは公開されないケースが多いのだが、今回の455系試運転は時刻も公式HPに公開されており、その意図として「趣味を通じて人生を豊かなものにしていただきたい」と社長の想いがつづられていた。撮りテツマナーの悪さがメディアを賑わせている昨今。こんなお言葉を頂いてしまったからには絶対に裏切るわけには行かない。自分が、ではなく皆んな、がである。我々撮りテツが試されていると言ってもいい。全員空気を読んで「いい一日だった」と言える日にしよう。

 試運転列車の直江津出発は11時過ぎとまだ時間の余裕があったので、高速料金節約と睡眠時間確保のため、手前のどこかで一般道に降りようと悩んでいるうち、順調に長野市内までやってきてしまった。小布施PA併設のスマートICで流出。国道18号線で峠を越え新潟県に入り、道の駅「あらい」に到着したのは午前3時過ぎだった。

 翌朝車内の暑さで目が覚めた。空は雲が少し程度の晴れ模様。今日一日の撮影に期待できる。一服ののち道の駅を出発。国道8号線を左に折れ、日本海をみながら目的地へと急いだ。今回最初の試運転区間は直江津〜糸魚川間ということもあり、ご存知の通り厳しい気候条件からほとんどが長大なトンネルで貫いているため、撮影箇所は限られてくる。しかし両手両足の指を使っても数えきれないくらいに訪れたこの区間。まさに庭同然であった頃もあるので、初め試運転のダイヤを拝見した時、すぐに撮影場所と時間的余裕から、ものの30秒で計画が出来た。そんな同区間、限られたある撮影地のお立ち台に到着すると、すでに10名ほどの同志がスタンバイされていた。「こんちは〜」と集団に加わると、皆和気あいあい、行儀よく社長の言いつけ通り、今回のターゲットがやって来るのを心待ちにした。




2021.6/18   えちごトキメキ鉄道  日本海ひすいライン  谷浜〜有間川   EOS6D 100-400mm

 かつて485系「北越」や489系ボンネットによる代走「はくたか」、その他多くの名立たる列車が駆け抜けたこの路線。今となっては貨物列車と1両の気動車が細々と営業に就いているのみだが、3両と短いものの堂々国鉄色を纏って疾走している姿を目撃してしまうと、なんだか感動、というよりも感謝に近い気持ちになっていた。通過後の余韻を楽しみながらプレビューを拡大し覗いてみると、ヘッドマークには「越後」の文字が。大阪〜新潟を結んでいた伝統ある急行の名称で、試運転でありながら、こういうところが本当の「粋な計らい」ということだろう。
 さて感動はそこそこに次の糸魚川から返却される直江津行の撮影場所に移動しよう。ここからは至近の距離でもあるし、また1時間後の通過なので、途中コンビニで遅い朝飯を買ったりしながら、有間川の漁港を俯瞰できる「たにはま公園」にクルマを寄せた。いまから13年前、北陸本線のこの区間を臨時のキハ58の団臨を撮影した際俯瞰した場所だ。当時はまだこの公園は整備されておらず、麓の民家の裏から道なき道を泥だらけになって登坂したことがあったが、現在ではもう丘の上に広大で立派な公園が整備されおり、その展望台からお気軽に撮影できてしまう。駐車場にクルマを停め、シロツメクサが咲き誇る芝生の上を歩くと、眼下に雄大な風景が広がった。まだまだ時間はあるもののテツは20名ほど。皆のんびりと芝生に寝そべったり談笑しながら至福の時を過ごしていた。すると、その我々の心の油断を天は見ていたのか、いつの間にやら雲が辺りを多い初めてきた。レベル調整に使っていた水平線も危ういほど。何百回と経験してきたいつものアレになってきた。




2021.6/18   えちごトキメキ鉄道  日本海ひすいライン  有間川〜谷浜   EOS6D 100-400mm

 想像していた通り、直上の太陽は姿を隠し、人生で何千回と口にしてきた「さっきまで晴れていたのに・・・」と落胆するも、そのヒマはない。展望台の反対側は谷浜方が遠望できることに今回初めて知った。13年前ではあり得なかったアングルだ。すぐに三脚を担いでダッシュ。高速でセッティングを開始した。




2021.6/18   えちごトキメキ鉄道  日本海ひすいライン  有間川〜谷浜   EOS6D 100-400mm

 列車がSカーブの向こうに姿を消すのを見届けてすぐに出発。試運転列車は直江津で15分程度で折り返し、後半戦として今度は妙高はねうまライン、つまり山線へと進路を取る。近くの名立谷浜ICから高速に乗り、中郷ICで降り、関山駅へと向かった。編成写真もバチッと撮っておきたいので、もう場所はあそこしか考えられなかった。最後に189を撮影してから7年ほど経っているため、若干アプローチ方に手こずったが、何とか通過15分前に到着。すでにスタンバイしておられた3名の同志たちに加わることにした。今日の谷浜、有間川と同様、ここの同志たちもとてもフレンドリーで、社長の想いに皆応えたかのような人々だった。




2021.6/18   えちごトキメキ鉄道  妙高はねうまライン  二本木〜関山   EOS6D 24-105mm

 良き良き。微妙な空模様で、交直電車の証、ローズピンクがイマイチ映えなかったが、山線らしい防雪林をバックに、列車はサミットの妙高高原を目指して坂を上っていった。さて、いよいよラストである。妙高高原折り返しは17分と短く、先を急がなければならない。山線下りの撮影地といったらあそこだ。本来なら午前中順光になるお立ち台だが、今日みたいな曇りであればこの時間でもある程度収穫は望めそうだ。




2021.6/18   えちごトキメキ鉄道  妙高はねうまライン  関山〜二本木   EOS6D 24-105mm

 バックの妙高山は姿を隠したものの、雄大なロケーションを快走する国鉄型急行電車の姿は美しかった。本番運転を乗車、撮影することは多分叶いそうにないが、仕事を辞めるか、心の病で休職などに罹れば経験できそうだが、それまで無事に何事も無く走っていて欲しいものだ。この後、本日の収穫に満足し、近くのインターから高速に乗り帰郷。最近よくあるパターンである撮影前後の急激な便意を警戒して朝からほとんど食べていなかったので、どこかのSAでガッツリ、ラーメン+カレー、しかも濃く煮詰まったカレーを喰いたかったので、長野県内のあるSAに入ると、そば+カレーしかなく、仕方なく次のSAに移動してもそば+カレーのみ。名産だからだろうか、しょうがなく群馬に越境したころ、ようやく目当ての豪華セットにありつくことができたのだった。