奥羽本線に熱い特急列車が蘇る。485系「つばさリレー」 583系「奥羽線全通記念号」

近年稀に見る国鉄色祭り・・・

 久々にこんなワクワクして本番に挑んだことはいつぶりぐらいだろうか。奥羽本線開業110周年を記念したイベントで仙台車の485系が新庄〜秋田間を、秋田車583系が湯沢〜青森に、同日に運転されることを知って9/12土曜日を休みにしておいた。旅程から撮影は新庄〜横手間の奥羽本線のいわゆる山線区間になることだろう。東北本線と同様、首都圏と各都市を結んだ重要な幹線である奥羽本線は、かつて当然のことながら様々な特急列車、夜行列車が運転されていた。しかし1992年の山形新幹線、1997年の秋田新幹線開業とともにその鉄路は分断。現在では2〜4両の軽量なワンマン電車が1時間に1本程度運行されるローカル線になってしまい、往時の面影は見て取ることは難しい。そんな奥羽本線山線。どうもお立ち台的なスポットというのが分からなく、また自身もほとんど縁が無かった路線であるので、いろいろ調べてみると奥羽本線と検索すれば出てくるのは秋田以北の区間ばかり。名立たる優等列車も姿を消して20年以上の月日も流れていることから、想像以上にあまり陽の当たらない存在になってしまっているようだった。当日直前までサイト情報はもちろんのこと、地形図なども密に調査し、しまいにはyoutubeでこの区間の前面展望映像を全て見尽くし、地勢を頭に入れた。でもこの作業は楽しかった。名列車への思いを馳せながら当地のことを想像し、イメージを描いていく。新庄〜横手間79.7kmにはどんな光景が待っていてくれるのだろうか。

2015.9/11

 というわけで本番前日も休みにし2連休にしておいた。前日を現地入り&ロケハンに充てるためだ。深夜0時出発。昨日は台風にともなう前線の影響で長時間、一定の地域に大雨が降り、特に栃木、茨城では土砂崩れ、堤防の決壊による河川の氾濫が相次ぐという大惨事になっていた。直前までこの撮影を決行しようか迷っていたが、勢い出発。首都高に乗ると東北道の栃木県内通行止めの情報が早速出現した。常磐道へ変更。深夜の茨城県内を走行していると、常磐道も、つい先ほどいわきIC直前で通行止めになってしまったというのだ。いわきから磐越道で郡山に抜けようとしていたがこれもNG。まだ時間もあるのでいわきIC手前の中郷SAで仮眠を取る事にし、通行止め解除を待ってみることにした。2時間ほど寝て6時起床。相変わらず常磐道、磐越道のいわき周辺では通行止めは解除されることもなく、しかたなく一般道で北上を開始することにし勿来ICで降り国道6号線を北上した。国道6号線といえば東北大震災による福島第一原発の影響により長らく通行が禁止されていたが、今年3月、ようやく開通したルートである。途中、まだ住民の帰宅が許されていない「帰宅困難地域」を貫くことになっており、除染などの作業は進んでいるというのだが、残る放射線の影響でこの区間の不要な停車や自動二輪車での通過はいまだ禁止されているという状態である。自分自身、大震災のあと、東北地方へは何度も足を運んでいるが、実際津波の被害があった地域やこのような原発事故の影響を受けた地域へ立ち入ることは初めてであったので、少し緊張しながら「帰宅困難地域」へ入っていった。

一通過者の感想に過ぎないが、そこで見た光景は、まさに「言葉を失った」であった。4年半もの間、時が止ったままの街を緑が侵略していた。緊張していたのは本当だが、実のところ半分興味本位的な気持ちで進入してしまった自分の気持ちを恥じた。

 やがて並行する常磐道の通行止めも解除され、浪江ICから高速に乗り、仙台南部道路、東北道上り、山形道を経由して新庄に到着すると時刻は13時を過ぎていた。コンビニ飯で昼食を取りながら明日の天気を調べてみると、出発前、「雨」の予報がいつしか「雨時々曇り」と変わっていた。小雨の降る中、すぐにロケハンを開始。現在山形新幹線も大雨で抑止とのことで、明日の本番は大丈夫なんだろうかと心配しながらも、途中各駅にも立ち寄りながら沿線を見て回る。なかなかイメージしていた奥羽本線の印象と同じで、ロケーション的にはどこも画になりそうな箇所が点在しているのだが、なぜかどこも線路際のヤブが多く足回りが隠れそうな場所ばかりだった。クルマを停めては降り線路まで近寄り、を繰り返しながら北上を続け、沿線最大のハイライトというべき雄勝峠の麓にある及位(のぞき)駅に到着する頃にはすでに薄暗くなっており、さらに雨足は本格的なものになっていた。どうしたものか・・。峠を越えて院内側への探索も試みるも、トキメクような場所も無く、ついに日没を迎えてしまい、何も収穫がないまま一日が終わってしまった。明日ははカーナビで見当をつけて行き当たりバッタリの撮影になりそうだ。今日の活動は終了にして横手駅へ。駅前の温泉で一風呂浴びる。なんだかヌルヌルした湯で、必要以上にサラッサラになりながら町外れにあったラーメン屋で本日の夕飯。少し移動して明日早朝の583の湯沢往復に都合がよさそうな道の駅「十文字」にクルマを停め夜を明かすことにした。場内には怪しげな県外ナンバーが多数。今日もロケハンしている時に数台のそれらしきクルマを見たのだが、明日はどのくらいパニるのだろう。皆さんは良い場所知っているんだろうか? そんなことを考えながら疲労とビールの勢いもあってシートを倒すと秒殺で気を失ってしまった。

2015.9/12

 5時。アラームに起こされて外を見ると、まだ薄暗いものの空は見事に晴れ渡っていた。早速天気予報を確認すると、ついに!「曇時々晴れ」になっていた。当初雨の予報から徐々に良い方へ変化し、とうとう晴れの文字が出てきた。「いいぞ、もっとやれ!」と心の中で思いながら洗面を済ませる。その前に最近殊に気をつけている早朝撮影時の生理現象のために念入りにコトを済ませ、いざ出発。といってもカーナビで目星を付けておいた皆瀬川を渡る橋梁まで約2kmの距離だ。週末でもあるしこの天気に583とくれば結構な人手になるであろうと予測し、通過1時間前に到着すると、すでに5名の人がスタンバイしているだけで駐車車両が農道にびっしり、ということは全く無く、拍子抜けするほどだった。順光側からガンガンに当たる早朝の斜光線。黄金に輝く稲穂。川を渡るために上り勾配を駆け上がるアプローチ部分はきれいな築堤で、迷うことなく一発目をここにすることにした。まずは始発駅である湯沢までの送り込み回送、通過は7時少し過ぎだ。




秋田からの送り込み、回9420M。
2015.9/12   奥羽本線  十文字〜下湯沢   EOSkissX3 55-250mm




本務機でもう1発。爽やかな風が秋の気配を運んでくれた。
2015.9/12   奥羽本線  十文字〜下湯沢   EOS5D 24-105mm

 いつものことだがどんなにやる気の無い撮影でも、やはり実車を見ると俄然テンションが上がってくる。最高です! そして1時間後にここに帰ってくる9431Mの場所を考える。鉄橋のたもとでドカンとやろうと土手に駆け上がり偵察するが、川原に成長した大木が遮り編成の奥まで写しこめない模様だったので、往路とほぼ同地点で待ち構えることにした。望遠で鉄橋の飛び出しを1発。広角でもう1発だ。400mmをセットし画面右の線路脇で待ち構える諸氏をギリギリでかわし、ミリ単位の調整を終え後は列車を待つばかり。しかし遠く下湯沢駅で出発する583のタイフォンが聞こえると、左から三脚を持った1名の方がファインダー内に登場し始めた。これはヤバイ。氏は画面中央で立ち止まると三脚をセットしだした。叫ぼうにもここからは遠すぎて届くはずもなく、むしろ撮影地での罵声は絶対にやりたくなかったのでアングルを変えてでも少し移動しようか、と悩んでいるうちについに時間が無くなってしまい、無情にもゆっくりと583は鉄橋を渡ってこちらに向かってきてしまっていた。




おおおーーーぃっ!!




2015.9/12   奥羽本線  下湯沢〜十文字   EOSkissX3 17-55mm

 まぁしょうがない・・・。こうなればアレを発動するしかないな。アレですよ。

【インチキ写真】

消してやりましたよ。フフッ・・・。

 このまま583は「奥羽本線全線開通記念号」として青森まで走り、明日再び湯沢に戻ってくるとのことだが、なんでこんな早い時間に湯沢発なのだろうか疑問がある。この列車に始発の湯沢から乗るためには近県都市から列車では接続できず、唯一秋田からの一番電車に乗るか、湯沢周辺で宿泊しなければならないのだ。まあマニアなら喜んでそれもするだろうが、案の定、通過した時車内を見ると、半分程度の乗車に見受けられた。
 583はこれにて終了。次は485「つばさリレー号」のため雄勝峠を越える。結局昨日は撮影地らしい撮影地も見つけられぬまま終わったので、もし今日もダメだったら仕方なく駅撮りで我慢することにし峠を越えると、晴れは一転、重い雲が立ち込める鉛色の空が広がっていた。もう2時間前のテンションは吹き飛んで、「どうすっかな〜」と線路のほうを見ながら漫然と南下していた。テツの方たちはどこへいってしまわれたのだろうか?時折撮影地探しをしているクルマとすれ違ったが、よくありがちなお立ち台形成のためのクルマの路駐などもなく、はたまた自分のように撮影のために乗り込んでくる人数自体少ないのか。どれくらい進んだのか、ふと何となく勘が動いた場所でクルマを停めた。線路に上がってみると初めて奥羽線の線路脇の下草の無い場所に出くわした。おおーこれは希少。まだ通過まで2時間ほどあるが、撮影の場所取り、というよりも駐車の場所取りのため、ここで陣を構えることにした。その後何人か同業者のかたが増えたものの最終的には10名ほどで、依然太陽が全く姿を見せない田んぼのあぜ道で列車を待っていた。今はこうして地域輸送を細々と続けている奥羽本線だが、かつてこの目の前の線路を数々の優等列車が駆け抜けて行ったんだな、と感慨にふけっていた。自分はこの奥羽本線、ガキ真っ盛りのころの1987年、北海道旅行のために乗った急行「津軽」で通ったのが最初で最後だ。夜行だったのでこの区間のことは全く覚えていなかったが、お盆ということもあって増結した14系客車でも殺人的な混雑ぷりで、上野で2時間並んでも座席を確保できず、秋田到着まで通路に新聞紙を引いてひざを抱えて時を過ごしたことは忘れられない。今と違って地方間輸送は鉄道のシェアが断然高かったのだ。そんな回想で飽きることなく時が過ぎ、いよいよ485の登場タイムとなってきた。




飛び出しのカーブは障害物が多すぎたのでkissと400mmで640mmへ。
2015.9/12   奥羽本線  大滝〜釜淵   EOSkissX3 100-400mm




本務機はワイドで。
2015.9/12   奥羽本線  大滝〜釜淵   EOS5D 24-105mm

 タイフォンを鳴らしまくりながらやって来たので、半分以上のコマにはカバーが開いた丸い穴のショットが多かったが、幸いにも良いタイミングのものもあった。曇ってはいたもののかつての重要幹線を行く「つばさ」を再現した485系はとても凛々しく写って見えた。にしても「つばさ」のヘッドマークてもっと赤いんじゃなかったのか?という疑問もさておきながら、一同満足し撤収。この「つばさリレー」は新庄到着後、駅構内の留置スペースの関係から、客扱い後、すぐに真室川駅に回送として引き上げる。新庄〜真室川での撮影も考えたが時間が無いので、真室川駅で場内進入を撮影することにし駅に向かった。真室川に到着すると峠付近の曇天は一変、爽やかな秋晴れになっていた。地域センターと兼ねている駅舎を通りホーム先端で「つばさ」を待っていた。




真室川に侵入する。秋田方は文字タイプのヘッドマークだった。
2015.9/12   奥羽本線  真室川   EOS5D 100-400mm

 こちらは昭和53年以前の文字タイプのシール式のヘッドマーク。こちらもこちらで少しフォントが違うような気がするのだが、前後でタイプの違うヘッドマークとは粋なファンサービスだと思う。485はゆっくりと構内に入り、3番線でしばしの休息タイムに入るとイラストタイプの新庄方の先頭車付近では撮影大会のような状況になってきた。




2015.9/12   奥羽本線  真室川   EOS5D 100-400mm

 滅多に見られない特別な列車を一目見ようと、地元の若い家族連れなどが先頭付近で記念撮影を始めた。子供たちは大喜び。やさしくボディに触れてみたり家族全員で記念撮影に収まってみたり、そんな微笑ましい光景を眺めながら過ごしていると、この場所で一番聞きたくなかった言葉が耳に入ってきた。
「オイッ、どけ、入る!」
マジか〜・・・。そんなに人手も多くないこの平和な状況で一般人排除の罵声が出たことにまず驚いたしガッカリした。停車時間も2時間以上もあるので死ぬほど好きな角度から撮影すればいいのに・・・。罵声を浴びたその数家族にはテツの1人として本当に済まなく、恥ずかしかった。どうか忘れて欲しい、と願った。その後もテツ同士で命令口調での排除合戦があったりし、いたたまれなくなってその場を離れることにした。それより自分は撮影場所探しである。朝からオニギリ1個しか口にしていなかったので、新庄市内へ向かいコンビニ弁当で遅めの昼食。その後、再び真室川へ撮影地探しをしながら戻り始めると、県道の踏切脇の広大な田園のなかに多くの同志たちがスタンバイしているのを見つけた。早速現場へ。見渡すと超順光の中をストレートに向かってくる線路。背後には杉林。昨日ここを通った時は雨で、全く魅力的とは思わなく気にも留めず通過したのだが、同じロケーションでも光線が変わると見違える光景になるものだと改めて感じた。ロケハンの時にはそこまで想像力を働かせて動かないといけないと、一つ学習した。通過1時間前だがすぐにセッティング。空は雲はあるものの当分持ちこたえてくれそうな予感。そういえば待っている間、ここだけではなく自分が今日撮影してきた全ての撮影地で地元の方に話しかけられた。「ナニが通るのかい?」 撮りテツからしたら今まではあまり縁の無いかもしれない奥羽本線山線区間。そんな普段は平和なこの街に大挙してテツが訪れる訳だから地元の方は何事か?と思うのも当然だろう。「昔ここを走っていた特急電車がやって来るんですよ。もうすぐ来ますよ」と教えると、自宅から家族を連れて来たり、携帯で知人に見に来るようにと連絡を取っていたのがなんだか嬉しかった。当然ここでも農作業の帰りと思しき軽トラのおばちゃんに話しかけられ一緒に待つことにした。ところで今回はサブ機は出動せず一本勝負。練習用の普通電車が極端に少ないので、露出、ピント調整は念入りに何度も行う。その中でもピントは、最近AFの信用性に疑問を感じており、望遠での編成写真ではほとんどMFでやっているため、幾度と無くバラストを照準に調整を繰り返した。最高のシチュエーション。ここで失敗すれば末代まで笑われてしまう。一撮入魂に専念した。




ピンはもう少し手前だったようだ。やっちまった感満載だったので、マスクだけシャープネスを上げてみた。
2015.9/12   奥羽本線  泉田〜新庄   EOS5D 100-400mm




こちらは原寸大。もう・・・死ねばいいのに。オレ。

 もう・・・なんと言っていいのか情けない。他の皆さんは満足そうに撤収の作業をしていたので、そのことが余計に悲しみがこみ上げてきた。最後ラスト1本。あまり時間が無いのと、明日は早朝からの勤務だったので、すぐに帰還できるようにとここから近い撮影場所を探した。先ほどのストレートから約3km秋田方の地点に川を渡る鉄橋を確認しており、並行する県道と反対にまわり順光側にやってくると、スッキリと側面だけに陽が当たりそうなポイントに出た。線路脇の標識類と背後の送電線がうるさいがなるべくそれらを交わすように努めて、本日最後の仕上げをすることにした。




2015.9/12   奥羽本線  新庄〜泉田   EOS5D 100-400mm


2015.9/12   奥羽本線  新庄〜泉田   EOSKissX3 55-250mm

 そんなこんなで熱い一日が幕を閉じた。あとはひたすら帰還するのみ。近くのインターから高速に乗り、ぶっ通しノンストップで、しかもありえない表定速度で地元を目指し爆走した。