北上線に迂回「あけぼの」登場

2011.8/11

 出発2日目。初日は長野の原色64重連撮影から始まり、米山で国鉄色K1編成「北越」を撮影後、新潟港で海外譲渡を待つ元新津のキハ52達に別れを告げ、大移動の末、秋田県横手市に到着した。実は今回の旅の第一目的はここであった。数日前、新潟〜東北地方を襲った集中豪雨により、上越線は越後湯沢〜六日町間の路盤が流出という大被害を受けた。時同じくして只見線のいくつかの大きな橋梁も流されたとのことだったが、この上越線は首都圏と日本海側を結ぶ大動脈である。何日も運休できる只見線とは違い、すぐさま日本の物流を担う重要幹線の寸断は緊急を要する事態となった。運悪く時期は間もなくお盆である。盆なら貨物需要も少なく上越線寸断でも何とかなったようだが、この時期に動きが活発になるのは人間の方である。首都圏→北陸方面は越後湯沢から北越急行に乗り入れるまでの六日町までが不通であるので、「はくたか」が長岡で上越新幹線に接続し事なきを得ているが、上越線経由で青森に向かう寝台特急「あけぼの」はルートを大きく変えて大迂回する必要が出てくる。そして発表された内容がコレだ。

「8月10、11、12日出発の寝台特急「あけぼの」は東北本線→北上線→奥羽本線経由」だ。


 非電化の北上線を経由するとなれば、当然牽引するのも油で動くヤツらの出番でしかない。北上線貨物はもうとうの昔の話。でDE10だ。しかも急勾配の北上線に9両の客車となれば重連。現在ディーゼル機関車牽引の客車と言えば北海道のブルトレのみになってしまっているが、あちらは原色ではないし重連も期間限定のようだが、一ローカル線である北上線に原色DE10重連のブルトレが入線するとなれば、それはもう祭りの予感。なんと幸いなことにその祭りの日、自分は偶然にも3連休だったので、すぐにその情報を知って出撃を決めたのであった。

 ・・で巡り巡って横手に到着した。北上線内の上りは午前0時前後通過なので撮影は不可能。一方下りは5時台に通過するようなので走行写真はこれに掛けたいと思う。北上線は初めての撮影なので出発前、軽く調べて一番メジャーそうな相野々のカーブで一発かましたろかということで、今夜は撮影地にほど近い道の駅「さんない」で夜を明かすことにした。

 翌朝、よく覚えていないが非常に変な夢を見たのか、うなされて我に返ったのは7時過ぎだった。寝る前に呑んだ缶ビールが仇になったのかも知れない。傍らには4時台に4段階にセットしておいた目覚ましの携帯電話が、鳴ったのか鳴らなかったのか電池残量を1メモリ減らして足元に転がっていた。取り返しのつかない事、やってはいけないことをやってしまった。独りにも拘わらず車内で全身を使って「ガックシorz」を表現。あまりのショックにこのまま死に場所を探そうとまで思ったくらいだったが、最期にコーヒーくらいは飲んでおこうかなと道の駅の自販機で缶コーヒーを買い一服をしながら携帯で目撃情報を見ていると、な、なんと、「あけぼの」は前日上野駅の出発時に乗客のタバコで車内でボヤ騒ぎがあり、さらに小金井付近で架線トラブルとのことで現在3時間遅れ。つまり狙うべき「迂回あけぼの」はまだここには来ていなかったのだ!!なんというイリュージョン!! 慌ててタバコの火を消し、すぐにここから2kmほどの距離にある撮影地に急行すると、すでに20人ほどが今か遅しと「あけぼの」を待ち構えていた。もっとパニるだろうと警戒していたが、初日という事もあってか幾分現場はマッタリモードである。まずは場所取りのために撮影スタンバイをしてから情報収集にあたる。




特別な朝をいつも通り駆け抜けるキハ100。ていうか機関車2両と客車9両ってどのくらいの長さなんだろう?
2011.8/11  北上線  相野々〜矢美津  EOS5D  100-400mm

 情報では現在、北上駅で電気機関車からDE10に付け替え出発準備が整った模様だが、所定より3時間以上もすでに遅れている。もうちょい時間もありそうだと油断すると懸念していた雨が降り出した。最初は本降り程度の雨が次第に土砂降りに変わるも、あいにく傘を持ってきていなかったためカメラに手持ちのタオルだけを掛けてクルマに非難するが、一向に雨脚は衰える気配はなく、もしこのタイミングで「あけぼの」が来てしまったらもう笑い話だ。どれくらい経ったのか、やがて雨は上がり、クルマに避難していた撮影隊は続々定位置についた。間もなくである。やがて遠くで咆哮が聞こえるや否や、踏切が鳴り出したのでファインダーを凝視する。編成長が分からないため保険のつもりで画角を変えて2台態勢だ。カマーン!!




あともう2コマレリーズを切っていたら入ったであろう「迂回あけぼの」
2011.8/11  北上線  相野々〜矢美津  EOS5D  100-400mm




こちらは保険の方。少し間が空いた。47mm(35mm換算 75mm)
2011.8/11  北上線  相野々〜矢美津  EOSkissX3 24-105mm


 ひとまず目出度し目出度し。クルマに戻り雨でずぶ濡れになったカメラを拭き一息つきながら再び情報確認。ここまで遅れていると途中で運転打ち切りも懸念されたが、今夜発の上りにも差し支えるだろうから終点青森まで運転されるとの案内放送があった模様。さらにこの先の遅れを見越してすぐ近くの横手駅でおにぎりとお茶の差し入れがあったそうで、これまた乗客たちはいい思い出になったであろうが、こんなんで喜ぶのはテツくらいで一般乗客にとってはたまらないだろう。さらに情報をみるとその先の横手駅でも出発が滞っている模様。もしや、追い抜けるのかと思いすぐさま横手ICから高速に乗り追撃を開始したが、敢え無くいつの間にか抜かされてしまい、途中の協和ICで高速を降り横手に戻ることにした。しばらく国道を走り横手に到着してふと思った。ここに戻ったとしても日中に撮りたい列車は無いし、明日の朝まで12時間以上ヒマを持て余すことになる。しばし考えた結論、ヒマ潰しにいいことを思いついた。北上線経由の迂回「あけぼの」はさすがに特急の面目は保っているつもりなのか、北上線内での平均速度は意外に速く、途中の主要駅でも運転停車は数分でもあるので追っかけは厳しいかのように思えるが、果たしてそうだろうか?これを実証しようではないか。迂回「あけぼの」の北上線内の所要時間は1時間20分。一方時刻表にも載っている定期の普通列車の線内走破時間も1時間20分。全く時間は同じであるため、一本普通列車を追っかけることによって、本命「あけぼの」の追っかけ撮影は可能かどうか、世紀の実証実験を試みることにした。まだまだ時間も正午前であるので、横手から北上線沿いに内陸に入りロケハンをしながら奥地へと進む。朝、日の出前後の撮影限界であろうと思われる和賀仙人まで戻り、普通列車を待った。やがて733Dが到着。駅出発を撮影したとして機材撤収に約1分。すぐに列車の後を追った。線路はここでダム湖に上がる急こう配を上り錦秋湖畔に出るまで結構時間がかかるようで、本番はこのタームを利用して先行したい。列車の登坂でかなり先行していたつもりだったが、2発目に考えていたゆだ高原付近の築堤に到着すると1分も経たないうち列車はやってきた。意外に速い。これでは撮影→撤収→移動→設営では当然間に合わないだろう。実験結果が出た。やめだ。明日は一か所でじっくり構えるしかなさそうだ。実証実験は失敗に終わったもののまだまだ時間は持て余すほどある。考えた挙句実際に列車に乗ってして車内ロケハンをしようと思い、再び和賀仙人に戻って来た。次の横手行きは16:36発735Dである。駅前にクルマを乗り捨てカメラだけを持ってホームで列車を待ち、やがてやってきた735Dに乗り込んだ。




735D。これに乗ろうと思います。
2011.8/11  北上線  和賀仙人  EOSkissX3 18-55mm


 定刻に出発。列車は今はダム湖の底に敷かれている旧線跡を右手に分岐して新線の長いトンネルに飛び込んだが、キハ100の高性能エンジンは25‰という急勾配をものともせず時速60キロ以上で駆け上がりあっという間に錦秋湖畔に飛び出た。前展して目を凝らしながら良さげな立ち位置はないか走る列車車内から探りを入れた。と、先ほどの車でのロケハンでは全くノーマークであった国道から離れた、バックも美しそうな林間の直線を車内から見つけた。念のため場所を地図にメモったりしているうちに1時間ほどで終点横手到着。特にここでは何もすることはないので駅前で一服の後、折り返し738Dの乗客となり暗くなった車窓をぼんやりと見ながら和賀仙人に戻ってきた。数時間ぶりにクルマと再会。すぐに今度は国道で横手に戻る。お誘いしていたK1トップ氏を迎えに行くためだ。実は今朝の下り撮影も同行も提案していたのだが、前日の仕事の関係で明日の一本に賭けるために彼は旅立っていたのだ。が、その前に先ほど車内で見つけた気になる撮影ポイント(予定)の下見もしておかなければならない。国道から逸れて黒沢駅前に出て、駅裏手に回り砂埃を上げながら真っ暗な砂利道を進む。暗くて全く分からないがそれらしい場所に到着した。クルマを線路方に向けてハイビームにしてみたり、クルマを降りて持参の懐中電灯を照らしてみたが背景や遠方の障害物はやはり分からない。ただ線形と立ち位置を予測するとなんとなく出来ちゃう感じということは長年の勘で分かった。撤収して再び走り出し2時間前にもいた横手駅到着。氏は上越新幹線、いなほ、普電で横手入り。20:48分到着の列車に乗って来て合流した。話もソコソコに駅の裏手のホテルの日帰り風呂に行き、そこからすぐにインター近くのガストにて明日の作戦会議となった。追っかけはやはり厳しいということ、今日の列車ロケハンで良さげなポイントがあったこと、北上線の地勢についてイニシエーションし、結論、翌朝は自分が列車内から見たゆだ高原〜黒沢のポイントで一発勝負に出ることで決着したが、まだ明るい時間に実際にこの目で見ていない場所だったため、明日の早朝下見、ムリだったら保険でキープしておいたゆだ高原付近の築堤で決着した。ガストを出て夜の国道107号線を走り、前夜もお世話になった道の駅「さんない」にクルマを止めて夜を過ごすことにした。でも今夜はなんだか様子がおかしい。昨日ガラガラだった駐車場は県外ナンバーのレガシーとかエスティマなんかが何台も停まっている。いよいよ祭りは2日目へと突入する。


2011.8/12


 まだ暗いうちに目が覚めた。ていうか夜中暑すぎたり寒すぎたりでほとんど寝られなかった。外の天気は昨日とまではいかないが、今にも降り出しそうな曇り空。まだ通過まで2時間ほどあるが、昨日暗がりで確認できずじまいだったゆだ高原〜黒沢に行ってみることにし、10分ほど走りまだ薄暗い現場に到着した。晴れてしまえば線路の方角から完全逆光になることは分かっていたが、幸か不幸か今日は曇り。柔らかくなった太陽光線で気にならないと思う。K1トップ氏と相談。保険で決めておいたゆだ高原の築堤も捨て難いが、ここも思いの他良さげだ。当然先客は誰もいなかったので、思う存分好きな位置で2人とも三脚を広げて贅沢な場所取りを敢行した。すると安心してスタンバっているとどこからともなく何匹ものアブが我々2人にジャレついてきた。その数半端無く、そばに停めてあるクルマにもカチュンカチュンと音を立てながら体当たり攻撃を仕掛け、次第に我々はジャレついていたソフトタッチの対象から攻撃の対象に変わってきた。クルマに逃げ込もうにもドアを開けた瞬間一匹でも入って来られたら、密室で××することになり兼ねない。とにかく2人でジタバタと暴れながら激しいビートを刻んでいると、付近の畑の持ち主であろうと思われるおばちゃんが軽トラに乗って近づき、我々に向かって一言、「アブいるよ・・・」と吐き捨てるように言い放ち近くで草刈りを始めた。「知ってますって!!」と心の中で叫び相変わらず懐かしのブレイクダンスもクライマックスに差し掛かった時、見かねたのかおばちゃん、「コレ・・・」と言って2巻きの蚊取り線香を授けてくれた。有り難く頂戴し、煙の力で幾分アブも少なくなってきた頃、三度おばちゃんは近付き、「枝豆・・・」と言ってプラトレーに載った大量の枝豆を差し出した。頂くと茹でたてのようで生温かく、そのため非常にウマい!礼を言ってその枝豆を喰いながらピント、露出、構図を何度も念入りに調整する。しかし通過時間も近付いてきたがやはり露出はかなり厳しく、ブレないように正面がちにするため幾度となく立ち位置移動。するとその行動を天の神は見ていたのか、急速に天候が回復し、東の空が明るくなってきた。なんだか勝利の予感!! 背後の林と朝露に濡れた情景が美しく輝いてきた。自分は絞り解放で少しシャッター速度を上げ、ついでにISOも800から400にダウンさせて画質向上を狙う。いよいよ通過時刻である。物音ひとつしない林の中。K1トップ氏は400のプロビアを抜き100にタマ替え。すると神は本当に我々の行動を見ているかのように、再び厚い雲が現場を覆った。最悪のタイミング。もういっちょ晴れてくれないかという期待とは裏腹に、真っ暗になったこの峠道に遠くからジョイント音が聞こえてきた。




真っ暗。いつものことながらため息がこぼれる瞬間だ。
2011.8/12  北上線  ゆだ高原〜黒沢  EOS5D  100-400mm




こちらはサブ。
2011.8/12  北上線  ゆだ高原〜黒沢  EOSkissX3 24-105mm


 ま、そんなわけで今回の撮影は終了した。今日の昼過ぎから仕事と言うK1トップ氏を新幹線に乗せるため北上まで走り、自分は帰省ラッシュで激込みの下り線を横目に帰還したのであった。