中央東線にEF64が復活! 迂回貨物8090レ、8093レ

2014.7/28

 何連勤したのかもう分からなくなってきた7月下旬の日曜日。週末のドロドロの勤務が終わって夕方家に帰ってシャワーを浴びて昼寝から目覚めると21時過ぎだった。シフト上明日は休み。やることは数え切れないくらいに溜まっているけど、久しぶりにリフレッシュしたいと考えた。この時間だと行く場所は限られるので、今秋にダム湖による水没が決まっている吾妻線でも行こうかなと考えていた。どこまでが水没区間なのか、どういった撮影地があるのかほとんどシロウトだったので小一時間ほどネットで探りを入れるつもりで、幾つかの個人サイトを覗いていると、中央東線をコキを牽いて先頭に立つ、原色のEF64の写真があった。昔の写真かな? 自分も今から10年ほど前、64の1000番台を追い求めて何度か長坂や小淵沢に足を運んだことはあった。遠い記憶を蘇らせるように当時の写真を眺め始めようかと思った時、そのサイトの写真の撮影年月日を見て驚いた。2014年7月。つい最近のことである。気になりだしたら止まらない。貨物関係のサイトも当たってみると、どうやらこんなことになっているようだ。今月中旬発生した豪雨により中央西線、南木曽付近の路盤が流出した。ここまでは知っている。テレビの映像で鉄砲水が沢を一瞬にして襲うセンセーショナルな画像が繰り返し放送されていたので記憶に新しい。問題はここからだ。中京圏と信州を結ぶ貨物列車は愛知機関区のEF64牽引で日に数往復現在も運転されているのだが、路盤流出まで被害が及んだ中央西線の復旧は数日を要するわけで、さすがに全てをすぐにトラック輸送に切り替えることもできないため、東海道〜中央東線経由の迂回貨物列車が設定されているということだった。任務に就くカマは愛知機関区、EF64-1000番台! コイツが2014年夏、中央東線に復活したというのだ!

 早速卓上調査に入る。1日1往復のこの列車は8090レ、8093レという以前から存在する臨貨のスジで走らせているらしく、またほぼ毎日、更新機の1025号、国鉄色1019号が交互に運用に就いているらしい。気になる本日は8093レに1019号機が入っているので、ほぼ確実に明日上りの8090レに原色EF64が首都圏目指してやってくることになる。これはアツイ!! しかし手元に最新の貨物時刻表は無く、運転時刻が分からなかったので、しかたなしにネットで数々発表されている、その迂回貨物の画像が掲載されれているサイトの写真のプロパティを幾つか調べてみるも、修正されているのか分からずじまい。しかしサイトの本文から大体、明るくなった頃に長野県内を出発。八王子には正午前ということだけが分かってきた。次なる手は確か押入れに捨てずに取って置いたと思う古い貨物時刻表。2009年版があったので調べるとあった、あった! 

8090レ  臨高速
南松本 6:18
塩尻 6:33
甲府 8:36
八王子 10:56

・・・とある。しかし同じ列車番号でも大幅に時刻変更されることのある貨物列車時刻。5年前の情報ではあまりにも心もとない。なのでひょっとして、もしかしたら、と思いDJの巻末付録のダイヤグラムに中央東線のそれが無いか調べることにした。すると奇跡的にも本年4月号に求めていたその情報はあったのだ。8090レも当然太い破線で掲載されている。ここまで1時間。ようやく欲していた情報が手に入った。今回は小淵沢以南の撮影のため全区間ではないのと、飽くまでもダイヤグラム上の目測なので分単位の正確な時刻は省略する。

8090レ  臨高速

小淵沢 7:50頃
韮崎 8:15頃
甲府 8:35頃
塩山 9:00頃
大月 9:30頃
猿橋 着9:35頃  発11:10頃
上野原 11:25頃

猿橋で1時間45分ほど普電や特急の退避があるので前後追っかけもできそうだ。それにしても楽しかった。排雪や貨物関係でごくたまにやる鉄道推理。これを現実のものとして手中に収めるべく深夜0時過ぎ、出発することにした。

 今回まず目指すのは中央東線の高原らしい風景が広がっている八ヶ岳付近。小淵沢を8時前であるので今から出発しても少し仮眠できそうだ。先月末に開通した圏央道でついに東名と中央道が連絡。かつて大渋滞の国道16号をひたすら八王子まで耐えた横浜市民からすると中央高速へのアクセスは格段と良くなった。深夜なのでその恩恵は少ないが日中とあらば時間は半分程度になるだろう。順調に流れに乗りながら双葉SAに到着。少し仮眠することにした。

 6時起床。空は広く雲に覆われているが、日照りの朝曇りという昔からの言い伝えを信じたい。天気予報も日中は晴れだ。SAを出てすぐ次の韮崎ICで高速を降り、七里岩ロードを中央東線沿いに走りながら昔の勘を思い出して撮影地を探し始めた。この地に通い詰めていたのは確か10年前の初夏のことだったと思う。鳳凰三山、甲斐駒ケ岳、北岳、そして八ヶ岳。名立たる山々のすぐ麓を走る中央東線沿線の初夏は、どこを撮っても美しく、なんというか、こんな絵本の中に出てくるような風景の中、国鉄色EF64や修学旅行臨の183を撮影できて至福の時を堪能していた。今日は梅雨明けもした7月下旬。あの初夏の陽気とは違いムシムシしたまとわりつくような湿気の中、霞かかった八ヶ岳がようやく見える程度である。何箇所か記憶を思い出しながらたどり着いた撮影地は長坂の八ヶ岳バックだった。クルマを停め築堤に這い上がると、先客の方が1名様。ここのキャパは2名までだったので挨拶をして隣に入れてもらう。「迂回ですか?」 「そうです。このまま1019が流れてくればいいですね」としばらく雑談を交わして1時間ほど時間を潰す。その方は甲府以西の時刻を知らなかったので教えてあげたり、また逆にこの列車の運行は8/9までで、さらに重連の計画があるらしくEF64×2両を組んでハンドル訓練も最近始まった、との情報をいただいた。到着した時にはぼんやりと見えていた八ヶ岳は、太陽が高度を上げるごとにくっきりと山容が見えてきたが、一方山頂の雲は増すばかりで赤岳を最頂点とする特徴的な山々はここからは確認できなくなってきた。でもまぁこの高原らしい長坂の大カーブを間もなくロクヨンが貨物を牽いてやってくると思うと、いつになく心地良い緊張感が支配してきた。ニヤニヤを押さえながら構図を何度も確認していると、先客の方は携帯で、「今日の8090レは1025号機です・・・」と残念なお知らせを告げてきた。「え゙っ!?」と自分。確かに昨日の下り8093レの運行情報はなく、8093レがウヤであれば一般色1019号機、更新色1025号機は2両とも首都圏にはいないはずで、今からやってくる8090レにはどちらのカマが就くかは分からない。よりによって更新色だったら勘弁してくれ・・・と2人の思いは空しく、遠くの踏み切りが鳴る音を合図にビデオをスタートした




八ヶ岳は雲の中だわ更新色だわ半コキだわ。このまま引き下がれませんな。
2014.7/28  中央本線  小淵沢〜長坂   EOS5D  100-400mm

2014.8/4

 あれから1週間近くが経った。あの長坂の撮影地の隣人の言っていたとおり、一昨日からEF64×2の重連での運転が始まっていた。今までは国鉄色と更新機の交互の運用であったので、毎日上りか下りで国鉄色1019号機を先頭とした編成が見られたのだが、ここに来て重連となると先頭になる確率は1/4になってしまう。これに賭けて休みである今日、再び中央高速に乗った。ところで昨日の上りの見たまま情報が無い。上り8090レが本当にウヤだったのか定かではないが、甲府付近ですれ違う8090レ、8093レ。来るかどうか分からない下り列車に国鉄色が入らなかったとしても、少し移動して程無くやってくる上り列車の先頭に立ってくれれば、こっちとしては嬉しい。そんなわけで今日は早朝に出発して大月付近に6時頃到着した。採石場に向かうトラックしか通らない跨線橋の上でしばし待機。昨日の上り列車の情報が無いので、何番のカマが来るのか?それとも最悪ウヤなのか、分からないまま通過予定時刻の10分ほど前からビデオをスタートさせた。やがて東の方から独特のブロアー音が聞こえてきた。従えるコキのジョイント音もだんだんと近づいてくる。「来る!!」 そしてゆっくりとカーブの向こうから姿を見せたのは更新色×2の重連だった。「あー」とため息が漏れる一方、積荷はほぼフルコキ状態。ゆっくりと、しかし力強く昭和生まれの電気機関車は僚友同士手を組み合って重い重い荷物を引き連れてきた。




2014.8/4   中央本線  大月〜初狩   EOS5D  24-105mm

 8093レを見送り、果たして上り8090レに何号機が入っているのかが気になる。近くのコンビニへ移動し車内で朝飯を食いながら10分おきに掲示板を更新すると上流の目撃情報がついに上がってきた。1024(更)+1012(国)。おっと、これでは肝心などちらが先頭となる本務機かは書かれていない。ま、多分か書き方からして国鉄色である1012が次位なんだろう。やる気スイッチをオフにしたまま、先ほど撮影した跨線橋に舞い戻り、今度は反対側へレンズを向け8090レを待つことにした。




2014.8/4   中央本線  初狩〜大月   EOS5D  24-105mm

 残念なことに国鉄色である1012号機は来てくれたものの、次位に就き、荷の軽い半コキ編成を従えながら峠道を下ってきた。このまま順当に流れれば明日の下りは1012号機が勇ましく先頭に立つ8093レをゲットできそうであるが、これまた残念なことに明日は仕事である。しかし思った。このコンビはあさって更新色を先頭に再び首都圏に現れて、その次の日、つまり「しあさって」には1012号機が先頭で下り8093レに入ってくれるはず。その運命の「しあさって」は午後からの勤務だったので頑張れば臨貨最後の国鉄色がついに我が手中に入りそうなのである。この日はすぐに帰宅し、8093レの時刻、幾つかの撮影地、高速道移動の平均時速、そして肝心な勤務開始時刻などを、昼間からビールを呑みながら吟味していると、どうやら高速を使って追っかけができそうな気配が濃厚になってきた。クルマでは撤収やなんやかんやで厳しいだろう。決戦に使う最終兵器はバイクでの中央道追っかけに決定した。

2014.8/7

 前回の撮影から3日後。例のコンビは解かれること無く、順調に信州と首都圏を1往復していた。当日朝、4時起床。前日準備しておいた機材と充電満タンのバッテリーを携えて裏高尾に向かった。早朝から徐々に上がってくる気温も心地よく、東名〜圏央道のコースで撮影地に到着した。国道20号線、小名路の交差点を裏高尾方面に入ると、「いかにも」な感じの県外ナンバーのクルマや、不自然に細長い肩掛けのバックを背負って歩いている方を何度か追い越した。天気もよく晴れている。決戦を今日と選んだのは大正解だった。高鳴る鼓動。あと数キロなのに一刻も早く目的地に到着していたい。スロットルを少し開け気味にしながら線路沿いの農道を駆け上ると先客の方が3名ほどいらっしゃった。撮影後の時間も無いのですぐに出発できるようにと、バイクをUターンさせようとすると・・・、おっとバランスを崩した。でもまだ倒れていない。「ぐぬぬぬぬ」とよく分からない奇声を発しながら無理な体勢で5秒間ほど耐えていたが、撮影機材フル装備 + 乾燥重量210kgのバイクはたいそう重く、情けないことについに力尽きてしまった。砂利道でゴロリと倒れるバイク。被害状況も確認しないまま、すぐにバイクを起こしてセッティング開始。完全ド逆光だが間もなく国鉄色ロクヨン先頭の重連がここにやって来る。バイクのことは忘れ何度も空シャッターを切り露出を決定。そしてその時を待った。




2014.8/7   中央本線  高尾〜相模湖   EOS5D  24-105mm

 あれ? 後ろに付いているはずのコキの姿はどこにも無く、虚しく重連単機で峠道を軽やかに登っていった。通過の後、ビデオを止め迷うこと30秒。小淵沢まで追っかけしようかどうか・・・。午後の仕事のこともあるし傷ついた心とバイクのこともあって追っかけは諦めることにした。機材を撤収し、被害状況確認。砂利道の攻撃力は半端無く、ミラー、サイドカウル、フロントカウル、アンダーカウル、挙句の果てにはステップボードまでギタギタになっており、暑さと絶望感から一瞬軽いめまいを起こしてしまった。その傷ついたバイクに跨り家路へ急ぐ。運転しながらパーツ全交換ならおよそ3万円くらいか。いや、でも自分には研磨、塗装、磨きの技術は持っている。よくよく考えた末、帰り道、開店したばかりの近所のバイクパーツ屋に立ち寄り、耐水ペーパー、パテ、プラサフ、そして純正色のペイント缶を調達し、帰宅後、午後の仕事まで修繕作業に取り掛かった。 結局翌日の運転でこの迂回貨物列車の運転は終了。そしてオレの夏もあっけなく終わってしまったのだった。