推進運転を撮る!

2015.7/2

 今年春の改正でついに定期列車から季節臨時列車に降格となってしまった寝台特急「北斗星」。最盛期には日に3往復の布陣で上野〜札幌を結んでいた国内最後の寝台特急然とした「北斗星」も、ついに8月にはその姿を消すという。ということは上野駅名物の尾久からの推進運転も見納めになることも同時に意味しているので、その推進運転だけを撮影しに上野駅に向かったのは、7月に入って最初の休みの日だった。

 最後の推進運転とは言うものの、正確には寝台特急「カシオペア」は今後もまだその運転体系が残されるのだが、あちらは非貫通の客車であるので、誘導員(正確には推進運転士)が車内から誘導するため、貫通扉を開け放ち、緊張した面持ちで長大編成を操るという誰もが想像する推進運転のイメージとは程遠い。同様に九州の豪華寝台列車である「七つ星」も立野のスイッチバックで同様の運転体系を採るというが、これも密閉客車の中からの誘導なので、本来の颯爽とした推進運転とは少し趣が違う。なので期限が限られている「北斗星」にこだわりたいのである。そして何よりもコチラは青20号を纏った美しき正調ブルトレ編成。ロマン漂う上野駅13番線でその光景をキチンと記録しておきたいと思った。

 当日、小雨が降っていたのと、珍しく体調が思わしくなかったため、都心にクルマで向かうことにした。念のため上野駅に近いコインパーキングを調べ乗り付ける。「北斗星」の上野駅入線時刻は出発時刻の45分前、15:35とのことなので、頭端の場所取りもあることだろうからさらにその30分前に到着した。入場券を買い、駅構内へ。カメラバックと剥き出しの三脚を小脇に抱えながら怪しく13番ホームに向かう。そしてその頭端部。しかし30分前の到着で安心しきっていたものの、すでに10人以上の人だかりが出来ており、すでにほとんど撮影場所の余裕などどこにも無かったのだった。先客に声をかけかろうじて人と人のスキマから望遠レンズを繰り出す。何とか推進運転で入線してくる客車を正面から捉えられる位置をキープできたが、人ごみで三脚は無理。手持ちに換えて身動き取れないまま、その時を待った。






2015.7/2   東北本線  上野   EOS5D 100-400mm  

 多くのギャラリーに見守られながら、最後の寝台特急の貫禄を見せ付けるように、厳かに24系25形は上野駅地平ホームに滑り込んできた。ホームの大多数のギャラリーは恐らく「乗らない人」。列車が完全に停止すると、その「乗らない人」達は一斉に車体観察を開始した。自分も同様に参戦。すぐに青い車体には多くの人々が群がった。



 ↑この写真は停車した直後の写真。開け放たれた貫通扉の下側からホースのようなものが車内から伸びて床下に繋がっているのが分かる。これは推進運転時、非常制動をかけるための取り外し可能なブレーキ弁で、通常では最後尾の機関車の運転士と無線連絡で信号や標識の指示を出しているのだが、非常時のみ推進運転士がこのブレーキ弁を操作できるというもの。このおかげで法令では推進運転時は時速25km/h以下と定められている最高速度を、45km/hまで可能にしているという。そんな訳で残された出発までの45分間。これ以上人出が増えぬ前に撮影開始だ。




すぐに始まる記念撮影大会。北海道に用事は無いけど乗ってみたい・・・









 ひとしきり撮影を終えたので、以前より興味のあったグランシャリオことスシ24食堂車の観察を行おう。日本各地から列車の食堂車が消えてから久しいが、この「北斗星」には国鉄型最後の現役食堂車が連結されている。確か485からの改造だったと思うが、他の24系客車と比べて一際背が低く、また分散クーラーを備えていることからその存在感が際立っている。近づくとちょうど資材搬入と営業準備の真っ最中だった。







 そういえば自身、食堂車を体験したことが今まで無かった。強いて言えば小学生のころ東北の親戚の家に出かける時に、当時始発の大宮から乗った東北新幹線200系「やまびこ」のビュッフェで食べたカレーライスと、大学時代、重度のテツという病に冒されてしまった教授のゼミ合宿が鹿児島であるというので、同じゼミ仲間の友人と熊本から乗った787系「有明」のビュッフェくらいしかないのだ。国内ではほとんど営業を取りやめ、もうすでに過去の物となってしまった食堂車であるが、昨今、旅のスタイルの変化なのか、観光列車での供食サービスを復活した例は多いものの、いずれも本格的な厨房を持たないなんちゃって食堂車であるので、ホンモノの食堂車に乗りたければもう「北斗星」か「カシオペア」くらいなのである。この時本当に食堂車を利用するためにいつか「北斗星」に乗りテツしてやろうかとも考えたが、結局その夢は叶わないようだ。
 やがて出発の時間が近づいてきた。先頭の機関車付近では狭い13番ホームの終端ということもあり、人ごみの中、どうにも見られるような写真は撮れないだろうと、ホーム中央で客車列車独特の静かな滑り出しを見送り、本日の、夢に思いを馳せた45分のショーは終演となった。