遠くの重連より近くの単機。紀勢本線貨物列車。

2012.7/2

 じつはですね、先週2連休があったので岡見貨物にお出かけしようと思ってたのですよ。陽が長いこの季節は早朝や夕刻に走行する列車を撮影できる、一年でもっとも走行撮影ができるシーズンなわけですが、当然北海道を除く全国的に梅雨なのはご承知の通りです。予定していた休みの日直前まで天気予報とにらめっこする日が続きましたが、やはり降水確率70%の中、航空券を予約するほど野暮ではありません。なので遠くの岡見貨物はやめにして、単発休みを利用して紀勢貨物を撮ろうと動き出しました。とは言っても手元には最新の貨物時刻表が無く、出発直前になって運行時刻をググってみますと、どうやら持ち合わせの2010年ダイヤとほとんど変わっていないとのことでした。話は変わりますが私が最後に紀勢貨物を撮影したのは2001年。当時は国鉄色100%の重連が車掌車「ヨ」なんかをぶら下げ、新宮まで足を延ばしていましたが、どうやら最近では更新色が2/3以上を占め、加えて単機、「ヨ」無し、亀山経由ではなく列車番号も2089レと変えて伊勢鉄道経由、さらには目的地の鵜殿に折り返し線を新設したとかで新宮まで行かなくなり、かつての途中の紀伊長島の長時間停車も、数分の停車になってしまったとのことです。敷居が高くなったのかどうなのか・・・。でもまぁ2012年のこの現代にほぼ毎日DD51が牽引する貨物列車が山あり海ありの風光明媚な路線を走るというだけでもありがたく頂戴しなければならないのでしょう。夕方仕事から帰り出発の準備、そして明日の天気予報です。

三重県南部 晴れ 降水確率 午前0% 午後0%

 気象庁様、ありがとうございます。この時を待っていました。あとは非更新のデデゴイが入ってくれれば言うことありません。と、その前にこれから通過予定の静岡県の天気予報を見ておかなくてはなりません。すると・・・・!!。なんと発達した梅雨前線がこちらに向かってくるとのこと。バイクの利用を考えていたので思わずマウスの手を止めました。無情にもアメダスの表示は強い降水量を示す黄色や赤のマーカーが静岡県をなめるように覆っています。明日になれば完全に前線は東に抜けて紀伊半島南部は晴れ渡るとの見通しですが、雨雲の移動と反対方向に進むとは言え、豪雨の中を通過するのに何時間かかるか考えただけでもイヤになります。しばらく覚悟を決められず悩んでいましたが、外はすでに雨が降り出していたのでクルマで行くことにしました。21時過ぎのことでした。

 出発して1時間。御殿場から新東名に乗りますが雨は止むどころか強くなる一方で、雨雲と反対方向に移動しているよりも雨雲と一緒に西に向かっているような錯覚になりました。でもさすがに浜松を過ぎたあたりから雨は止み、空には月が煌々と輝いているのが見えます。ここまで来てようやく高まってきた! さらに新しい高速道路の走りは快適そのもので、旧東名でトラックに阻まれながらチンタラ走っていたかつてのナイトランが懐かしすぎます。一気に休憩無しのノンストップで伊勢湾岸道を走り東名阪。で、明日の1発目の撮影地に最も近い松坂ICで降りました。明日は徳和〜多気の鉄橋から始めるつもりです。松坂市内で燃料を満タンにして近くのコンビニの駐車場で3時間ほど仮眠を取ることにします。しばらくして激しい雨音で目覚めました。400km以上も走ってきて雨の中の撮影ではたまったものではありません。でも慣れています。はるばる徹夜で走ってきてたった1回の撮影チャンスを寝過ごして撮り逃がしたことは何度もあります。なので明日は明日。とにかく今は少しでも多く寝ておくことです。

 翌朝・・・雨は上がっていましたが厚い雲が覆っているようで、この時間なら太陽は昇っているはずですが、見えません。開かない眼を無理やり開けて移動開始です。10年ほど前にロケハンだけして訪れた櫛田川の橋梁。当時と違うのは背後に陸橋ができてしまった他は、相変わらずヌメヌメとした水鏡は健在です。同好の士も4人ほど。ほぼ全員追っかけをするのでしょう、彼らのクルマはすでに高速のインターの方に向けられており、スクランブル発進の態勢が取られています。そんな中混ざってスタンバイ開始。貨物列車と多気で交換する普通列車のヘッドライトが遠目に灯ったことが分かると、いよいよ2089レの登場です。


2012.7/2  紀勢本線  徳和〜多気  EOS5D  24-105mm


 少しは期待していたものの、太陽は結局通過時には姿を見せず、しかも運悪く更新機でした。1発目の撮影を済ませると同時に次回のリベンジを決意します。まぁ今日は次回のロケハンのつもりで、ついでに遠い昔に忘れてしまった紀勢本線沿線の土地勘も取り戻しておこう。と、近くに停めておいたクルマにのんびり戻ろうとすると、同じ土手で撮影していた他の方々は一目散で自分たちのクルマにダッシュしています。時刻は確認していたけど、この紀勢貨物の追っかけってそんなにタイトなんだっけ??と釣られて自分も車に戻り、機材をシートに放り投げて彼ら軍団の後を追います。ここから最も近い伊勢道、勢和多気ICまでは約10km。しかもそこまでの道は住宅地の中を通ったり、狭い田圃道だったりしてなかなかターゲットの距離を縮められそうにもありません。それで常連さんは急いでいたのかと納得。ようやく国道に出たものの、朝の通勤時間帯に加え遅いトラックなど交通量が多く、イライラしながら走ることしばし。勢和多気ICから高速に乗ります。出発前に調べた紀勢貨物ファンの様々なブログを見ると、自分と同様1発目を櫛田川鉄橋で撮影→大宮大台ICで降りて2発目を三瀬谷の大トラスを俯瞰→国道でイセカシSカーブで3発目成功! などという猛者もいましたが、実際に走ってみるとイヤイヤ、到底素人には無理がありすぎます。というわけで三瀬谷はそのまま通過し、新しく開通したばかりの区間を快走しますが、ほぼ全線に渡って対面通行のため遅い軽自動車などに行く手を遮られてしまったら伊勢柏崎すら危ない予感です。いくつもの長いトンネルを抜けて伊勢道の現在の終点「紀勢大内山IC」で一般道に降り、有名なイセカシSカーブへは少し戻ります。現地に到着すると眩い朝の鋭い順光の太陽光線とグリーン一色の背景と手前の田んぼ。さすが昔からの名撮影地とだけあってパーフェクトなロケーションです。多気から追っかけをしてきた軍団誰一人脱落することなく、この名撮影地に到着しました。すぐにセッティングに入り、それが終わるころ、重厚なディーゼルの咆哮が聞えてきました。


2012.7/2  紀勢本線  阿曽〜伊勢柏崎  EOS5D  100-400mm

 早切った感がありましたが、確認などしてられません。2駅先の大内山で特急南紀の待ち合わせがあるため8分ほど運転停車があるのでさらに先行することができるのです。すぐに国道に戻り追撃。少し走って国道沿いの小学校の交差点を右に折れ、大内山の大カーブに到着しました。ここは初めて来ましたが、こちらもいい場所です。到着してしばらくすると背後からキハ85がぶっ飛ばしながらやってきてカーブの向こうに消え、すぐに駅に停車している2089レがこちらに向けて動き出します。


2012.7/2  紀勢本線  大内山〜梅ケ谷  EOS5D  100-400mm

 あぁ〜この天気、このロケーション、国鉄色が来てくれたらどんなに良かっただろうか・・・。という思いが自然とこみあげてきます。が、まだ追っかけは続きます。多気から連続登り勾配で標高を稼いできた紀勢本線は、次の梅ケ谷駅をサミットとする標高約200mの荷坂峠を通過すると、海沿いの街、紀伊長島まで一気に勾配を駆け降ります。次の紀伊長島の停車時分は2分ほどで無いに等しいですが、峠を上り下りする線路なのでセミループで距離を稼ぎながら勾配を緩和するので国道の流れより時間はかかっています。というわけで次に狙うは紀伊長島の先、海バックです。しかし峠付近の舗装工事による片側交互通行に最悪なタイミングで引っかかってしまった上に、長島市街の混雑に運転停車を余儀なくされ、姿は見えども時間からとっくに先行されてしまいました。ここから終点の鵜殿までは、ほとんど停車のない区間であったり、険しく立ちはだかる矢ノ川峠を越えねばならなかったりで追っ掛けは不可能です。沿線のいたるところで伊勢道の尾鷲までの延伸工事がされており、それが開通するれば紀勢南端の区間の追っ掛けもできるでしょうが、その頃は当然貨物列車のコンテナも高速道を行くトラックが担っていることでしょう。今日の撮影は終了し、もう帰ってもいいのですが、いかんせんまだ9時前と早すぎます。少し昔この地に通った頃の思い出巡りなどをして、幾つかの無人駅を訪れてみるのもいいかも知れない。特に紀勢本線全通時の最後の開通区間である尾鷲〜熊野市間の駅に行ってみたい。尾鷲を過ぎると国道は一気に登り坂にかかります。海沿いは激しく入り組んだリアス地形のため国道42号線は山越えでこの区間をエスケープしますが、一方並走していた紀勢本線はさすがにこの険しい山越えに付き合えるわけでもなく、長大なトンネルを何本も掘ってリアスの入り江の集落をつなぎ、この厳しい地勢を克服したため、この区間の全通は昭和34年と、幹線の開通の中では最近の方に入ります。長い峠を越えてクルマはいよいよ熊野市内に入り海沿いに出てきました。大泊駅から海に沿って走る国道311号線へ。複雑な海岸線をトレースしながら走るので道は非常に狭く酷道としても有名な路線です。交通量は少なく坦坦としながら走って来たので眠くなってきました。すでに気温は30度を超えているのでエアコンかけっぱなしの昼寝は勿体ないと思い、少し道幅が広くなっている木陰で昼寝をすることにしました。

 1時間半ほど快適に寝て、そろそろ出発しようとキーをひねると・・・「チッチッチッチ・・・」とどこかで聞き覚えのある音がしました。半分寝ぼけてたのでよくわからないままもう一度キーを回すと、やはり「チッチッチ・・・」と頼りない音がするだけ。3年前の大糸線キハ52最終日に職場から出発しようとした時にも同じ現象だったことを思い出しました。人生2度目のバッテリーあがり。矢ノ川峠のトンネルを越えた時のヘッドライトが点灯したままだったのです。もしかしたらと思いキーを抜いてさらに昼寝をし、30分ほど経ったところでもう一度始動を試みました。電圧が回復しているかもしれないからです。思いは通じたのか「キュルキュル・・・」と3回ほどクランキングしましたが、それ以上回ることなく、やむを得ずJAFに救援依頼をすることにしました。携帯のGPSで正確な現在地を調べ、電話で場所を告げると到着は1時間程度で来てくれるとのこと。よりによってこんな市街からアプローチしにくい酷道でやってしまうとは、情けない・・・。暇をつぶそうにも携帯のワンセグは急峻な地形のため電波は届かず、まして充電残量も心もとなく、またJAFからの連絡が入るかも知れないのでネットにもつなげられない。タバコもちょうど切らしており、飲料も昼寝前に最後の一口を飲んでしまっていました。一番近い集落まで歩いて2km。本当にやることがなくなり1時間以上ボヘ〜っと海を眺めていました。どれくらい経ったでしょう、やがて一台の軽トラがやって来ました。トラックには熊野市内の板金屋さんであることが書かれています。JAFの下請けの業者さんでした。「どこから来ましたの?」「なんでこんな辺鄙なとこまで?」「あぁーあの貨物列車撮りにわざわざ来たの!?」 板金屋のおっちゃんはマシンガントークをしながら充電器のワニ口をバッテリーにジャンピングし、セルを回すと当然すんなりとエンジンは掛かりました。お礼を言って別れを告げ、3時間ぶりにようやく走り出しました。充電が完了するまでしばらくはエンジンは切れないので2時間ほど行けるところまで北上し、本格的に腹が減って来たので国道沿いにあったラーメン屋に入店。おすすめらしき担担麺をすすると、得も言われぬ風味としつこさでグロッキーになり、でも腹が減っていたので完食すると本当に体調が悪くなってきました。とにかく気を失わないように伊勢道のインターを目指し、往路と同じ行程の伊勢湾岸道〜新東名のルートで帰還を果たしました。事件はあったものの久しぶりのお出かけでリフレッシュできましたが、やっぱりこういう素晴らしいロケーションを見てしまうと、ここを非更新DD51でパーフェクトにキメてみたいという欲求に駆られてしまい、日の長いうちにリベンジすることにしました。


2012.7/9

 あれからちょうど1週間経ちました。前回の訪問から毎日、ことあるごとに携帯で三重県南部地方の天気はチェックしていました。リベンジの日と決めた7月9日は朝から快晴の予報。前回は往路の悪天候のためクルマで行きましたが、この天気なら今度こそバイクで向かうことにしました。今日も21時に出発。新東名〜伊勢湾岸道の黄金コースを経て東名阪道に入りました。途中1カ所で軽く一服休憩をしただけで走り通してきたので、風と戦う単車で300km以上走り切ると、だいぶ疲労感が増してきました。眠さも相まって決戦の地より少し手前の安濃SAで仮眠を取ることにします。といっても横になれそうなところなど当然皆無なので、こういう時は自販機コーナー。SAの奥まったところにある自販機コーナーは通り抜ける人も少ないので、ジャケットを脱いで床に敷き、その上にゴロ寝します。自販機がしきりと生産する温風が心地良く、真夏でもバイクで風を受けて長時間走ってくるととても寒いのでこのくらいが適温です。3時間ほどすると、少し人の出入りが多くなってきたので自然と目が覚めてきました。暖気運転もそこそこにすぐに出発。松坂ICで降りて、前回と同じく櫛田川橋梁にやって来ました。予報通り朝からこの上なく快晴で、昇ったばかりの太陽が低い角度からガーター橋を鋭く照らし始めています。これで国鉄色が来てくれたら・・・。やがて運命の時間です。鉄橋を渡る前のホイッスルが聞え、ファインダー内に飛び込んできたのは・・!?


2012.7/9  紀勢本線  徳和〜多気  EOS5D  24-105mm

 残念。今日も更新機891号機でした。後日談ですがこの6月から7月にかけて、愛知機関区のDD51の運用に乱れがあったか何かは定かではないですが、一切、非更新機が鵜殿貨物に入らなくなった時期だったそうです。まぁ今日は前回にも増して天気が良いので、この891号機を追っかけてやりましょー! 今日も現場にいた数名の方々は機材を撤収して、近くに停めてあった自分のクルマに放り投げて次々にスタートしていきます。こういう時バイクは不利で、カメラをしまってヘルメットをかぶって・・・などしている間にも狙うべき列車はどんどん先に進んで行きますが、信号待ちでの先行や、不意に撮影ポイントを見つけてしまった時の小回りさはクルマの比ではないと思います。しばらく行くと案の定、先ほどの鉄橋でスタートダッシュで先行していった櫛田川の面々のクルマが信号+渋滞につかまっています。ゆるりとすり抜けをかまして先頭に出て、シグナルGPスタート。勢和多気から伊勢道、そして紀勢大内山IC、からの伊勢柏崎にやって来ました。多気からの所要時間はクルマの時よりも5分ほど早く、多気市街で追い抜いたテツ車はまだ誰も到着していません。一人勝ち誇りながら余裕のセッティング。今日も東からの光線とバックの木々の緑が眩しいです。


2012.7/9  紀勢本線  阿曽〜伊勢柏崎  EOS5D  100-400mm

 前回の作品と全く同じ仕上がりになってしまったのもお構いなし。さらに先を急ぎます。大内山の交換停車を利用して、今日は紀伊長島の先の海バックまで足を伸ばそうと思います。1週間前の峠の片側交互通行の工事は終わったらしく、荷坂峠を越え、混雑する長島市街の渋滞もすり抜けでかわし、数キロ走ると目を付けておいた海バックのポイントに到着。跨線橋の上で三脚を伸ばしていると、先ほどのイセカシカーブにいたクルマたちが数台通過して行きました。少し半逆光ですがなかなか気持ちの良い構図。穏やかな熊野灘の水面がキラキラ光る場所でした。


2012.7/9  紀勢本線  紀伊長島〜三野瀬  EOS5D  24-105mm

 やっぱりこのスジ、追っかけでは3発が限界でしょうか。長島より先は長時間停車らしい停車はないし、欲張らずに一発をじっくり待ち構えていた方が満足に仕上がるような気がする、少しオトナ向けの紀勢貨物でした。本日はこの海バック跨線橋が折り返し地点。昨夜の睡眠不足もあるので、まだ9時前ですがボチボチ帰ることにしましょう。往路と全く同じコースをたどり、新東名高速を走りながらそろそろ仮眠しようと適当なSAをいくつか訪れますが、できたばっかりの最新のサービスエリアは、どこも汚い格好のライダーにはおよそ不釣り合いなほどのオシャレな造りで、どうしても横になって昼寝できそうなベンチや休憩所もありません。屋外のベンチですらためらわれるほどです。こうなることが分かっていれば旧東名で来ればよかった・・・・。激しく後悔しながらも睡魔と戦いながら東をひたすら目指して家路を急ぎました。