当てもなく日本海へ。そして吾妻線。

2012.1/10

 ようやく年末年始の業務多忙から解放されると、もう一年を10日も過ぎている頃だった。クリスマスからよく頑張った、自分、エラい。そんな頑張った自分にご褒美をあげよう! 特に何かあるわけではないが、この時期なら北に往くべし。とにかく雪中運転、撮影、温泉、車中泊、なんでもよかった。夕方に仕事を終え帰宅すると、出勤時に充電しておいたカメラとビデオ、そして三脚を車の後部座席に放り投げ、自宅を飛び出したのは22時少し前。飛び出したといっても目的地はというと、見事に何にも考えていなかった。ハンドルを握りながら「ラッセル、ラッセル・・」と直感的につぶやいていたため排雪列車に出会う旅に決めものの、日本海側の天気予報なぞここんとこしばらくチェックしていない。ハナから無理があった。欲望の赴くまま中央高速に乗ること2時間弱。松本に到着してしまった。

ここで我に返った。

 インターを降りてみて言うのもなんだが、ここから排雪関係なら大糸北線か、ヤマ一つ越えた向こうの高山本線。っと、その前に天気予報を確認せねば。高速の出口の路肩に車を寄せ携帯で確認。すると今夜から明日の天気概況は「曇り、時々雪」 最低気温も生温〜い感じで、雪雲や寒波も一段落しているらしく、何ともメリハリの無い陽気なようだ。ラッセルは早々にターゲットから外れ、とりあえず糸魚川を目指した。途中の峠越えでは路面に積雪はあるもののそれもほんの一瞬で、小谷村に入るころにはノーマルタイヤでも行けるくらいの感じになっていた。大糸線沿いに走り糸魚川には午前3時前に到着。一応駅に行ってDD16を確認するとクラの中で静かにたたずんでいるだけだったので、近くのコンビニの駐車場でマルヨすることにした。まぁ今回はとにかく「お出かけしたい」というのが第一の目的だったので、それは果たした。明日T18かK編成が北越にでも入ってくれて、1,2か所で撮影して帰るのもアリなんじゃね?と思いながら夜は更けていった。

 翌朝・・・。爆睡かましてしまい、起きると正午前だった。8時間以上も車の中で寝ていた。外は雪どころか雨が降っているし、寝すぎたせいで節々は痛いし、とりあえず目覚めの缶コーヒーと一服をしながら485系情報をチェック。しかし3連休が終わったばかりなので目撃者の皆さんの書き込みが全くなく、ついに途方に暮れる。大糸線も普通に動いているようだし、DD16も昨日と同じ場所にあった。仕方なく移動開始。もうすぐ金沢から「北越3号」がやって来るので、あわよくば国鉄色!?なんて淡い期待を抱きながら青海の撮影ポイントに到着。するとすでに先客の姿が!! こんな薄暗い雨の日にわざわざってことはもしや!?と思わずにいられない。チャキチャキ準備をして北越3号を待った。




で、来たのがコレでした。記念すべき2012年撮り初め。
2012.1/10  北陸本線  親不知〜青海  EOS5D  100-400mm

 そうは甘くなかった。寒いのですぐに撤収し、また当てもなく国道8号線を糸魚川に戻るよう走り出した。今日はすることが完全に無くなってしまったので、大糸線の小さいディーゼルカーにでも乗ってみよう。52時代にも撮影に来た際、クルマを置いて列車で何度か南小谷まで往復したことはあったが、キハ120に置き換わってからは1度もない。駅前のコインパーキングに車を入れて駅で¥650の切符を買い入場。カメラも持たず手ぶらだったので、ついでに携帯のカメラで今日は動かないDD16の写真なんかも撮ってみたりした。




本線らしい長大なホームにコトコトやって来た軽快気動車。新幹線の高架が大分できてきた。(携帯電話で撮影)



新幹線工事のためレンガ庫は壊され、新しく用意されたクラで昼寝をするDD16。仕事をしているところを見てみたい! (携帯電話で撮影)

 直前まで喫煙所でタバコを吸っていたため、発車の合図に促されて列車に飛び乗ると、意外にも席は半分ほど埋まっていたので、「しゃーねー、前展でもすっか・・」と運転台横のベストポジションにかぶりつく。ガラガラに空いていて前展だとキモヲタ丸出しなので、あくまでもしょうがなしに混んでるからここなんだよね〜と白々しくそのベストポジションに立ち、目をギラギラさせていた。やがて出発信号機が青に変わり列車は南小谷を目指し出発。キハ52と変わらぬスピードで山間部に突入し、相変わらず要所要所に現れる25`制限で大げさなほどの減速を繰り返し1時間ほどで南小谷到着。折り返しは10分も時間がなく改札を出て、往きと同じ同額の切符を買って同じ列車の乗客となった。2時間ちょっと列車の旅を楽しみ車に戻り出発。出発と言っても特に当てがあるわけでなくここから40キロ先の直江津を目指すことにした。鉛色の日本海を左手に眺めながら走り直江津市内に入るころには日もだいぶ落ちてきた。すぐに駅裏の機関庫に向かってみる。DD14やDE15が冬季はここで待機しているのだが、様子を除いてみようと裏手の住宅街に回った。すると扉の開け放たれた機関庫にはDE15複線型が尾灯をともしてエンジンをかけて待機していた。まさか今夜出動か!? いや、しかし今日は一日中積もるほどの雪は降っていないし、ましてまだ夕方。たまにこうしてアイドリングで慣らしをしているのかどうかは分からないが、非常に気になるところである。もし出動があれば深夜。一応山の積雪状況を確認してこよう。とすぐにその場を立ち去り国道18号線を山間部に向かって車を走らせた。新井付近。あまり平地と変わらず道路も乾燥しているところがあるくらい。妙高高原。道路脇の雪壁は1mほどで踏切まで来てみると道床が雪で埋まっている程度でラッセルの必要性は全くない。やはり今夜は雪レの設定はないだろう。新井まで戻り飯を食ったのち、まだ気になっていたので再び直江津に戻りクラの中をのぞいてみると、DE15は先ほどと寸分違わぬ位置でアイドリングをかまし続けていた。




ロクヨンと静かに時を刻む複線型DE15.
2012.1/10  北陸本線  直江津  EOS5D  100-400mm

 もう完全に途方に暮れてしまった。あと一日休みはあるが、おウチに帰りたい病が発症してしまい、ついさっきまで下見のために走った国道18号バイパスを南下し、妙高高原ICから上信越道に乗った。すると峠を越えると日本海側とはうって変って星空が見え出してきた。気温も放射冷却でグンと下がり、翌朝はきれいに晴れてくれそうだ。直行で帰るのも惜しくなってきた。ハンドルを握りながら考えた。途中で高速を降りて翌朝、今春廃止予定の長電屋代線でも行こうか、それともしなの鉄道169系急行色か・・・。思い悩んでいること、ある新たな素材が浮かび上がった。吾妻線、霜取り列車だ。厳冬期の夜間、架線に付いた霜によって早朝の列車のパンタグラフが離線するのを防ぐため、一番列車前に一度電車を走らせてそのパンタグラフであらかじめ霜を落としておくという、知る人ぞ知る非常に地味な事業列車だ。一部ではカッター車とも言う。有名どころでは両毛線のEF65、篠ノ井線クモヤ145、上越北線EF64、吾妻線クモヤ145がある。今まであまり興味がなかった類に属す列車だったので運転時刻は知る由もなかったが、ただその任務から一番列車直前というのは容易に想像ついた。しかしいつ来るかも分からない列車を、寝ずの番で深夜屋外で待機しているのはとてもではないが耐え難い。そこで思いついたのは吾妻線だった。確か何かのサイトで終着大前にたたずむクモヤ145のバルブ写真を見たことがある。終点なので折り返しに数分はかかると思われるので、終着に近い踏切付近でクルマの中で待機していれば、簡単に折り返しを追っかけができると考えたからだ。上信越道を練馬まで帰るつもりが、30キロ程度走った須坂ICで降り、ガチガチに凍結した国道406号線で低速ドリフトを繰り返しながら菅平高原に抜け、ヤマを降りてきたところで再び鳥居峠を越え、吾妻線の終着駅大前に到着した。外はマイナス6℃。駅前のロータリーに車を止めここで夜を明かすことにした。吾妻線の末端区間は極端に運転本数が少なく、一番列車でも7:14到着と遅いのだが、念のため5時に目覚ましをセットして仮眠を取ることにした。


2012.1/11

 目覚まし通りに5時に起床。外は川の流れる音しかせず、凍てついた闇夜が支配していた。毎日運転されているわけでもなさそうだし、来てくれたら相当ラッキーだろうな、と自販機でコーヒーを買い車内で一服。30分くらい待ったであろうか。そろそろ諦めかけたその時、突如として踏切の警報機の音が張りつめた空気を打ち破った。ま、まさか本当に来た。あわてて車を飛び出しビデオカメラを回す。するとゆっくりゆっくりと歩を進めてきたクモヤ145が大前駅に滑り込んできた。すぐに尾灯が消え前照灯が灯り、もう出発かと思われたが乗務員の方が駅のトイレで用を足したりしていてかなりのんびりしている。すぐに三脚を持ち出して心行くまでバルブ撮影を楽しんだ。








静かな終着駅に到着した霜取り列車。あまり注目を浴びない地味な事業列車の一つでもある。
2012.1/11  吾妻線  大前  EOS5D  24-105mm

 しばらく出発するのを待っていた。到着から30分ほど経った6時過ぎ。何の前触れもなく突然踏切が鳴り出した。あわてて車に飛び乗り列車より先に出発。この先どのような運転時分なのか全く分からないが、すでに一番列車も動き出している頃なので、途中で交換の停車もあると予想。ダメ元で追っかけを敢行することにしてみた。次の駅の万座鹿沢口ですぐに追いつかれあっという間に水を空けられてしまった。もし次に止まるなら交換設備のある長野原草津口駅。何分停車なのか、はたまた通過するかも分からないが駅手前で構内進入するクモヤを捉えることができた。遠方に見えるの場内信号機は赤を現示しているので停車だ。一気に抜き離しにかかる。この先、昨今話題の八ツ場ダムの水没予定区間に入るので、すでに付け替え済みの国道代替道路が分岐し、この線路沿いの旧道の交通量は一気に減り急に追っかけがしやすくなった。せっかく列車は止まってくれているので、あまり先行して撮影場所を探すと、いつ列車に追い抜かれるか分からないのでそろそろ撮影場所を決めようと、ふと停車した路肩から線路を望むと踏切が鳴った。焦ってもうビデオは諦め一眼を取り出し構図を決め、やって来た列車を流し撮りの要領でカメラをグイと振ってみるが、さっきの大前のバルブの設定のままだったで大失敗。あざ笑うかのように警笛を吹鳴しクモヤは走り去っていった。再び発進。いつしか沿線はダム湖水没予定地の中を走るようになる。線路も急カーブが多いのか気づくと列車よりだいぶ先行していることが分かった。国道からふと見上げると線路より少し高い位置に生活道路が並走しており、そこから撮影することができそうだ。周囲もだいぶ明るくはなってきたが、まだまだ走行する列車を止められるほどの光量は無い。広角流しで一発。


月をバックに快走するクモヤ145。ここは水没予定地ではないが、線路付け替えで廃止になる区間。有名な樽沢トンネルも廃止となる。
2012.1/11  吾妻線  川原湯温泉〜岩島  EOS5D  24-105mm

 さてもう一発行こう。次は沿線最大の駅、中之条。おそらくここでも交換があるだろうから一旦落ち着いて時刻表で旅客列車の存在を確認する。どうやら525Mと交換のようで、このペースなら20分以上は停車してくれるだろう。朝日も今まさに顔を出さんとするばかりで撮影ポイントによっては上ったばかりの朝陽でギラリも行けてしまいそうだ。かなり安心してゆっくりと国道を単独で流し中之条市街に入るころ、こんな氷点下の早朝、しかもヤマ方面に向かう下りの対向車線にて、公的機関による有料速度測定サービスを実施しているのを発見。おおー!! もし逆方向だったら自分も危ないところだった! 「対向車の皆さん。この先で非営利団体がアナタの車の性能を測ってくれますよ!!」というお知らせの意味を込めてバシバシとパッシングをして教えて差し上げた。ニヤニヤしながら手を挙げて挨拶してくれる運転手もいたのでこちらもニヤニヤ・・。そんな一幕もあって東の空がやや開けて数分後には朝日が差し込めそうなポイントに到着した。市城という駅のそばだった。まだ光線は線路に届かないものの、目で分かるスピードでみるみる日なたが近づいてくる。通過5分前、ついにベストなタイミングで列車はやって来たのだった。


ねぐらの新前橋までラストスパート。架線の霜取りという地味すぎる仕事はもうすぐ終わり。
2012.1/11  吾妻線  中之条〜市城  EOS5D  100-400mm




2012.1/11  吾妻線  中之条〜市城  EOS5D  100-400mm

 こんな感じで霜取り列車の追っかけは終了した。すぐに帰郷できる距離であったものの、前日の睡眠不足から渋川までもたどり着けずに道の駅で昼寝。それでもまだ時間があったので渋川市内でラーメンを食った後一般道で都心へ向かいました。