姫川の雄姿再び・・・ いすみ鉄道キハ52
 

2011.4/11


 昨年2010年3月、JR線上最後のキハ52として多くの人に惜しまれつつも引退した、大糸線キハ52。3両いた仲間たちの1両は帰らぬ旅路に出てしまったり、もう1両も博物館の標本のように静体保存になってしまったりと、どれも引退した鉄道車両のなれの果てを辿るのだったが、そんな中、幸運にも生き残ることになった1両がいた。キハ52-125。千葉県の第3セクターである「いすみ鉄道」が大糸線で活躍、引退した1両を譲り受け、自社線で走らせるというのである。経営再建中の「いすみ鉄道」は、よく他の同様の鉄道会社にありがちな奇抜なイベント列車を走らせて集客を図ったりなどという手法から少し違い、鉄道施設そのものを活用し集客に寄与させるという新たな試みに挑戦するという。ここら辺の詳しい話は「いすみ鉄道」社長のブログを見ていただくと分かり易い。ともあれ旧木原線の「いすみ鉄道」は春ともなれば沿線のそこかしこに菜の花と桜が咲き乱れ、最高の鉄道情景に変貌することはテツではなくとも一般に広く知られているが、やって来るのは全身黄色のレールバスとあって自分にとっては全く興味の対象外の路線でもあった。そんな中、キハ52の登場である。最高のシーナリーの中を国鉄型気動車がやって来る。もうそれだけでお腹いっぱいだというのに、大糸線時代の青+黄褐色が橙+クリームの国鉄一般色に自前で塗り直しをするというのだというから恐れ入る。ここの会社の社長はファン心理を良くご理解していらっしゃる!! そんな訳で昨秋にこの地に搬入されたキハ52-125は整備、塗装の後、本年3月より運転を開始する予定で自分は心待ちにしていたのだが、例によってあの震災の影響で延期となってしまった。

 ちょうど震災から1カ月経ち、今年の遅い桜も満開になりつつあろうかという4月11日。ついにキハ52の試運転が発表された。


90D  大多喜10:16−−27国吉37−−44上総東48−−10:57大原

91D  大原11:12――21上総東26−−32国吉42−−53大多喜(入区)

1往復のみでしかも全線での運転ではないが、途中駅で5〜10分の停車がある。時刻表を見ると一般営業列車の交換もあるようで、さらに所要時分から全駅に試験として停車するようなペース配分である。個人的には「いすみ鉄道」の情報は皆無に等しいのでロケーション、地形図などを前日に学習。どうやら無理せず安全に追っかけが出来そうな雰囲気である。大糸線で何度も乗ったり撮ったりしたキハ52。そんな想い出深い52と、故郷から遠く離れたここ房総で再会するとは夢にも思はなんだ。

当日


 まさに春の陽気である。自宅からも100km圏内なのでバイクで行くことにした。試運転列車は10時過ぎの1往復なので、まずはロケーションを確認するべく早めに現地入りしようと7時前に出発。首都高、アクアラインを経て今日の始発であり「いすみ鉄道」の本社、車庫のある大多喜に着いたのは8時半頃であった。何箇所か候補地を選択していくつかの撮影地を確認。桜はつぼみもまだあるようだったが、期待以上に満開。菜の花は咲いていないところが無いくらいにそこかしこに群生しており、撮影場所には困らないようだ。大多喜に戻りコンビニ飯を喰いながら運転停車する駅の位置関係や映像のイメージを湧かせているとどうやら片道2回の運転停車をフル活用して、往復で都合6発行けることが分かった。今日の運転の公式発表は例の社長ブログのみ(?)のようなので、人出もJRネタ列車とは比べ物にならないくらい少なく、安全安心で追っかけが楽しめそうである。まずは一発目として城見ケ丘の国道跨線橋の上から菜の花絨毯を望遠でぶち抜くことにした。








いすみ鉄道といえば菜の花。どこも真っ黄色で大変なことになっている。
2011.4/11  いすみ鉄道  大多喜〜城見ケ丘  EOS5D 100-400mm


 本日は雲の多い「晴れ」だったので何となく「イヤ」な予感はしていたが、いつものように的中。しかし黄色の花道から登場したキハ52の姿は懐かしくも嬉しくもあり素直に感動してしまい、もし酒でも入ってたら涙するところであった。さて、すぐに追っかけに勤しもう。すぐ後ろにある城見ケ丘では案の定52が停車。何かの確認をしているようである。それを横目に出発。何台かのクルマが追っかけをしているようであったが、それは磐●西線沿いの国道4●号線の様子には程遠く、何台かが車列を成して各々がお気に入りのポイントへ向かうというのんびりしたものであった。国吉の停車で52を追い抜き、次は新田野の見事な桜と菜の花の築堤下で下から構えた。それにしても今日はテツだけではなく一般観光客も多い。これだけ春の花が咲き乱れるとあって首都圏ナンバーを多く見かける。すると築堤下で構えていると、その一般のおばさまカメラマンが、通過時間に合わせてヒョコヒョコとファインダー内に入って来た。テツならば背後を見て先客の妨げにならないよう注意を払うのが常識だが、一般人にそれを求めるのはナンセンスだろう。「すいませ〜ん。あのちょと・・」と穏やかに作り笑顔で声をかけると通じたのか撤退してくれた。スマンのぅ。




春の嵐。
2011.4/11  いすみ鉄道  新田野〜上総東  EOS5D 24-105mm



 
とても小さな交換駅。上総東で4分の停車。一般営業車と交換した。
2011.4/11  いすみ鉄道  上総東  EOS5D 100-400mm


 これで往路は無事終了。次は復路だ。まずは「いすみ鉄道」随一のお立ち台「上総東〜西大原」の神社の丘に行ってみることにした。ここは人気があるようなので早めに場所取りをする必要があるだろう。すでに午前中の下見時にも数名が2時間前から場所取りをしていた。まさか馬●みたいにパニることはないだろうけど、移動組みが到着する前に押さえておきたい。鳥居をくぐり丘を登るとほとんどの人が平地で構える様子で、丘の上はまだまだ平和な場所だった。往路では曇り時々晴れくらいの割合だったのが正午が近付くにつれて雲が切れ始めてきた。露出も上がる。このまま・・・このまま・・。と天に願いを込めてセッティングに入った。




沿線は田起こしの真っ最中。何度も警笛を鳴らしながら、52はゆっくりと路面の感触を味わっているようだった。
2011.4/11  いすみ鉄道  西大原〜上総東  EOS5D 100-400mm




上記同地点の後追い。
2011.4/11  いすみ鉄道  西大原〜上総東  EOS5D 100-400mm




ここは逆光にも関わらず大盛況だった。
2011.4/11  いすみ鉄道  上総東〜新田野  EOS5D 100-400mm


 やはりこんだけ美しい風景の中を走る鉄道として非テツのアマチュアカメラマンにも有名なようなので、一般人が多い。それはいいのだがそんな彼らが鉄道の追っかけ撮影をし始めるのだから恐ろしい。国道を何の前触れもなく突如の右折、入った農道のど真ん中に急ブレーキで駐車、そして直前のファインダー内の乱入。ファインダーならいいが畑への乱入。こんな追っかけをやっている自分なのでマナーどうこういうつもりは全くないのだが、とにかく巻き込まれないよう気をつけよう。何より怖いのは彼らがその行為に全く気が付いていないこと・・・。運転も残念なくらいヘタだ。往きにも増した追っかけ集団の最後尾に付きながら本日最後の6発目の撮影場所に到着。ここもテツと一般人の攻防が見れて面白い場所だった。




2011.4/11  いすみ鉄道  国吉〜上総中川  EOS5D 24-105mm




無事大多喜に到着。転線のあとすぐにクラに入ってしまった。
2011.4/11  いすみ鉄道  大多喜  EOS5D 100-400mm


 わずか1時間半ほどの追っかけだったが非常に濃いものになった。ちなみに先日、震災復興チャリティーイベントとしてこの52-125は大多喜〜国吉間を往復したそうで、本日、国吉〜大原間は初入線だったそうな。今後は近いうち大多喜〜上総中野も試運転が設定されるのだろう。桜に間に合うかどうか分からないがその際も訪れてみたい。糸魚川から遠く離れた南総で見事復活を果たしたキハ52。豪雪地帯という過酷な環境から解放されて、穏やかなここ「いすみ鉄道」は老いた体にはちょうどいいかも知れない。残されたスノープラウも昔の語り草だ。52よ、末永くこの地の人気者になって欲しいと思う。