久留里線 国鉄型気動車最終章

2012.12/1

 早朝からの仕事を終え、自宅に飛ぶようにして帰り、充電しておいたEOSとビデオカメラのバッテリーを装着しバイクのトランクに放り込んだ。今日は撮影が目的ではない。何度も通った久留里線、国鉄型気動車にお別れをするためだ。写真は散々撮って来たし、混雑する最終日にまともな写真なんて撮れるはずもなく、各種掲示板によると現地ではどこも激パになっているという。本日から新型気動車のキハE130は、木更津に戻ってきた国鉄型と順次E130に取り替えているらしく、上総亀山15:17発の9940Dが最後の旧車両での運用ということは事前に知っていた。この列車、列車番号に”9”が付くことから分かるように臨時運用であり、本来なら久留里折り返しである定期の935D〜940Dを上総亀山まで、週末のハイキング客の輸送のために延長した臨時列車である。復路の久留里からは定期スジなので940Dになり、実質それが最後の運行である。
 自宅を出発したのは15時前、今からならば通い慣れたアクアラインで東京湾を横断すれば940Dには横田付近から乗車可能だ。近所の首都高のランプを駆けあがると、この場所では初めて遭遇する大渋滞中。どうやら直前に事故があったらしく、警察により実地検分を今からするようで数分間通行止めになると停車中のパトカーのスピーカーから大音量で放送があった。ヤバイ・・・。数分間とのことなので数分間なのだろうが、こちらはその数分間で940Dの横田発16:05に間に合わなくなるかもしれない。渋滞中のクルマをすり抜けパトカーと公団のクルマが封鎖する最前線まで進んだ。2.3分だっただろうが、何時間にも感じられ、やがて封鎖が解除されると、スロットル全開で湾岸線を目指した。今日は冷たい北風が強く、ベイブリッジやアクアラインの海上区間では何度も横風にやられながら木更津北ICで降りた。ここは横田駅が最も近い。夕陽を浴びてオレンジ色に染まる駅舎が見えると、いつもの横田駅とは違った顔を見せていた。駅前に停められた複数の県外ナンバーのクルマ、待合室に入り切れないマニアの多さ。本当に今日で最後なんだ。ここに来てみてようやく実感が湧いてきた。





いつもの黄昏の横田駅。ただ普段と違うのは名残惜しみに訪れた人たちの多さ
2012.12/1  久留里線  横田駅  EOSKissX3  17-55mm

 やがて列車の時刻になった。次にやってくる木更津行き940Dは本当に国鉄型最後の運用になる。この列車を最後にもう二度とこの駅には国鉄型は来ないわけで、特に最後の2年間を追っかけてきた自分にとって、ひとつの区切りとして乗っておきたい列車だった。やがて構内踏み切りが鳴り、西陽をいっぱいに浴びてキハ38を先頭にした940Dがやってきた。と同時に木更津方から置き換わったばかりのE130も入線してくる。今日だけしか見ることのできない新旧の交換劇。自分は一枚だけシャッターを切ると、すぐに940Dの乗客となった。




2012.12/1  久留里線  横田駅  EOSKissX3  17-55mm




2012.12/1  久留里線  横田駅  EOSKissX3  17-55mm

 車内に入ると満員の乗客でようやくドア付近に立てるのがやっとだった。出発時刻となりドアが閉まるとすぐに目の前のガラス窓が熱気で曇った。一方列車はいつもと変わらぬように淡々と木更津を目指し、各駅で乗客を拾っては終着の木更津に近づく。いよいよ最後だ。最後のお別れ車内放送にも期待したが、そっけなく明日から新型車両で運行されることのみを伝えていつの間にか終点木更津に到着してしまった。




2012.12/1  久留里線  木更津  EOSKissX3  17-55mm

 ホーム上は最後の引き上げを一目見ようとする大勢のファンと、ちょうど帰宅ラッシュに重なってしまったため混沌とした様子である。キハ38を見送りいったん改札に出てみると、せっかくなので新型キハE130の乗り心地を体験してみようと、上総亀山までの切符を購入し、次の列車を待った。やがてやってきた下り列車。車内に入ると新車の匂いがプンプンする。国鉄型には無かった地味な暗さは微塵も無く、明るいデザインのインテリアと真新しい照明とで眩いくらいだ。最新のディーゼル機関も静かで、「ゴー」というこもった音を静かに奏でている。やがて出発。エンジンはMAXまでパワーを上げている様子もなく、静かにトルクを発生させ余裕の加速を産む。ちょうど帰宅時間だったので車内は席が全て埋まる程度であったが、正面に座っていた制服のJK軍団の会話に、一般人の感想が垣間見ることができてなかなか興味深かった。

「何コレ! やべー、もうパー線じゃねーよ!」 (キレイさと車内の明るさ)
自動車内放送の「優先席では携帯の電源をお切りください・・」 → 「は!? そんなヤツいるわけねーし」
「新型でもスピードは全然変わらないよね」

笑いをこらえるのに必死だったが、最後に誰かが言った一言が心に残った。

「でも昔のパー線のほうが好きだったな・・・」

「うん、オレも同感」と心の中で思いながらいるうちに、一駅ごとに乗客は減り、いつしかうたた寝をしていた。あまり覚えていないが夢も見ていた。夢の中で自分は列車に乗っていた。海でもなく山でもなく、ひたすら田んぼの広がる田園地帯の中、窓を開けて吹き込む風と田んぼの匂いを愉しみながらディーゼルカーに乗って旅をしていた。そんな夢だった。しばらくすると終着上総亀山に到着した。






誰かが貼ったメッセージ。
2012.12/1  久留里線  上総亀山  EOSKissX3  17-55mm

 折り返し上り列車に乗り、久留里から一つ目の俵田で下車。少し歩いていつも撮影の時には必ず立ち寄っていたラーメン屋で腹を満たし、また駅に戻りバイクの置いてある横田駅に戻ってきた。すでに日中の喧騒は嘘のようで、いつものように静かに佇む横田駅があった。
 もうこうして久留里線に撮影に訪れることはないだろう。でも何十回も通った久留里線は遠いようで近い、自分にとっては簡単に仕事の毎日から現実逃避できる最高の場所だった。もうガラガラと音を立てる重厚なディーゼルカーはいないが、またあの沿線の雰囲気をこれからも何十回も味わうべくバイクでふらっと来てみるつもりである。