仙台車 最後の国鉄色485系、正月多客臨撮影で験担ぎ!

2016.1/4

 準備を整え自宅を出発したのは午前2時を少し回った頃だった。近くのインターから首都高に乗り東北道をひたすら北に目指す。出発して2時間。あまりの眠さについに運転に危険を感じ、次に現れたパーキングエリアにピットインしてシートを倒し少し眠ることにした。宇都宮の手前、大谷PAだった。本日の目的地は磐越西線。年末年始に運転される485系多客臨「会津ふるさと冬休み号」がターゲットだ。昨年春まで運行されていた「あいづライナー」の3往復体勢は成りを潜め、郡山〜会津若松を1日1往復するだけの寂しい内容になってしまっている。得意の追っ掛けは磐越西線の線形の妙と、並走する国道49号線の流れが比較的良いこともあって、相手が快速であろうとギリギリ追っ掛け撮影が可能であることは知っているのだが、本日はそれをせず別の目的があった。その目的とは、往路はつい先日、下調べも良くせずに勘だけで突入し、大敗退した中山宿俯瞰のリベンジ。ただこれだけだ。追っ掛けもせず一発の撮影であるので、当初は早朝の新幹線で向かうことにしていたが、前日の仕事が終わり自宅に帰ると、予想外に元気で、このまま会津の地まで自力で到達できるような気がしてしまい、急遽クルマでの参戦となった。とはいっても往路は11時過ぎに郡山発ということもあり途中で仮眠を取りながらでも十分のんびり向かえるのだ。天気予報では正午頃の郡山市は「晴れ」。会津若松市は「雨時々曇り」とのこと。撮影予定である中山宿まさにその中間地点なので、リベンジ達成の可能性は50:50といったところだ。


2016.1/2
・・・その前に「先日敗退した」と書いたが、実はおとといの1月2日のことだった。出発したのも今回と同じ日付が変わったころ。そして気を失ったのも同じ大谷PAだった。この時は仙台から郡山への送り込み回送も撮影しようと第二回とは違い、大いに急いでいたのだが、目を覚ますとすでに送り込みには間に合わない時間。仕方なく往路、1本に賭ける事にして、急遽、写真でしか見たことのない中山宿俯瞰を攻略すべく、スマホの地図アプリと記憶だけを頼りにその地に立った。国道の駐車帯にクルマを駐め、冬季閉鎖でチェーンのかかった林道に分け入った。年末に降った雪がまだ路面に残っているが、暖冬の今年はこの程度の積雪では根雪にもならないらしく、思いの他上りやすい。しかし林道歩きを開始して30分。汗だくになりながらも撮影ポイントと思われる擬似地点に到着すると、そこは健やかに育った新しく植林された杉の木がちょうど線路までの視界を遮断した直後だったようだ。ていうか本当にこの場所でいいのか? 確認しようにも線路は見えず、近くの崖に登ったりしてみたがどうも様子が違う。
「ヤベえ・・・ここじゃない!」

 迷っているヒマは無い。まだ列車通過まで20分以上ある。すぐに勇気ある撤退を選択し、今登ってきた雪道の林道を足早に駆け下りた。国道に出てすぐにクルマに戻り急発進。もう峠のトンネル上からしか選択肢は無かった。




セッティングを済ませた1分後。すぐに若松行き9231Mが峠道を登ってきた。
2016.1/2   磐越西線  中山宿〜上戸   EOS5D 24-105mm

 まさに間一髪の差で足元を往く9231Mを捉えられることができた。そしてこのままま会津盆地側に移動して追っかけをしたいところだったが、昨夜まともに睡眠を取れなかったこと、そして猛烈に腹が減っていたこともあって追撃は中止。のんびり列車のケツを追いかけながら猪苗代町に出て飯を食うことにした。しかし今日は1月2日。正月休みと昼時とあって市街の飲食店はどこも満員で、とっとと腹を満たして昼寝を決めこみたい状態なので3〜4件ほどなるべく空いているところを探すが、いずれも店の入り口に順番待ちの名前を書くよう求められた。別にコンビニ飯でも良かったが、どうしても体がラーメンを欲していたので、最も早く飯にありつけそうだった幸楽苑で昼食を摂ることにした。飯の後少し移動してコンビニの駐車場で1時間ほど昼寝。そろそろ時間になってきたので移動を開始すると、昼過ぎまであれだけ厚い雲に遮られてきた太陽が、会津盆地を照らし始めてくれた。曇天でやる気がなく復路は適当にやってから帰ろうと思っていたのだが、急に陽が差し始めると慌てて成果をモノにしてしまいたくなる。しかし、もう移動の時間はなかった。当て勘でクルマを乗り捨てた国道の陸橋から、あと数分でやってくる9234Mを待っていた。




陽は当たってくれたが足元草ボーボー。今日も朝からウインクしっぱなしの郡山方。
2016.1/2   磐越西線  猪苗代湖畔〜上戸   EOS5D 100-400mm

 なんだか今日は「イマイチ」にも程がある。また多客臨の季節になったら撮りに来よう、と何の目的も果たせぬままクルマに戻り郡山ICを目指して走り始めた。たぶん今度の運転は3月の連休かGW。その時に無事休みが取れればいいけどなかなかそうは行かず、再訪はできるのだろうか。とハンドルを握りながら考え事をしていると、ある重大な勘違いをしていることに気がついた。今日は1月2日。明日仕事があるけれど明後日1月4日もたまたまシフトの都合上休みになっている。もしやと思い走りながら助手席に放り投げたダイヤ情報をペラペラめくってみると、今年の正月の「会津ふるさと冬休み号」は4日まで運転があるとのこと。ということは・・・
もう一度いけちゃうんじゃないの??
 新たな展開に目の前が急速に明るくなり自然とアクセルを踏み込んだ。すると右手を並走する遠くの線路に先ほど目の前を通過していった国鉄色485が停車しているのが見えた。どうやら沼上信号所で普通列車との交換のようだ。先ほどと同じように助手席の時刻表をめくると、交換する普通列車の通過時刻までしばらくあり、頑張れば峠を越えた先でもう一度、迎え撃つことができそうだ。中山峠のトンネルを越えると夕焼け空は一転、もう日没直前の暗さを呈していたので、しかたなく坂道を下ってくるカーブに照準を合わせ、敢えて露出をややアンダー目にセットし再び9234Mを待つことにした。




2016.1/2   磐越西線  上戸〜中山宿   EOS5D 100-400mm

 すぐにクルマに飛び乗り列車の後を追う。別に追っかけをする訳ではないが、もう一つ本日最後の目的を達成するためだ。近くの磐梯熱海ICから高速に乗り、郡山JCTで首都圏に向かうかと思いきや進路を北へ。国見ICで東北道を降りた。その目的とは仙台に戻る回送列車を、暗闇の踏切を高速で通過する国鉄色を動画で撮るのためだった。イメージとしてはクルマ1台が通れる程度の小さな踏切。近くに人家などがなく照明は監視用の水銀灯のみ。交通量も少なく誰にも邪魔されることなく任務を終えた列車がただ通過するのみの映像。なぜかそれをとても手元に残しておきたかった。事前にカーナビで調べ目星をつけておいた踏切が国見ICの近くにあったのだが、実際に何か所か訪れてみると交通量が意外と多かったり、意図したアングルで撮影できなかったりで、いくつか候補としていたところが消えていった。どんどん迫ってくる通過時間。そしていつの間にか強く降り出してきた雨。気持ちは焦るばかりで増々運転が荒くなってくる。すると不意に国道から折れた農道の突き当りで、まさにイメージにぴったりの踏切を発見した。雨脚は一層強くなってきたので、踏切方にクルマのケツを向け、リアトランクを開けて屋根代わりにして三脚を立てた。すぐ背後には新幹線の高架橋。帰省ラッシュで増発された列車が数分置きに通過して行く。それ以外の時間はシトシト雨が降り続ける田んぼの真ん中の無人の踏切で、警報機が鳴るのをただひたすらに待ち続けていた。


2016.1/2   東北本線  越河〜白石

 今まで鉄道写真を撮るようになってから動画は次いで程度に撮影をしていたのだが、このわずか1分程度の踏切の通過シーンはとても印象に残る光景だった。中山宿俯瞰は未消化に終わったが、新たな闘志を燃やしつつ、まだ帰省ラッシュの始まっていない東北道を驀進して明日の1日の仕事のためだけに帰還することにした。


2016.1/4

 そして話は翌々日に進む。たった1日の勤務をしただけで、再び福島の地を目指して東北道を北上したのだった。前日の遠征の疲労も抜けきらないまま、翌日の撮影のためだけに仕事中は超エコモード。滅多にしない定時UPを果たし、背徳感など何も感じないまま同僚や部下に怪しまれないように、磐越西線を目指す。無事中山宿駅付近到着。撮影地と思われる場所の近くにクルマを停めて、当て勘一発でエイヤーと雑木林に分け入った。この季節なので雑木林の中の下草は少なく歩きやすい。しばらく歩いて築堤をよじ登り線路を横断。すると刈り取られたばかりの伐採地が眼前に広がった。ここらしい。伐採地なのでどこでどう撮っても視界を遮るものなどなく、お気に入りの一地点を見つけられそうだ。先客はたったの独り。自分はかなり登った泥だらけの傾斜地から眼下にレンズを繰り出すことにした。しかし早朝からずっと曇っている。まだ通過1時間前だが全く陽が差す気配は無く、念願だった中山宿俯瞰も再履修しなければならなくなるのだろう。セッティングを終了してしばらくすると峠のほうから時刻表にない列車の音が近づいてきた。




2016.1/4   磐越西線  中山宿〜上戸   EOS5D 100-400mm

 若松からの郡山工場入場の気動車の回送だった。今は完全に曇っているが、考えを変えればこの撮影地は午前中は完全逆光になるところ。晴れたら晴れたでラッキーなんだろうが美しい原色485のサイドビューが表現できなさそうだ。悩ましい気持ちを胸に時は一刻一刻と過ぎ、通過10分前ほどになるとあれだけ分厚かった雲が所々切れ始め、ついに陽が差すようになってきた。




2016.1/4   磐越西線  中山宿〜上戸   EOS5D 100-400mm

 今回事情によりサブ機は連れてきていない。なので順光側をテレで一発。引いてワイドでもう一発やる作戦だ。当然一瞬で画角とピンと、露出を変えなければならない。何度もシュミレーションしいよいよ本番になった。




2016.1/4   磐越西線  中山宿〜上戸   EOS5D 100-400mm

 逆光にはなってしまったが、冬枯れの峠道を往く485を念願の撮影地でいただくことができた。いつもであれば午後まで時間をつぶして郡山行きの便を撮影すべく、昼飯→ロケハン→昼寝、になるのがパターンだったが、今日は少し違う。午後の天気が思わしくないということと、もう一つ、郡山駅での返しの入線を駅撮りするのが理由だ。しかも動画である。東北本線の主要ターミナルである郡山駅に入線する485、そして仙台に向かいホームを後にする485、かつての「はつかり」や「やまびこ」などの長距離昼行特急が日常的に展開していた光景を動画に残したかったのだ。伐採地の撮影地を降り、郡山方へ。市街地外れのラーメン屋で昼食を摂り、そのまま駐車場で昼寝。やがて時間になってきたので郡山駅へとクルマを飛ばし、駅チカのコインパーキングに停め、構内へ入場。決してパニくるほどの人出ではなかったが、その雄姿を一目見ようと大勢のファンが待ち構える中、16:04、ゆっくりと厳かに485は構内へ進入してきた。

 583の代走や、あかべえ編成、そしてA1+A2編成など毎シーズン、確実な楽しみとして存続してきた磐越西線「あいづライナー」であったが、その後、同年5月を最後についにその運転は終了。そして翌月のさよなら運転でA1+A2編成自体も引退してしまった。これは同時に国鉄色485系と基本番台の消滅も意味している。日常の仕事に追われる身の、ささやかな楽しみだった「あいづライナー」も遠い過去帳の中に消え入ってしまったのだった。