烏山線の春。

2013.4/4

 新年度になり、桜もいよいよ見頃となったころ、少し遠征してみようかと思った。気象庁やその他桜専門のサイトによると、今年の桜は例年よりも10日程度早めの開花〜満開になるという。つい最近、烏山線キハ401004がタラコに塗り替えられ、新たに国鉄色がもう一両加わったことでもあるので、4月中旬くらいに桜と絡めて撮影に行こうと思っていた。しかし桜前線のこの早さ。計画していた中旬では満開に遅いようでもあるのでプランの前倒しをすることにしたが、どうしても仕事の休みがうまくいかず、苦し紛れに遅番の仕事終わりでそのまま出発にするしかなかった。烏山線まで100kmちょい。無理すればなんとかなるだろうと、深夜3時過ぎにクルマで出発した。東北道はいつにも増して順調で、空が白み始める頃宇都宮ICで降り、一般道で目的地に向かった。懸念していた睡魔もそれほどなく、午前の3連に国鉄色が入って、どこかで見事な桜があればそれを絡めて昼寝でもしようと考え、下野花岡駅に到着した。すると突然踏切が鳴りだした。列車の時刻は現地についてから確認しようと思っていたので、すぐに時刻表をめくると烏山行きの下り一番列車である321Dがやって来るようだ。天気は日の出の時から快晴。真っ赤な朝陽が線路とバックの日光〜那須の連山を幻想的に浮かびあがらせている。さて充当車両はいかばかりか。一番列車は3両。1往復のラッシュ運用をこなした後、烏山方の1両が任を解かれ、他2両が終日運用されるので今日の撮影プランにも大きく影響される。近づいてくるキハ40。真正面から昇りたての朝陽を浴びてやって来たのは先頭からタラコ+一般色+烏山色の編成だった。紅い光を前面に受け、ただでさえ紅いタラコをさらに燃え上がらせている。うぉー美しい・・・。しかし咄嗟だったのでカメラは持っていない。列車は下野花岡駅に停車し、カメラを取り出して飛び出そうか、間に合うかを判断しかねてオロオロしているうちに、321Dは軽やかに出発していった。あと1分早く到着していればと後悔したが、気を取り直して返しとなる324Dの撮影場所を決めることにした。戻ってくるのは1時間半後だ。今日は一応桜目的でやって来たのだが、ここ下野花岡の山バックも侮りがたい。光線は後追いで順光だし、とりあえず一発目はここから行ってみたい。



324D。方角的に右から男体山〜女峰山でしょうか?
2013,4/4  烏山線  下野花岡〜宝積寺   EOS5D  100-400mm

 通過していった3連の324Dの折り返し327Dは、ラッシュ運用を終了し烏山方の1両、つまりタラコを切り離しまた戻ってくる。その頃には紅い朝の太陽光線ではなく、昼のそれになってしまうので、線路近くの桜の花を探すことにした。下野大野近くのキリンビール工場の桜並木が見事だったり仁井田駅構内の桜が可憐だったり・・・撮影地選びに事欠くことはないのだが、どうしても光線の具合や画面に占めるピンクの花弁などを欲張ってしまい、なかなか撮影場所を決めることができないまま、ついに小塙まできてしまった。うぅ〜ん早くしないと列車がやってきてしまう。のどかな農道で慌てふためいているうちに、小塙駅に列車が到着するのが見えたので、築堤脇に慎ましく咲く一本の桜の木をバックに手持ちでいただいた。



327D。ビデオも失敗したり電柱が煩かったり。何しに来たんじゃこりゃ。
2013,4/4  烏山線  小塙〜滝   EOS5D  24-105mm

 昨日の仕事から不眠不休でやって来てしまったため、上記やる気の無い写真を撮影すると完全に抜け殻のようになってしまった。もうここにこれ以上いても成果など挙げられないであろう。まだまだ正午前ではあるが次の330Dを撮影したら本気で昼寝して、みなぎる物がなかったら撤収。そうでなかったらその時考えようと思い、小塙駅周辺をウロつき始めた。すると今撮影した桜の木の反対方に、趣のある土蔵があったのでここに決めて、無事330Dを撮影。しかし撮影した時には意識が朦朧としており気がつかなかったが、帰宅してから画像を確認すると、背後の電柱やらカーブミラーなどがあまりにも大胆に写り込んでおり、その時の精神状態がうかがい知ることができて笑えた。



2013,4/4  烏山線  小塙〜滝   EOS5D  100-400mm

 撮影後すぐに車に戻り、鴻野山駅近くのコンビニの駐車場で昼寝タイム。春の麗らかな陽気に促され、窓を開けて気を失おうとしてみたが、入り込む直射日光で寝付くこともできず、だったらもう一本やって撤退を前提とした仮眠を取ろうと思い立ってしまい、またフラフラのまま烏山線最高のロケーションでもある鴻野山〜大金の田園地帯に向かった。特に狙った画がある訳も無いのだが何かいいことが起こりそうな予感が勝手にしたため、この界隈を選んだ。このような仮死状態でも本能的に「桜」は求めており、遠目から望めた見事な咲きっぷりの一本の桜を目指して近づいてみると、小特車以外通行禁止の小さな踏切に出会った。南中下の太陽の日差しとピンクの花びらと、そして疲労と眠さもあいまって、まるで自分の存在がここにあるのか無いのか分からなくなるような不思議な錯覚に陥った。やがて幻聴のように警報機の音が聞こえ、何かに操られるように露出、シャッター速度を調整。無意識に連写はせず指先一本で通過する一般色を仕留めた。



2013,4/4  烏山線  鴻野山〜大金   EOS5D  24-105mm



ここの踏切名。もうどうにでもしてくれ・・・。

 たぶんこの時、白目を剥いて口は半開きでシャッターを切っていたと思う。もう限界だ・・・。車に戻り安眠できる場所へ向かうべく走り出すとすぐに、今度は一面黄色の菜の花の群生に出会い、ブレーキを踏んだ。ここは天国か?それとも桃源郷か?今の一般色はすぐ先の大金で交換して上り列車がもうすぐやって来るだろう。最後にあと数年で姿を消す烏山色も記録に残しておこうと再び三脚をセットし始めた。



2013,4/4  烏山線  鴻野山〜大金   EOS5D  24-105mm

 まぁ最後の写真はご愛嬌ということで、ついに帰ることにした。時間はまだ正午。飯も出発してからほとんど食べていなかったので、こってり系のラーメンがどうしても食べたくなり、携帯で山岡屋のホームページを検索し、宇都宮郊外のある店舗でネギラーメンを喰ってしまうと急速に夢遊病から目覚め、なぜか急に元気になって一般国道4号線で南下したのだった。