闇雲に九州上陸。大分車485系国鉄色と過ごす3日間


 今回の旅は人間勢いってホントに怖いな・・・とつくづく感じた。予定外の九州進出である。さかのぼること4日前。今月最後の休日が3連休になりそうなことが分かった。始め、1日目は仕事して1泊でどこか行くべぇーと思ってた。まぁいつも通り雪のあるとこと言えば北陸、信越以外に思いつかない。でも今年すでに何回か行っているしなぁ・・・。とここまで考えた。雪・・・。雪と来たら北海道! 北海道ときたら宗谷ラッセル! 次の瞬間には宗谷ラッセルの設定時刻を調べ始めていた。ここですでにビール一本開けていた。一日目の1番早い旭川行きに乗って渡道すれば2日間追っかけが出来る。おまけに初日、夕方の石北ラッセルなんかも撮れてしまう。旭川行きの便も見てみると空席はまだまだあるようで、さらに気になる運賃は思いのほか安い。

「行ってやろうか・・・」

 しかし相手は宗谷ラッセルである。撮影したいのは山々だけど、ほとんど準備もせずに突撃しても大丈夫なんだろうか?Myカンジキくらいしか武器は無いし、バイク乗りにとって命綱の防寒対策も、いくらレンタカーとは言え真冬の北限は北関東程度の装備しか持ち合わせていない。「命からがら」だけは避けたいものだ。
 ではどうしようか。北海道ではなくて九州だったらJALやらANAなどを選ばなければ意外と航空券は安い。北のエアドゥに対して南のスカイネットはどうじゃろか?九州と言えば新幹線の開業により島内の交通体系が大幅に変わってしまう今春、485系が定期運用を離脱するという。2000年のミレニアム記念に塗り替えられた国鉄色485系Do2編成に加えて、さらに昨年もう一本国鉄色、Do32編成が誕生しており、さらにさらに引退記念としてDo32編成が中間車を組み込んだ5両編成となり、総勢2本の国鉄色485が日豊本線の特急運用に就いているらしく、ウヤ情にも編成変更の記事が載っていた。

「記念に行っちゃおうかしら、九州!」

 なんの記念かは分からないが、次の瞬間にはスカイネットアジア航空の宮崎往復の予約ボタンをクリックしていた。片道2万円ポッキリ!鶴のマークの航空会社より1万円以上も安い。さらに勢いに任せるままレンタカーの予約も「ポチッとな」。よく考えずに国鉄色祭り初登場の九州行きが決定してしまった。すでに2本目のビールを開けていた。


2011.2/23


 早朝の京急に揺られ羽田空港に到着。飛行機に乗るのは一昨年以来人生3度目だ。カウンターで予約番号を告げ搭乗手続き。慣れたもんでゲートを入場。これから乗る機材を窓越しに見やると、ややっ!小さい! 乗るべきB737は隣に駐機している767に比べて一回りも小さい。新幹線と都電ぐらいか。機内に入るとこれまた狭く3+3のシートが並びMAXの普通車2階席よりも狭く感じられた。そして6時40分。離陸。箱根登山鉄道とは比べ物にならないくらいの急勾配を駆け上がりあっという間に雲の上。あとはもうひたすら退屈な時間が1時間50分続く。そしてあっという間に宮崎空港到着。簡素な空港ターミナルビルを外に出ると暖かい。さすがに南国ですでに春の陽気だ。すぐにレンタカーの受付に出向き案内されると、いつものようにマツダ デミオだった。早速、これから3日間の相棒になるデミオを操り国道10号線を走り市内に繰り出す。繰り出すっていってもまずは最初の撮影地に向かわねばならない。出発前に一通り撮影地的なものをネットで探してきたが、1発目はDJにも載っていた高鍋〜川南の直線に決めており、まずは九州上陸の挨拶がてら迎え撃つことにした。ところが宮崎市街を抜け郊外へ一歩踏み出すと、道路際の看板にこんな文字が躍っていた。「100m先 消毒ポイント」 最初はなんのことか判らなかったが、その消毒ポイントに近付いてようやく意味が分かった。主要幹線である国道10号線に設けられた消毒ポイントとは、通行する全車両のタイヤが消毒液を染み込ませたマットの上を通過するシステムで、傍らには白い防護服に全身を包んだ係員が一部のターゲットの畜産農家に出入りするトラックなどに噴霧器で車体全体に消毒液をかける関所のようになっていた。そう、鳥インフルエンザは完全収束していなかったのである。昨夏、ニュースで大きな話題になった宮崎の鳥インフルエンザと口蹄疫の流行。テレビでは毎日のように発生地域から絶対にウイルスを拡散させまいと24時間体制で通行する車を消毒する光景が放映されていた。あれから半年。ニュースではほとんどその話題は上がらなくなり、他の土地の人間からすればとっくに家畜伝染病は収まったかのように思えてしまうのだが、実は違ったのである。まだ完全に伝染病の警戒は終わっていなかったのだ。そのことを全く知らなかった自分にショックを受けたし、ヘラヘラと遊びで来てしまった事を少し後悔した。後悔しながらもレンタカーのタイヤもマットで消毒され再び走り出し目的地に近付くと、市内ではまずまずの天気だったが海岸の近いこの周辺では海からの霧が発生してしまい視界は思ったほどよろしくない。本日の国鉄色Do32編成充当予定の「にちりん5号」の通過まであと1時間以上あるので、待っているうちに晴れるだろうと期待していると、続々とテツが集結してきた。さすが雑誌に載ったばかりのことだけはあって駅から歩いてきた徒歩テツや、自分と同様に「わ」ナンバーの方、頑張ってやって来たであろう関東地方のナンバーの方。平日だというのに総勢10名くらいが海からの潮風でベタベタになりながら来たるべき国鉄色を待っていた。




醜く真っ赤に塗りたくられてしまった九州の485系もこの春で定期運用を離脱。一応記念にと。
2011.2/23  日豊本線  高鍋〜川南  EOS5D 100-400mm


そして本命の国鉄色485系「にちりん5号」。今回の3日間の旅はこのDo32編成の485だけを追う目論見。
2011.2/23  日豊本線  高鍋〜川南  EOS5D 100-400mm


 今まで散々撮って来た485系。新潟や金沢の485と細かい相違はあるものの、ここ九州で撮影できる485はまた格別だ。うはぁー、タマンネ!ご飯3杯は行けそうだ。ところで今回は勢いだけで九州入りしてしまったが、実は正直なところ九州の鉄道にはほとんど予備知識がない。九州は7年前に平成筑豊鉄道に臨時として入線したキハ67撮影で訪れたのが最後だし、ここ日豊本線に至っては1往復乗ったきり。撮影地はおろか主要な都市の距離や位置もかなり怪しい記憶地図が頭の中にあった。以下、脳内日豊本線路線図を晒す↓


起点 門司?小倉だったけかな?

行橋(こんな駅があったような。ここから平成筑豊鉄道が分岐し内陸へ線路を伸ばしていたような・・・)

別府

大分(豊肥本線と九大本線がここから分岐。これは知ってる!別府〜大分は案外近くて10kmくらい。海沿いを走る))

佐伯・臼杵(どっちが北だったか全く分からないが都市名は知っている)

宮崎(大分〜宮崎は70kmくらい)

南宮崎(宮崎の次の駅。ここから空港へ支線が分岐)

延岡(最近台風被害で復旧することなく廃止になった高千穂鉄道が分岐)

都城(宮崎〜都城20kmくらい)

鹿児島

鹿児島中央(新幹線も来ている終着駅。もと西鹿児島。鹿児島〜宮崎50kmくらい)


 恥ずかしい話こんなもんだった。大きく勘違いしているのは延岡の位置が実際は宮崎より北にあるのだが南にあると思いこみ、あと何と言っても各都市間の距離感がメチャクチャ。そして日向市なるものを知らなかった。さらにこの日豊本線を走っている特急「ソニック」「にちりん」「きりしま」「ひゅうが」の運行系統が全く分からない・・。こんな日豊本線ド素人が列車を撮影しようってんだから、予備知識を充分頭に入れてから綿密に計画を立てる必要があるのは当然だが、旅立ちを思い立ってから出発まで時間が無い上に仕事もあったのだから学習する時間がほとんどなく、そのまま宮崎の地を踏んでしまったから大変である。話は戻るがまず宮崎空港でレンタカーを借りてすぐ、バイパスを走っていると国道の道路標識があって、その文面をみて驚愕した。「↑大分 175km」 ひゃ、ひゃくななじゅうごきろぉ〜!!  今日の国鉄色運用は大分-「にちりん5号」-宮崎空港-「にちりん16号」-別府-「にちりん21号」-南宮崎と1.5往復になっている。その一番最後の別府発「にちりん21号」を、彼の有名な別府湾バックでやりたいと思っていたが、ここから先述の距離があるとは。九州の広さを完全に侮っていた。さきほど撮影した「にちりん5号」の返しの「16号」を浅海井のお立ち台で・・・と考えていたが改めて地図を広げると、これも完全に間に合わない距離になってしまう。どうしたものか。こんな時は沿線を北上しながら撮影地を見つけて行くしかないだろう。すぐに国道10号に戻り北上を開始する。幸いなことに国道10号と日豊本線はほとんどの区間で近接しながら並走しているので、たまに脇道にちょこっと折れてはアングルを下見し、また国道に戻りを何十回ともなく繰り返した。数回繰り返しているうちに、沿線は梅の花のシーズン真っ盛りであることに気付いた。桜のピンクのド派手な群生に比べると、地味に群れずに白い花を咲かせている梅の花は健気で物の哀れだ。編成写真は先ほどしっかり頂いたので、梅と列車が一つに収まるアングルを念頭に置きながら場所を探していると、美々津駅の北側のガーター橋に見事な咲きっぷりの梅の木を発見した。しかしここで「16号」を迎え撃っては別府湾で「21号」は間に合わない。仕方なくスルーしてしばらく北上を続けるが、進めば進むほどいい感じの梅の花が見つからなくなってきた。やがていつものようにタイムアウト。仕方なしにかろうじて「梅」と分かる木の近くの踏切で、もうすぐやって来る「にちりん16号」を待つことにした。




・・・ビミョー。「にちりん16号」 小倉方の先頭車はスリット型のタイフォンカバーなんですね。初めて知りました。
2011.2/23  日豊本線  直見〜上岡  EOS5D 24-105mm


 ちょうど曇ってくれたことだし、このビミョーな梅の花でなんとなく諦めがついた。そして気を取り直して北上をさらに続けると高速入り口の緑の案内看板がでた。東九州自動車道がすぐそこまで開通していたのである。そう言えば宮崎出発時からレンタカーのカーナビでは出てこなかったり、まして持参した1998年発行の「ツーリングマップル九州」では当然、完全高速道路空白地帯の宮崎県北部。しかし着実に東海岸線沿いを行く高速道路は延伸しているようだが、実際どこからどこまでが開通しているのか、途中部分的に開業しているところもあるようなので撮影地までの所要時間がますます読めなくなってきた。先ほどの撮影地から近くの距離にあった東九州自動車道の終点である佐伯ICから乗り大分市内を目指す。なんと全線に渡って無料実験中の東九州自動車道でラクラク大分市内に入ることができた。夕方のラッシュも始まったような大分市街を抜け、いつか昔バイクで走ったことのある別大国道に出る。片側3車線の国道と線路が並走しながら渚を走る、日豊本線最大のクライマックス区間だ。山側に少しのぼれば別府湾沿いにカーブを行く列車が俯瞰できてしまうだろう。適当に見当をつけて国道を左折。山に向かう小さな坂道を登るとすぐにイメージした別府湾と日豊本線の光景が眼前に広がった。しかし、空は今にも雨が降り出しそうな曇天。通過時間も17時前と遅いのでかなり厳しい撮影条件になりそうだ。そのままある程度高度を稼ぐと路肩の雑草が数m刈られている場所があった。まさにテツ用のお立ち台。すでに先客一人。軽く挨拶をして横にお邪魔させてもらい、直前に通過するソニックでキメ位置確認。刻一刻と露出が下がる中、本日3度目の国鉄色が海の向こうから出現した。



「にちりん21号」 海を入れて引くと手前の民家が写るしズームしてもつまらない。晴れてたら違っていただろうに。
2011.2/23  日豊本線  東別府〜西大分  EOS5D 100-400mm


 本日の撮影は終了。明日の国鉄色は宮崎以南の「ひゅうが」「きりしま」運用。つまり今日中にここから170km以上南の宮崎に戻らねばならない。便利な高速もまだコマ切れの開通だから3時間以上の距離に一瞬気が遠のく。すぐに国道に降り南下を開始し始めるとついに雨が降り出した。高速の終点の佐伯から一般道で宗太郎越え。ほとんど通行車のいない峠道を走っていると、横を走る日豊本線を485系が並走してきた。最初は暗闇で編成まではよく分からなかったが、照明に照らされている踏切を通過すると、別府湾バックで撮影した国鉄色「にちりん21号」だった。これは面白い。どうやら高速道路で追い抜いたようだ。485も急カーブの連続する宗太郎越えで速度が上げられないようで、延々20km以上並走を続け延岡市内に突入。いつしか485は見失ったが、腹が減ったので日向市内で夕食を取ることにした。せっかく九州に来たのだからと「とんこつラーメン屋」で腹ごしらえ。替え玉を頼んだもののもともと細麺のとんこつラーメンは物足りない。3つ目の替え玉をするほどスープも無くなってしまったので、仕方なく途中コンビニでおにぎりを買いそれを喰いながら遠く離れた宮崎を目指す。流れの比較的早い国道を走っていると、宮崎市の手前で行きには気付かなかった高速ICの看板があり、迷わず乗る。こちらの東九州道南側開通区間も無料であった。宮崎市内で降りて一般道へ。明朝からの行動ために給油を済ませ、今夜の晩酌用のビールと目覚めの缶コーヒーを購入。再び高速に入り、今夜は宮崎PAで一夜を明かすことにした。

2011.2/24


 ずいぶんと長いこと寝た。今日の国鉄色の運用は宮崎以南の「きりしま」運用がメインになる。朝イチの国鉄色は9時過ぎに宮崎発なので充分時間があった。外は昨日と変わらず本降りの雨。携帯のワンセグで朝ズバ!を見ながら缶コーヒーとタバコで覚醒。走り出してすぐの清武ICで高速を降りた。今日は国鉄色485は延岡-「ひゅうが3号」―宮崎―「きりしま5号」-鹿児島中央-「きりしま8号」-宮崎-「にちりん24号」-大分となっている。まずは「きりしま5号」を目指すため、蒸気機関車時代から撮影地として有名な田野〜青井岳の築堤を目指すことにした。出発時は予報に反して雨が降っていたが田野の大築堤に近付くにつれて急速に天候が回復してきた。まずはお立ち台に立つ。この時間の南行列車は逆光になるが、雨上がりの雰囲気と朝の低いライティングがドラマチックになってきた。撮影者はゼロ。さわやかな気分で「きりしま5号」を待った。




2011.2/24  日豊本線  田野〜青井岳  EOS5D 100-400mm




同じ場所から。「JNR」マークが大分車の栄光の証。
2011.2/24  日豊本線  田野〜青井岳  EOS5D 100-400mm


 昨日と同じ開きっぱなしの右のタイフォンカバーが気になって仕方ないが、ロケーションもあってやや満足。すぐに鹿児島方面へ追っかけへと走った。当然相手は特急だし並走する高速もないので先回りは困難だが、どうしても叶えたい夢があった。鹿児島と言えば桜島! 桜島と国鉄色485を頂きたかったのである。とはいっても撮影地はよく分からない。何となく地図で探した錦江湾沿いに弧を描きながら走る竜ヶ水付近ならどこかで行けるかも知れないと、浅はかな希望を抱いてここから100km(脳内九州地図では50km弱)先の竜ヶ水を目指した。折り返しの「きりしま8号」の鹿児島中央発が12:10。結構時間的にタイトだ。市街を迂回するバイパスが未整備の都城市内中心部でだいぶ時間をロス。もう間に合わないだろうと諦めかけたその時、高速の入り口を発見。10年以上前に買ったツーリングマップル九州には影も形もなかった東九州自動車道がすぐそこまで開通していた。一気にウィ〜ンと錦江湾までワープできると思っていても時間が無いことに変わりはない。急ごうにもほとんど1車線の東九道ではなかなか巡航速度を上げられず、本格的に焦りだした「きりしま8号」鹿児島出発20分前、撮影地にほど近い姶良インターを降りて海を目指して爆走した。そう言えば本日の最高気温22℃。窓を閉めっぱなしにしていると南国の強烈な日差しでドッと汗が出るほどの陽気。流れる汗も気にせずに一気に錦江湾沿いの国道に出て撮影地を探す。目当ての桜島はと言えば頂上こそ雲に覆われているものの、山裾はクリアーに臨むことができ、誰が見ても桜島と分かる画が撮れそうだ。法定速度+αで走りながら線路の方角と桜島の向き、立つことの出来そうな場所を探しながら先を進む。すでに鹿児島中央駅を出発している時間なので、いちいち車を停めて確認する間は無い。一発勝負だ。ふと一瞬、通り過ぎた景色が目に止まった。ヤッてヤレそうな雰囲気。すぐにUターンして急いで機材を担ぎ、民家一軒へと続く小さな自家用踏切に登る階段を上る。上ってそして振り返る。「アァーッ!! やってもうた・・。」 そこには桜島をバックにストレートで接近する線路を切り取ることのできる場所ではあったが、この場所ではどうやっても逆光になってしまう。場所を変えようにももう時間が無い。仕方なしにここで「きりしま8号」を迎え撃つことになった。




泣く子も黙る桜島をバックに宮崎へ帰る「きりしま8号」。鹿児島まで行った証拠になったでしょうか?
2011.2/24  日豊本線  竜ヶ水〜重富  EOS5D 24-105mm




同じ場所から後追い。
2011.2/24  日豊本線  竜ヶ水〜重富  EOS5D 24-105mm


 この一発だけを撮るためだけに宮崎から鹿児島まで遠征してきてしまった。ただ一瞬の通過を見届けて再び宮崎へ戻ることにする。今来た道をそのまま引き返し、姶良ICから高速に乗り、末吉財部ICで国道を降りて宮崎市内へ。今日は早々に温泉でも入ってちょっと贅沢な夕食でも摂ろうかと思っている。まだまだ日も高いので国道のパーキングに車を停め昼寝。2時間近く寝て再び移動を開始するが、時間の割にやけに外が明るい。寝ぼけた頭でよく考えると、日本列島の西方に位置するここ九州は、当然日没時刻も関東よりも遅い訳だ。すぐに携帯の国立天文台の暦のサイトで調べると、本日の宮崎市の日没時刻は18:08。関東地方なら到底撮影のできない宵の時間に撮影出来るチャンスが多くなる。同じ日の東京の日没より37分も遅い。つまり先ほど撮影した「きりしま8号」が宮崎に到着して宮崎空港へ移動し、そこから始発となる大分行きの「にちりん24号」が17:19発なので完全に諦めていたが、もしやどこかでもう一発撮影できてしまいそうだ。昨日は曇天だったので気付かなかったが、こういう発見もあるのだ。少しペースを上げ宮崎市内を通過。ここで考えたのは橋梁をきれいなガーター橋で渡ることの多い日豊本線。日没時刻に合わせて場所を選べばサイドから夕陽がシルエット的に映えるだろう。日の入りが18:08なのでその直前なら佐土原〜日向新富の一ツ瀬川橋梁だ。




別に国鉄色でなくてもよかった夕陽バック。
2011.2/24  日豊本線  佐土原〜日向新富  EOS5D 100-400mm


 これにて今日、2日目の撮影は終了した。撮影後、ツーリングマップルにも載っていたここから近くの西都温泉でひとっ風呂行くとしよう。車で15分ほど走り西都市中心部にある町営の公衆浴場でホコリを流し、近くにあったラーメン屋で2日連続のとんこつラーメンを食す。ラーメンを堪能しながら軽く明日の予定を考えた。明日は滞在最終日。国鉄色は昨日と同じ「にちりん」運用で大分往復になる。帰りの飛行機の時間もあるので頑張っても2発行けるだけなのだが、なんだかそれだけでは勿体ないような気がしてきた。そんな時にはこんなこともあろうかと貨物時刻表を持ってきた。午前中の下り貨物があるだろう。調べると午前中にやって来る4071レがターゲットになりそうだ。しかし日豊本線の貨物は延岡が終着なのでここから 約80km離れた延岡まで移動しなければならない。まして4071レは延岡8:25と早めの時間に到着するので、ここの近辺で一夜を明かすよりも今夜中に延岡まで距離を稼いでおきたい。風呂も入って飯も食ってからの80kmの移動はかなりダルいが、行く価値アリアリと見た。風呂上がり+満腹。音楽をかけながら流れの良い国道10号線を日向灘沿いに北上を開始。貨物列車の終着に近い延岡までは距離からすると23時前には着くだろうと予測しアクセルを踏み込む。コマ切れ開通状態の東九州自動車道を利用し延岡に到着。市街のコンビニで今日も晩酌用のビールを調達して今夜は道の駅「北川はゆま」で寝ることにした。

2011.2/25

 翌朝。すでに明るくはなっているが未明に雨が降ったようで視界が霞んで見える。気温も低くこの辺一帯に川霧が発生してしまい、「スコーン」と抜けるような写真は期待できないだろう。この道の駅からわずか数百mほどのところに日豊本線の北川橋梁がある。どうも有名な撮影地らしく、出発前にいろいろ調べたサイトなどではこのカーブした北川橋梁の写真を沢山見てきた。クルマを少し走らせて鉄橋の川べりに立つと、なるほど、足回りがスッキリと撮れそうなガーター橋がカーブしながら川を渡っており、どこからも上手く画像に収まりそうだった。が、この時間ではどうしても順光側には通信用ケーブルが邪魔をし車体を隠してしまいそうだ。鉄橋の反対側や斜面に登ったり、反対側に渡ったりと怪しい行動を繰り返していたのだが、コレ!という決めの構図が思いつかなかった。曇りの日や午後ならいいんだが、この早朝のオレンジ色の光線加減を台無しにするのは勿体なく、この鉄橋は止めて他の場所を考えることにした。妥当なところで駅撮りだろう。日向長井の構内外れの小さな踏切で4071レを待つことにした。


日豊本線の最南端貨物は北九州タ〜南延岡間に3往復設定。当然国鉄色のED76が充当される。
2011.2/25  日豊本線  日向長井  EOS5D 100-400mm


 初めて撮影したED76に少し感動した後、今回の旅の目的である485撮影にシフトする。今日は一昨日と同じ運用にDo32編成が就く予定だ。しかし浅海井の海バックで迎え撃ちその後南下して、どこかで返しを撃ったとしても、帰りの飛行機の時間に間に合わないような気がする。であればなるべく距離を進めておいて宮崎に近いところで往復ともに撮った方が賢明だ。というわけで次の撮影地はこれまた有名な美々津の鉄橋。カーブしたトラスが美しいとのこと。実は今回何度もここを通過しており、一昨日下見もしておいた。通過1時間前に到着するとすでに学生テツと思われる面々がちらほら。鉄橋渡り終えのポータルの上の場所は限られるのでガードレールを足がかりにしてそのまま待つこと1時間。見事な晴天の空の下、轟音とともに国鉄色485が姿を見せた。




2011.2/25  日豊本線  南日向〜美々津  EOS5D 24-105mm


 いよいよ次は今回の旅の最後を締めくくるショットだ。そう言えば海沿いを走る日豊本線だが、きちんと海バックで撮影していなかった。九州入りしてからずっと気になっていた川南〜都農にある最も線路が海岸に接近する区間に出向いてみることにした。地図で見るだけでは何キロも建物などない荒涼とした海岸をまっすぐに北に延びる線路を想像していた。果たして国道を折れて海に続く坂を下り線路と並走する県道に出るとイメージ通りの風景がそこに広がっていた。海岸段丘の上を国道が走り、その下を日豊本線の線路が通っている。さらにその線路に並走してリニアモーターカーの実験線の近代的な高架橋が一直線に続く。国鉄時代、新時代の高速輸送機関を開発すべく建設されたリニアモーターカー実験線だが、周知の通り10年ほど前に山梨へとその拠点を移し、ここ宮崎実験線は現在廃線となっている。ここで培った技術は山梨へ、引いては中央リニアと引き継がれているのだからその役目を全うしたのだと言える。そんな延々と続く高架橋の終端からさらに南へ下ると、何もない、ただ原野を貫く日本離れした光景がそこに広がっていた。最果ての光景だ。しかし線路と海岸の距離はどこも微妙で、それらが一緒に写り込むアングルなど存在しなかった。10キロほど進んでみたり、海岸段丘の丘に登ったりしても願いは果たせず、諦めて美々津の鉄橋に行くことにした。九州上陸初日、大分へ向けて走行中、ふと見つけた線路沿いのピンクの花の木が印象に残ったからだ。梅か桃だろうか?その時は特に気にせず通り過ぎたのだが、今となっては気になる存在だ。現地到着。近づいてみるとそのピンクの花は健在で見事な咲きっぷりだった。しかし光線具合、線路位置、どれをとっても自分の技量ではそれを1枚の画に収めることは出来ず、海岸の松林の木陰で昼寝した後、もう一度現場に戻って考えることにした。通過時間10分前。ガーター橋の回りをうろつきながらアングルを決める。カメラの連写を使うと絶妙なタイミングを逃しそうだったので、一発勝負に出ることにした。やがてタイフォンと鉄橋を渡る轟音が近付いてきた。




己の指先を信じて正解だった。「にちりん16号」。後追い。

2011.2/25  日豊本線  南日向〜美々津  EOS5D  24-105mm


 最後に印象深い光景に出くわすことができて良かった。何度も通り過ぎた国道10号線を最後の南下。途中のガソリンスタンドで、3日間連れ添った相棒デミオを満タンにし、ついでに洗車。空港のレンタカー営業所に返却し終わると、西日が少しオレンジ色になって来た。勢いであまりよく考えず出発を決めた今回の九州485ツアー。なかなか満足行く結果を残せてよかったと思う。この九州485系はあと2週間ほどで引退してしまうが、最後までその輝きを失わないで走っていて欲しい。もう撮影では来ることがないであろう宮崎に思いを馳せて、この地を後にした。