吾妻線水没区間、からの北紀行

2014.9/17

 2014年の夏季休暇は4日取得できそうになった。その一日目、職場で忌まわしい突発的なあることが起き、残る連休は3日になってしまった。最後の夏になる可能性のある新潟地区の485の撮影などに没頭しようと考えていたが、どうもこの一週間、日本海側の天候が思わしくないようだ。せっかく3日間もあるので映えぬ天気の中、撮影してもつまらかろうもんと考え、来週ダム湖の水没による新線付け替えで廃止となる吾妻線へ行くことにした。何日もかけて撮影するほどのことも無いかもしれないが、記録として残しておこう。今季は泊まりツーリングはしていなかったので、バイクで向かう。

 当日。自宅から100km圏内であるので未明の暗いうちに出発。渋川伊香保ICで関越を降り、吾妻川沿いに奥地へと向かうが、どうも天気が冴えない。雨こそ降ってはいないが空一面厚い雲が覆っている。なんだかやる気も出てこないな〜と思っているうちに、いよいよ新線切り替えの分岐となる岩島駅に到着した。同じく付け替えの並行する国道145号線もちょうどこの付近から真新しい道路に切り替わり、ダム本体をかわすように大きく迂回して高度を稼ぐ。自分はそのまま旧道を直進。吾妻川渓谷を横目に川原湯温泉駅に到着した。廃止を来週に控えていることもあって駅前はテツ以外にもカメラを持った何人かのギャラリーが、何も無い駅前のロータリーをウロウロしている。駅舎は昔ながらの趣のある郊外の有人駅といった感じだが、周りを見渡すと、すでに水没のために駅周辺の建物の類は全て高台に移転済みであり、基礎だけを残し多くの建物は解体されており、建築物はこの駅舎と近くの郵便局だけという寂しい様だった。まずは駅舎を観察だ。


いずれも川原湯温泉駅。
2014.9/17   吾妻線  川原湯温泉   EOS5D  24-105mm

 天気は今日一日中こんな調子な様なので、とりあえずは日本一短いトンネルとして有名な樽沢トンネルに向かってみることにした。今来た道を引き返しダンプの行きかうホコリっぽい道を進み、吾妻渓谷沿いにあるトンネル前にやってきた。すでに非テツ・テツ含めて10名様ほどが崖の上にあるトンネルにレンズを向けて待機しておられた。手前には電線、どうやってこれをかわしているか不思議だったので、自分も立ち位置をいろいろ変えてみたがどうしても太っいケーブルは入ってしまう。ちょっと他の場所へ移動しようと思っていると、一団が次第にシューティングの体勢に入った。そろそろ電車が来るのだろう。そういえば自分は列車の時刻など調べていなかったので、記念に、と慌てて準備を始めた。




なんというか・・・賑やかな感じの樽沢トンネル。
2014.9/17   吾妻線  川原湯温泉〜岩島    EOS5D  24-105mm

 さてこれからどうしたもんか・・・撮影地の道端に停めておいたバイクに跨り、エンジンをかけたところでふと思った。もうこういう時はメシでも食いながら考えよう。少し下界の原町まで行き給油を済ませた後、メシ処を探す。旨そうなラーメン屋を見つけたが本日休業。仕方なく大型ショッピングセンターの中にあるテナントのラーメン屋に入店した。券売機で並のメニューを注文。しばし待っていると、周囲の客が食しているモノがどうもおかしいことに気がついた。どれも皆超大盛りなのである。イヤな予感がしながら自分の番号が呼ばれカウンターに取りに行くと、案の上、大盛りのさらに上を行く「富士盛り」だった。すぐに戦意喪失。巨大な丼の上に乗っている、丼一杯くらいの野菜を掻き分けてすすると麺もスープもまぁおいしい。しかしそれは3口目まで。何とか頑張って1/3くらいまで行けたが、ついにギブアップ。食べ物を残すことは絶対しない主義だったが、これには参った。店員が後ろを向いている隙にシレっと返却口に丼を置き、退店した。1/3ほどだったがダメージは相当なもので、そのショッピングセンターの休憩所のベンチでグロッキーになること1時間。ようやく動く気力が出てきたので、再び川原湯温泉駅に向かってみることにした。




川原湯温泉駅に進入する下り列車を遠望。
2014.9/17   吾妻線  川原湯温泉    EOS5D  100-400mm






川原湯温泉を下り方に出るとすぐに吾妻川を渡る。
2014.9/17   吾妻線  川原湯温泉〜長野原草津口   EOS5D  24-105mm

 いつの間にか15時を過ぎていた。雨こそ降らなかったが全く撮影に満足行ってない。新しい付け替えの国道沿いにある道の駅で休憩と明日への作戦を立てていると、天気予報では明日の群馬県は「晴れ時々曇り」とのこと。一方で日本海側は「曇り時々晴れ」。加えて485の国鉄色もあまり活躍していないようだったので、明日も吾妻線リベンジに決めようとしていたその時、ふともう一つのターゲットを思い出した。信越山線「妙高」に就く183系 N101編成だ。現在長野に所属する183,189系はN101〜103まで3本在籍しており、そのうちの2編成が「妙高」を担当しているが、唯一の国鉄色N101編成が2つの運用のうち、オイシイ狙った運用に就くは1/3の1/2、つまり1/6の確立になる。狙うは今夜、小諸でマルヨする編成。この編成が明日、最も撮影的に適した妙高1〜4〜3〜6号へと流れる訳なので、今から小諸まで確認しに行って、明日の行動を決めようと思う。マルヨといっても11時頃には小諸に到着してそのまま翌朝まで滞泊なので、今から行ってもすでに入線しているはずである。とはいっても小諸まで標高1000m超の高原を越えなければならない。今回の旅の持ち合わせの防寒着を全て着込んで吾妻線を後にする。ルートはせっかくなので浅間山のすぐ麓を南北に貫く快走路、鬼押ハイウェイだ。走る車も少なく、直線と超が付くほどの高速カーブでダイナミックに高原地帯を貫くのだが、標高を稼げば稼ぐほど、霧が濃く立ち込めるようになってきた。その霧の粒もやがて雨に変わり視界が悪くなり巡航速度もガクンと落ちる。運転に集中し過ぎたせいもあってか最高地点をいつの間にか通過。軽井沢の街に下りてきた。天気が良かったら最高のルートだっただろう。テツのことは忘れていつか走りに来たいと思った。軽井沢から国道18号線で小諸市内へ。駅裏手に近づき構内に停まっているはずの183を探すと・・・いた。国鉄色ではなく「あさま色」。もう一本稼働している編成は現時点ではわからないが、明日の撮影は吾妻線にして、あさってN101を狙って信越山線に行こうと決めた。
 ふと、ここで今日の寝床を決めていないことに気がついた。寝袋は持ってきていないし健康ランド的なところがいいかもしれない。明日の行程も考えて群馬県中心部まで戻ろうかとも思ったが、まだ雨も止まないのでこのまま長野市内まで出向き、以前長野電鉄2000系撮影の際に泊まった篠ノ井の健康ランドにしようと決定。小諸駅を後にした。しばらく走り長野市内に入る。前回の記憶をたどりながらスピードを落として注意を払っていると、あろうことかなんとその健康ランドは廃業していた! どうしよう・・・雨中走行の疲労でもうあまり動きたくない。その場でスマホで長野市内の健康ランドを探すもほとんどヒットせず、唯一あったのが長電の終点の湯田中にある施設だけとのこと。しかしそこのHPを見てみると普通の温泉旅館ぽく、ちょっとイメージしていたものとは違い、最悪ビジネスホテルでも探そうと思う。が、その前にやることがあった。「妙高」2編成のうちのもう1編成の確認だ。そのもう1編成は19:37に長野を出発する「妙高5号」。この列車は5号で直江津に到着後、そのまま滞泊。翌朝2号となって長野に戻り、そのまま回送列車として小諸に送り込まれ、翌日まで滞泊。晴れて次の日に先述した1〜4〜3〜6号で大活躍する。というわけで、今日の「妙高5号」の確認はあさっての撮影に欠かせない行動である。寝床はそれから探せばいい。早速市内を横断して住宅街にある北長野駅に到着した。日没後だし住宅街の真ん中なので撮影はナシ。踏み切りで5号が来るのを待った。やがて発車時刻。2灯のハイビームでよく分からないが、目の前を通過したのは確かに国鉄色N101編成だった。OK。残り2日間の行動が決定した。
 国道に戻り旨そうなラーメン屋に入り、今日の昼飯のリベンジをし、寝床を探そうと行動を開始する。そう言えば長野市内に入る際、ネットカフェがあったのを思い出した。風呂に入れそびれてしまうが、もう移動する気力が起きない。千曲市内のネットカフェに入店。その場で会員になり、人生2度目のネカフェ宿泊をすることにした。

本日の走行距離 408km


2014.9/18

 意外にもネットカフェは快適だった。フリータイム終了8時ギリギリに退店。朝ラッシュの国道18号線を上田まで向かい、ここから鳥居峠で山越えをし、嬬恋村に向かうルートを選択する。万座鹿沢口駅前のコンビニで朝食と休憩。川原湯温泉駅に向かった。時間が経つにつれ昨日は全く見ることの無かった太陽が出てきた。昨日とは全く印象の異なった川湯温泉駅でカメラ片手にウロウロし、記録を残した。




2014.9/18   吾妻線  長野原草津口〜川原湯温泉   EOS5D  100-400mm




2014.9/18   吾妻線  川原湯温泉〜長野原草津口   EOS5D  24-105mm




2014.9/18   吾妻線  川原湯温泉   EOS5D  24-105mm

 ひとしきり撮影が済んだ後、午後の列車撮影まで時間が空いてしまったため、暇つぶしに太子(おおし)線の廃線探索をやってみることにした。もともとこの吾妻線は、長野原地区に存在した鉄山の鉄鉱石を運び出す目的で、戦時中、長野原線として作られたのだが、戦争の終局と鉄山の閉山に伴い、末端区間である太子〜長野原間が廃止され、現在でも遺構が残っていると聞く。まずは上流の長野原草津口駅へ。駅自体は場所は変わらないのだが、新線切り替えを控え、ついでに駅舎と駅前ロータリーも真新しく整備しなおされている。ここから現在線に別れを告げ太子方面へ向かう国道292号に折れるとすぐに遺構が目に飛び込んできた。




白砂川を渡るガーター橋跡。左上は国道のバイパス工事中。(携帯電話のカメラで撮影)



路盤はほとんど残されている。一部通行可能なトンネルもあり、生活道路になっていた。



終点太子駅跡。積み込み施設が残り、公園として整備されているところだった。


 ←公園にあった説明書き(クリックして拡大)


   
当時の写真と定点観測。右のトイレだけが全く変化が無い。




秋になれば紅葉が美しかろうに。ただ切り替えは9月いっぱいなのでもう見ることはできない。
2014.9/18   吾妻線  岩島〜川原湯温泉   EOS5D  100-400mm




昨日と同地点の道の駅の裏手から。晴れているとだいぶ違う印象だった。
2014.9/18   吾妻線  川原湯温泉〜長野原草津口   EOS5D  24-105mm

 今回はツーリングも主な目的の一つだったので、撮影こそ100%満足したかといえばそうでもないが、楽しい一日なった。さてそろそろ明日のステージでもある信越山線へ移動しよう。ここからだとダイレクトに長野・群馬県境に位置する草津白根山を越えるルートが面白そうだ。サミットには国道で日本一標高の高い渋峠(2173m)もあり一度訪れてみたかった。標高600mほどの長野原から急勾配をひたすら登って1100mの草津中心部に到着。はるか頭上に見える草津白根山に向けて、再び休むこと無いほど厳しい登り勾配で上を目指す。登れば登るほど気温が下がり、同時に草津温泉の市街が眼下に小さくなってゆく。この一帯火山地帯でもあるので草木の育たない荒地があったり、また高山でもあるので植生が変わってきたり独特の世界が広がってきた。途中展望台らしきものがあったの少し景色を眺めてみようとピットインしたとき、さっき草津市街で見た気になる看板を思い出した。「志賀高原方面○○時より通行止め」のお知らせだ。まさかとは思うがこういうところは夜間通行止めなのか?と携帯で地図サイトを幾つか調べると、本当に17時以降通行止めとある。ゲッ!? 現在時刻は16:40。かなりヤバイ。どこのゲートで封鎖されるのか分からないが、2173mの峠手前で引き返すようなことがあったらたまったモンじゃない。夕刻で気温も急速に下がってきたし、もしゲートに阻まれてしまったら明日の撮影のためには鬼の大迂回をしなければならない。すぐにバイクに跨り発進。メーター内の時計を見ながら誰もいなくなった峠道をただひたすらに孤独に攻め続ける。そして16:54。国道日本最高所、渋峠を無事に通過。峠にあった温度表示計は2℃を示していた。寒い。その寒さからも逃げるように攻めの速度は落とさないまま、麓の中野市街まで標高差1600mを一気に駆け下りた。高速インター近くで給油。近くの信州中野ICから国境越えのためだけに上信越道に乗り、妙高ICで一般道へ出た。あとは直江津を目指すのみ。昨日会員になったばかりのネットカフェチェーンの上越店に転がり込んだ。昨日調べておいたのだが、ここには珍しくシャワーがあるので、風情もへったくれも全くないが、2日間の旅のホコリを洗い流し、さっぱりしたままビールを注文。グデグデになりながらその晩は更けていった。

本日の走行距離 236km


2014.9/19

 翌朝。暗い個室では外の天気が全く分からないが、天気予報では今日一日中快晴とのことで撮影に気合が入る。個室の中の私物を片付けて受付に会計に向かう。シャワー、ビール×3杯、利用料諸々で¥3800程度だったと思う。支払いをしようとサイフの中を見ると、昨日の夜と違う感じ・・・。あれ!?と思いながらよく調べても千円札2枚を残してそれ以外が「無い」のである。まさか、

盗られた・・・

昨日寂しい駅前の川原湯温泉の郵便局で¥20000下ろした。そこからガソリンや飯代やらいろいろ合算しても、理論上の手持ちの金額と全然あっていない。¥15000ほど足りていない。確かに昨日サイフを個室に置きっぱなしで2回ほどトイレに行ったし、さらにもう1回は酩酊状態でドリンクバーのアイスクリームを作りに行っている。でもそんな一瞬をついてやるもんなのか?むしろ自分の勘違いではないか? ともかくこれでは退場も出来ないので、店員に金を下ろしに行くことを伝え、近くのコンビニへ向かう。外に出るとまぶしいくらいのド快晴。普通ならテンションMAXで撮影地に向かうはずだが、今日はなんとも形容しがたい。コンビニのATMで資金調達。すぐにネットカフェに戻り支払いを済ませる。店員に言って警察を呼ぼうか迷ったが、こんな快晴の中、183のN101編成はもうすぐやってくるのである。仕方なく\15000は諦めて、撮影地にまずは行く。決めていたお立ち台に到着すると、そこには¥15000のことも忘れるかのような息を呑む美しい光景が広がっていた。



中央が妙高山。左奥が黒姫山。美しすぎる・・・・

 高原の朝の空気はとても清々しく、撮影前の一服をするのも空気を汚してしまいそうではばかられる。しばらくするとクルマでやって来た1名とバイクでやって来た1名、そしてどこから歩いて来たのか徒歩テツ1名、そして自分の計4名が間もなく峠を降りてくる被写体を待っていた。自分はこの幸福感にとうとう我慢できなくなり、集団から少しはなれた木陰で一服。精神統一したところでスタンバイの体勢に入った。




「妙高1号」 その名前の由来、妙高山山頂に雲が沸いてしまったが、稲穂に国鉄色が映えまくり。
2014.9/19   信越本線  関山〜二本木   EOS5D  24-105mm

 自分史に残る素敵な鉄道シーンだった。しかし撮影後緊張が緩んだせいもあってか急に便意を模様してきた。あぶないあぶない。あと10分遅ければこの情景を収められなかったかもしれない。すぐに機材をしまい関山のコンビニでトイレを拝借。返しの4号の作戦を練ることにした。近場を何箇所かロケハンし、あまりにもベタだが関山の防雪林バックに決定。すでに近畿地方、中京地方のナンバーのクルマが終結し、10名以上が平和な景色の中、思い思いにスタンバイをしていた。自分もベストなポジションを選択し、最近ピンが甘くなったように感じてきた我が愛機に不安を感じ、今日はマニュアルでピント調整。その時を待った。



ちょっと早切ってしまったが往年の特急街道を彷彿とさせる光景に満足した。
2014.9/19   信越本線  二本木〜関山   EOS5D  100-400mm




長野からの「妙高3号」。曇ってきた。善光寺平を後にして峠越えの体勢に入る。バックの北陸新幹線が開通した頃にはこの光景は見られない。
2014.9/19   信越本線  豊野〜牟礼   EOS5D  100-400mm

 そしてラストの撮影になった。午後の光線が美しい古間の黒姫山バックに決めていたが、先ほどの3号の時点ですでに一面の曇り空になってきて、このまま天候の回復はもう望めない。しかしせっかくなので狙ってみることにした。到着時にはすでに黒姫山は雲で半分しか見えなくなっており記念写真程度になってくれるだろう。まずは直前の普通列車で露出確認。たまに薄日も差すような感じなので運次第で少しはまともな画が撮れればと期待してみた。


黒姫で「妙高6号」と交換する353M。少し日が差して稲穂を黄金に変えた。この5分後に期待する。
2014.9/19   信越本線  黒姫〜古間   EOS5D  24-105mm




たった5分でこの変わり様。あえなく撃沈した。
2014.9/19   信越本線  黒姫〜古間   EOS5D  24-105mm

 6号を撮影し終わり、すぐに近くの信濃町IC目指して爆走。すぐに高速に乗った。落ち込んでなどいられない。実は明日早朝から仕事があり、睡眠時間も考えて5時間以内で帰還したい。信濃町から埼玉県の花園PAまでノンストップで走りきり、目標であった21時に自宅に到着することが出来た。来年春、しなの鉄道への移管が決定しているこの区間。当然現在活躍している183系たちにも少なからず変化は起きてくるだろう。残り半年。何回訪問できるかは分からないが、優先順位を少し高めてまた再訪してみたいと思う。

本日の走行距離 400km

今回の旅の走行距離 1044km  終了。