初参戦! 24系寝台車の天理臨

2015.1/25

 1月の最後の週、どうしても平日の会議やらで公休が不足しそうだったので、思い切って日曜日を休みにしてみた。せっかくの日曜日なのでダイヤ情報をくまなく調べてみると、青森の24系が天理臨として早朝関西にやってくることが判明した。基本、天理臨は週末運転なので今まで諦めていたその被写体。土曜の仕事が終わってから西に急げば何とか間に合いそうなことが分かってしまうと、撮影地とかいろいろ調べ始めその日に備え始めた。1月のこの季節。西日本の日の出はまだ7時近いので、終点の天理に余程近いところでなければならないと考えると、自然と有名撮影地でもある「帯解」付近がいいだろうと考えていた。しかし様々なサイトを見ると、毎回天理臨運転時には結構な騒ぎになるらしく、加えて車も停めるような場所もないくらいとのこと。ハードル高いんだな・・・と意外だった。さらに仕事後の終夜運転で500km以上。時間も仮眠できるような余裕も無く、このことも二の足を踏ませた。と、ここで夜行バス案を思いついた。極端に安い便を使うまでも無く、関西まで5000円程度で行けるのは知っていたが、問題は早朝に現地入りできる便があるかどうか。もし無かったら最終の新幹線で奈良駅周辺の宿に泊まるしかなさそうだ。少し期待してネットでドリーム号を調べてみると、あるじゃないか! 「プレミアムドリーム11号」王寺行き。途中の奈良駅には6:50到着なので、すぐに普通電車に乗り換えればギリギリだが帯解に立つことが出来る。そのまま空席照会。週末なので心配したが、窓際A席を押さえることができた。そして復路。ただ新幹線で帰って来るのはつまらないので、いつか乗ってみたかったJRバスの昼特急の切符まで予約してしまった。考えてみれば往路プレミアムドリーム号が¥8230、復路昼特急が¥5880。クルマで行った場合、横浜町田から名阪国道の入り口でもある亀山まで深夜割でも¥5860。ガソリン代も考えるとほぼ変わらないのだ。よし! ドリーム号でビールでも呑みながらダル〜い感じで乗り込んで、帰りも昼間っからビールを呑みながら長い長い新東名で帰って来よう。久々にワクワクし、たった一発の撮影はもとより往復のバスの旅のほうが楽しみになってきた。

 当日、東京駅に向かう。昔はもっと質素で寒々としていた八重洲口バスターミナルもいつの間にか立派な東京の玄関口にふさわしい煌びやかさとなり、旅立ちの高揚感をさらに増してくれた。バスに乗る前にヤニ補給をしようと試みるも、首都東京の駅近くにそんな喫煙所のようなものなぞ存在する訳も無く、しばらく駅周辺の路地裏をさまよい、少しお洒落なバーの入り口に灰皿を発見。この先、下手したら奈良までニコチン摂取できないので3本ほどチェーンし気持ち悪くしておいた。駅まで戻る途中のコンビニでビールとつまみを購入。乗り場でプレミアムドリーム号を待った。やって来たバスは純白のいかにもプレミアムな二階建てバス。でも指定された席に落ち着くとやっぱり所詮バス。通路のカーテンで圧迫感があり、さらに窓のカーテンもなぜか開かないように固定されていて、出発の案内放送では寝ている人もいるのでカーテンを開けぬように!と釘を刺されてしまった。完全な独房。景色を見れないなんてどこがプレミアムかと思い、少しだけ無理やりカーテンを開けて過ぎ行く都心の景色に1人乾杯した。首都高渋谷線から東名へ。途中足柄SAでの15分休憩で酩酊状態になりながらもニコチン追い込み摂取。東名と新東名の分岐で東名のほうに入ったことを確認するとすぐに眠りに堕ちてしまった。




 翌朝、奈良駅到着の案内で目が覚めた。まだ暗い東口バスターミナルに到着し、駅ホームに上がると・・・三脚を持った複数の同業者がいることに気がついた。ここで駅撮りするのか、それとも有名撮影地もある桜井線内に移動するのか。こんな直前に乗り込む自分。すこしイヤな予感がした。やがてやって来た桜井線のワンマン105系に乗り込むと、車内は一般人とテツが半々位の割合で、いつもと違う様子にビビる一般人をよそ目に2駅目の帯解で下車。意外にもほとんどのテツ諸氏は列車に乗ったままで、寂しい帯解駅で降りたのは自分含めて5名くらいだった。彼らはいったいどこに向かうのか? 改札のポストに奈良駅からの切符を入れて、調べておいた撮影地まで歩く。10分くらい住宅地と田んぼの間の小道を進み、今来た道と線路を振り返ると田んぼの中のキレイな直線が見通せた。ほどなくして現地到着。噂に聞くほどパニってなく、総勢10名程度が広い田んぼのあぜ道の至る所に分散して、思い思いの場所に散らばって設営をしている平和な撮影地だった。順光側には架線柱と極太ケーブルが邪魔をしているので、ここにいる全員、逆光側からの撮影だが、もしかしたら時間が早すぎるので太陽は反対側の山から顔を出さずに済むのかもしれない。でもまぁこうして労力も使わず酒も呑みながら楽して奈良まではるばるやって来て、1発撮影したらまた楽して帰るというこの贅沢。なかなか良い行いをしたと、まだ目的も果たしていないのに少し満足していた。




 ところで今さら言うのもなんだが、この天理臨9540レ。実は自分は通過時刻を把握していなかった。出発前撮影地を調べる際、ついでに桜井線内の通過時刻も調べてみたのだが、7時台、それも8時に限りなく近い7時台ということくらいしか自分の能力ではリサーチすることができなかったのだ。現在7時を少し回った頃。ここの現場にいる一同、三脚こそセットしているものの、誰一人として撮影直前の緊張感は持っていなく、やはりあと1時間近く待たなければいけないらしい。しばらくすると太陽が山の稜線から顔を出し、雲一つないド快晴の一日の始まりを予感させた。明るくなってきたのでピントと構図確認のため、やって来た221系普電を試し撮り。それも終わりすることもなくなりタバコを一本。しかし吸い始めると、いつかこの時を迎えるだろうと昔から恐れていた事態に直面し、冷や汗が滴り落ちるのがわかった。



「ウ●コしたい・・・」



 血の気が引くのが自分でも分かった。そしてその万一の事態に備えが足らなかった自分にあきれてしまった。用を足せるところまで急行できる移動手段は今の自分には無い。自然に還そうにも住宅地外れの拓けた田んぼ。周囲には大勢の人々。駅まで徒歩15分・・。絶望が襲った。列車通過まで何とか我慢しようという気持ちが10%くらいあったが、小学生の頃、遠足のバスに乗る前、必ず腹痛を起こしていた自分には到底不可能なことはすぐに分かった。むしろ最悪の事態になった時、自分のクルマならまだしも、本日に限っては公共交通機関で帰らなければならないことが決断を急がせる理由にもなった。行動は早いほうがいい。すぐにカメラを雲台から取り外して三脚だけをそのままデポし、腹を刺激しないように、すべらかな早歩きで駅を目指した。途中2度のピークが襲ったが何とか持ちこたえて1km走り、駅に到着。するともうすぐ普通電車の到着時刻なのか、待合室やホームにはこれから大会なのだろう大勢の運動部のチビッコ諸氏が賑やかにたむろしていた。本格的にマズい。個室が使用中の可能性が高い。意を決してホーム上の小さなトイレに駆け込むと幸いなことに空室だった。あとは一連の動作。最悪の事態は避けて済むことができて本当に良かった、とそろそろ9540レの時間が気になりだし例の田んぼにまた戻ろうと回りを見渡すと、本日2度目の絶望に直面した。なんと紙が無いのである。自分が子供の頃、首都圏の鉄道の駅のトイレはみんなそうだったように、トイレを使わせてやるだけありがたいと・・・方式のシステムだったのだ。

・・・ここからのエスケープ方法は割愛する。

 とにかく頭脳をフル活用してなんとか「清潔」」な状態になることに成功し、個室から出ると何ということか3度目の悲劇が襲った。ガラガラというどこかで聞いた音が背後から聞こえてきたので振り返ると、今日の唯一の目的であるDD51と24系客車たちがこの帯解駅に進入してきたのだ。まだ時間は自分が予測した30分前。もしかしたら本当に声に出して「あぁ〜終わった・・・・」とつぶやいていたかも知れない。今日何度目かの絶望に立ちすくむと、どうやらこの列車、この駅で運転停車するらしい。交換なのか出発信号は赤を現示している。もしや! この駅で長時間停車して8時直前に終着天理に向かうのか!? 気がつくと待合室を抜け線路沿いの道を猛ダッシュしていた。走れば三脚だけが待っている撮影地まで5分。何とか間に合ってくれ・・・。駅を出発して100mほど走ると、背後から短いホイッスルが聞こえ、2機のディーゼルエンジンの唸りが聞こえてきてしまった。幸い肩には相棒EOS。なるべく加速の遅い客車列車からの距離を離しておこうとダッシュしたまま、ここが限界というところまで来てファインダーを覗いて振り返った。露出を合わせているヒマはない。構わん。撃つべし!! とにかく撃つべし!!!




元のJPEGの画像。オレの頭の中も真っ白だ。

 なんということだろう。全てが終わった。ショックのあまりしばし呆然。プレビューを確認するのも忘れていたくらいだ。とりあえず我に返り三脚が待っているあの田んぼに戻ることにした。到着すると撮影を終えた同志たちがそれぞれ満足げに機材をしまったり仲間と談笑しているのが見える。放置していた三脚をしまいこみここでようやくプレビュー確認。最初にこの場所に到着した時のテスト撮影のマニュアルのセッティングのままだったのでf5.6 1/125秒 ISO800、ご覧のような白飛びな画像だけが残った。ブレていなければ帰宅してからRAW現像を行えば何とかなるかもしれない。駅に戻り大和路快速で大阪へ。10:50発の横浜行き昼特急の乗客となって長い長い東海道を戻ってきて今回の旅は終了となった。帰宅後すぐに画像調整。いろいろやってみて一応この1枚を完成版として保存した。




記憶当時の朝焼けの「赤」を思い出しながらここまで復活。
2015.1/25   桜井線  帯解〜櫟本   EOS5D  24-105mm




2015.1/25   桜井線  帯解〜櫟本   EOS5D  24-105mm