クモユニ143の職員輸送列車が働く駅

2015.7/30

 去るダイヤ改正では北陸新幹線開業の裏側で、日本海縦貫線を支えてきた多くの名優たちが引退していった。毎度ダイヤ改正毎に姿を消していく多くの国鉄車両達。そんな中、ある国鉄型列車が何年かぶりに現役として復活したことはご存知だろうか?
 
 その名は長野総合車両センター所属 「クモユニ143」。そしてその目的とは車両センターに勤める職員の「輸送」である。かつては多くの車両基地で、そこで働く職員を最寄駅の駅まで輸送するために仕立てられた事業列車である。まぁそもそもそんなに多くの人数を輸送するわけでもないし、まして数kmの運行であるので基地内で使っているクモヤ、とかクモユニなどを充当させるのが晩年では一般的だったようだ。しかしそんな少量輸送でもコストはかかる訳で、しだいに基地に入出区する通常の営業用の旅客列車の回送に添乗させるという形で「職員輸送専用列車」は過去のものとなっていた。そして今回紹介する長野総合車両センターも他と同様で、つい数年前まではスカ色のクモユニ143を用いて行っていた職員輸送も、いつしか回送列車の添乗でその役目を終えたのだが、ここに来て復活する運びとなった。何故なのか?
 実は北陸新幹線開業により並行在来線である信越本線がしなの鉄道に移管されたことにより、長野車両センターに入出区するJR車両が大幅に減少。営業車の添乗も行われているらしいのだが、入出区の無い時間帯は以前使用していたクモヤ143を復活させたとのこと。とにかくまずは目出度い。そんな今まで撮影したことの無い、超地味な「職員輸送列車」を撮影するために長野に向かうことにした。

 出発前、肝心な運転時刻であるがいろいろ調べてみたが、8時台に長野車両セ→長野、で、10時台に帰区する、ということぐらいしか分からなかった。そして地図で確認すると長野総合車両センターは長野〜北長野間にあり、車両センターと長野駅はたったの3km弱である。当然付近は市街地で線路際まで家屋が立て込んでおり、良さげな撮影場所などあるはずもない。踏切も2箇所程度あるが新幹線の高架橋の下、撮影地を決め、巧く仕留める事が出来るのだろうか?という疑問が沸いてきた。 8時台の運転なら朝イチの新幹線で十分間に合うことができるが、これだけのために新幹線で長野入りのはいかがなものか?と思ってしまったのと、今夏、まだ泊りのツーリングに出かけていないことから、2連休なので、ツーリング目的7割、撮影3割くらいの心意気でバイクで行くことにした。

 夜勤明けの仮眠の後、猛暑の中、昼ごろ自宅を出発。圏央道から関越に入り、長野方面ではなく新潟方面へ進路を取り、国境の長いトンネルを抜けると天気は一転、土砂降りの夕立だった。大粒の雨が体中に撃ちつけ激痛が走る。次のSAまで我慢しようかと思ったが溜まらず非常駐車帯に停車。合羽を着込み六日町で一般道へ。「はくたか」の走らないただのローカル線になった北越急行沿いの国道235号線を西に走り上越市に到着。そのまま市街を通過して、次の駅、谷浜にやって来た。ここまで来たのは理由がある。唯一の485系定期運用となってしまった8622M、通称「糸魚川快速」を見るテツするためだ。駅チカの踏切でビデオだけを三脚にセットしてスタンバイ。最後の485の力走をこの目に焼き付けておこうと踏切が鳴るのを待った。

 高速で通過していった3000番台に心の中でエールを送り、今度は上越市内を目指して走り出した。今夜の宿泊場所は昨年の9月にも泊ったことのあるネットカフェ。学生の頃は猛暑の中、バイクで数百kmガンガン移動し、夜は駅で蚊の猛攻を受けながら熱帯夜を寝袋包まって明かしたものだが、なんだか最近そういう気力が無くなって来てしまったことが、自分自身ショックでもある。いや、やれと言われれば今でも全く出来ると思うのだが、あえて駅寝を選択しようとは思わなくなってきてしまった。そんなわけで2000円以下で屋根付き空調付きを選び、件のネットカフェに到着した。さらに300円払えばシャワーも浴びられるので、このご時勢、こういうところで生活している難民がいるのも理解できる。案内された個室に通され、早速夕飯とビールの注文。なぜか通常値段でクソ大盛りのトルコライスが運ばれてきて、まるでそのブタの餌のような料理が本日のディナーとなった。ビールは追加でさらに2本を注文。完全に気持ち悪くなってきたところで眠りに就いた。

本日の走行距離 357km


2015.7/31

 翌朝5時起床。すぐに出発準備に取り掛かった。外は曇り空。ついさっきまで雨が降っていたようで路面は濡れており、乾ききっていない合羽を着て撮影のため長野を目指す。この列車の特徴上、撮影は長野市内中心部。撮影のためにそこまでバイクで乗りつけ、さらに駅構内での撮影となった場合、地方都市でのバイクの駐輪場探しをしなければならないため、近くの他の駅にバイクを停め、そこから列車に乗り換える「パーク&ライド」方式にした。長野駅に近くてバイクが止められそうなところ・・・と今までの経験を思い出すと、古間駅が最適であることが分かった。長野駅まで30分。ちょうど7:08発の電車があるので、少し余った時間を途中の道の駅で20分ほど仮眠して古間駅に到着した。夏休みなので学生の利用は思ったほどではないが、座席が完全に埋まる程度。しばらく115系の心地よい揺れにまた居眠りをし、気が付いたら終点の長野に到着していた。
 さて・・・列車から降り、とりあえず車両センター方のホームの端まで移動してみたが、クモユニ143は何番線に入線するか分からない上、入線時刻もあいまいなのでとりあえず7番線に入ってくるものと仮定し、7:50頃からスタンバイを開始した。やがて8:30過ぎ、何の前触れも無くスカ色の単行電車クモユニ143がゆっくりと近づいてきた。






ソロリソロリと進入してきたクモユニ143。000Mと表示されているが列車番号はあるのだろうか?
2015.7/31   信越本線  長野   EOS5D 100-400mm




ホームには入らずそのまま7番線と新幹線の間の側線を進む。
2015.7/31   信越本線  長野   EOS5D 100-400mm




その頃隣のホームでは189おはようライナーが到着。妙高亡き今、189唯一の運用。
2015.7/31   信越本線  長野   EOS5D 100-400mm

 ゆっくりと構内を移動したクモユニ143はホームを少し過ぎたところの電留線で停車した。出発時刻までここで待機するのだろう。まだ2時間程度あるので車両センターへの返しは構内ではなく駅チカの踏み切りで狙ってみようと改札を出ると、強烈な睡魔に襲われた。ダメだ・・・こんな状態の中炎天下を歩くのは非常にメンドクサイ。5秒で諦めの決断をして帰りの古間までの切符を購入。入場して駅待合室でうたた寝をすることに決めた。やがて10時。クモユニが止っている7番線の先端に見に行くと全く動きは無いようだが、いつまた静かに動き出すとも限らないので三脚をセットしビデオカメラを回し始めた。
 で、もって10:30。到着した時と同様、タイフォンも無く前触れ無く突然ゴトリと動き出し目の前を通過。慌てて1枚撮影。しかし遠くに見える出発信号は赤である。どうするのかとその行く末を目で追うと、人が歩くスピードでその出発信号まで近づき、やがて停車。ここで青を待つのかも知れない。




突然動き出した帰区のクモユニ143。こんどは「101M」ですか?
2015.7/31   信越本線  長野   EOS5D 24-105mm

 赤の現示に行く手を阻まれたクモユニ143は、数十秒そこで立ち止まり、やがて変わった進行の青に促され静かに構外へと消えていった。これからも毎日繰り返される光景。いつまでも現役であって欲しいと思いながらやってきた普通電車に乗り込み、バイクの待つ古間駅に戻った。今度は普通のライダーとしてツーリングを楽しみ、R292号線で標高2172m国道最高所である渋峠を越えて草津〜渋川を経由し帰還した。

今回の走行距離 730km