磐越西線迂回臨時貨物 その2


 去る震災の日、掲示板にも述べたが愛機、EOS5Dを保管している防湿ケースが押し入れから転がり落ちており、5Dのリコールにもなっている外れやすいリターンミラーが本当に外れてしまった。早速横浜駅近くにあるキャノンのサービスセンターに持ち込もうととしたが、修理は震災の影響で当分受付できないとのお知らせがHPに踊っており、いささか途方に暮れた。当分っていつなのか? もしその間に遠征の衝動に駆られたら!? 北日本は震災の影響で撮影どころでは無いと思うのだが、もしその関係ない地域で「テツ的」な「なにか」があった場合、指をくわえて眺めているだけでは寿命が縮んでしまいそうだ。哀れ、撮りテツの宿命・・・。5Dも実戦投入からすでに5年目。自分の腕の範疇なら性能的に全く不満はないのだが、この際マークUでも買っちゃおうかなと小一時間。・・・やめた。サブを買おう。キスデジだ。EOSkissX50などという超廉価バージョンが発売されるようで本体価格は¥5万を切りそうだ。ある休みの日、ヨドバシに行った。するとキスデジ50は発売延期とのことで、少し割高なX4かなと思って店員に話しかけてみると、すでにカタログ落ちしているX3の在庫が1台だけあるそうなので、キスデジ50の本体価格プラス¥2000でX3のレンズキットを手に入れることができた。家に帰って開封。う〜ん・・・。買っちゃったものはしょうがないのでしばらくはこのキスデジにLレンズの生活になりそうだ。

 で、早速、3月の磐西迂回貨物撮影がキスデジX3のデビュー戦となった。3日間使ってみて、やはり機動性においては5Dを遥かに凌駕している。しかし画素数などスペックはキスデジの方が5年前登場の5Dより勝っているものの、拡大してみるとやはりフルサイズCMOSの5Dにはかなわない。カワイクていい奴なのだが、ストロボ内蔵のためピョコっと飛び出たペンタ部が不格好だし、とにかく「Kiss」というふざけたネーミングが許せない。「趣味は本気で」と渡辺謙がEOSの広告で謳っているが、このキスデジじゃぁ自分は本気になれない。所有欲というカメラにとっては最も重要かつ微妙な部分がこのカメラには無かった。

 しかし磐西迂回の撮影数日前、突如として修理受付が再開。自分にとってキスデジ購入はこの3日間だけのものになってしまった。その後4月が明けて数日経ち、見事に復旧した5Dが戻ってきた。パコパコという間抜けなシャッター音も健在だ。そんな悦に浸る間もなく新たな欲求が出てきてしまった。「5Dで磐西貨物非電化区間でリベンジ」だ。もはや説明は不要。4月14日を出発の日と決めた。


2011.4/14

 自宅を出発したのは日付が変わる少し前だった。早朝からの仕事だったので今夜は行ける所まで行って、翌朝の9294レから狙おう。4月から運転を開始した前回には設定のなかった午前中に新津から若松へ送り込まれるスジだ。おおよその運転時刻は分かっているつもりだが、どこでどう撮ろうかなんて考えていなかった。まだ行程半分の上河内SAでダウン。3時間ほど仮眠して、チマチマと会津への距離を縮めて行く。車中で決めた目的地にほど近い西会津ICで降りたのは、列車通過まで1時間を切った頃だった。空は見事なまで澄み渡っている。空がきれいに見える非電化区間での撮影にはもってこいの陽気だった。背後の冠雪した山々を見通せる田んぼに到着。通過までもう30分ほどになると、続々と追っかけ隊が到着。あっという間に黒山の人だかりになってしまった。聞けばここは「ばん物」の超お立ち台的撮影地であることを近くにいた人の会話を盗み聞きして初めて知った。




直前の露払い列車? 227D
2011.4/14   磐越西線  上野尻〜野沢  EOS5D 100-400mm




9:59 9294レ通過。非電化区間でこの設定時刻ならではの美しい光景。
2011.4/14   磐越西線  上野尻〜野沢  EOS5D 100-400mm


 列車をファインダー越しに見ながらレリーズを切っていると、何やら熱いものがこみ上げてきてしまった。前回訪問時にはなかったこの感情。分断されズタズタになった大動脈、東北本線では災害復旧に欠かすことの出来ない燃料を輸送することが出来ない。そこで別ルートを使って本州を横断して被災地に直接燃料を送り込む特別な臨時列車が今回、急遽仕立てられたわけだ。こうして呑気にその貨物列車を撮影しているのだが、その列車の使命たるや、一言でいえば人の命を繋ぐために毎日走って仕事をこなしているのだ。この二条のレールと目の前の赤い機関車の貨物列車が無ければ、不安感に苛まれる被災地の人々が、今までの生活に戻ることも大きく遅れていただろう。そんな重大な任務を帯びた列車を牽引すべく集められたのが、新型機関車の登場で主役の座を奪われた全国のDD51達だ。定期運用からの離脱で、まるでスクラップ待ちのようになっていた者、一線を退き閑職に追いやられていた者。北海道から九州、経歴はさまざまだが、老体にムチ打って駆け付け、ここ磐西の難所で咆哮を上げる8両の熱い仕事っぷりを思うと、ある人生のドラマを思い起こさせるようでたまらなくなってしまった。

 そんなことはさておき、オレは撮りテツ。すぐに追撃の態勢へと入る。この先、線路は曲がりくねった阿賀野川に沿って走るため、速度は上がらないので普通に走っていれば追い越すことが出来ると思っていが、国道を逸れて県道の隘路に入り、ベーッとアクセルを踏んでいると、バックミラーをふと見て驚いた。自分を先頭に何十台ものテツクルマが連なっているではないか!? すぐ後ろのクルマは車間1mほどに詰めておりオラオラ状態だ。しばらくして直線区間に入ると業を煮やした数台の車がイエローラインを踏んで追い越して行った。「ヒデェーな・・・」と一瞬思ったが、自分も人のことは言えない。のんびり走った自分のせいで道連れにして列車に間に合わず恨まれるのは勘弁だ。ペースカーにはなりたくなかったので坦々と走っているうちに山都駅前を通過。さらに一ノ戸川橋梁をくぐり川吉に到着。のんびりしたせいか時間も無く、着くとすぐに踏切が鳴り出してしまった。




10:34  さっきの撮影地のままで追っかけたので標準レンズに付け替える間もなく終了のお知らせ。
2011.4/14   磐越西線  山都〜喜多方  EOS5D 100-400mm


 これで往路、非電化区間の撮影は終了。下りの9293レを更科でやってからまた戻ってこよう。出発時、取るものもとりあえず高速に飛び乗ったので所持金はわずか数百円。慶徳のヤマを越えて舞台田の郵便局で現金調達。途中のコンビニで遅い朝食と昼寝をして時間を潰した後、クッキリと浮かび上がった磐梯山を正面に会津盆地を横切り更科へ。オメガを登って来る先ほど追っかけた9294レを撮ろうと撮影ポイント付近をウロウロしていたが、ちょうど2両のDD51がカーブから顔を出す瞬間だった。完全に油断していた。線路は右へ左へ蛇行しながら坂を登るので、県道でショートカットすれば余裕で峠の上で待ち構えることが出来るのだが、いい場所が思い浮かばず、前回訪問時にロケハンだけした直線勾配にてスチル一丁で迎え撃った。




12:15 9294レ 若松のスイッチバックで今度は759号機が先頭。
2011.4/14   磐越西線  磐梯町〜更科(信)  EOS5D 100-400mm


 さて次は下り9293レだ。列車通過後、すぐに移動して、今回是非押さえておきたかった磐越道脇の俯瞰に行って早めに場所取りをしたいと思う。あそこは晴天の午後なら光が見事に順光で当たる場所なので、最もオイシイ時間に通過する9293レでは激パ必死。10分ほど走り現場到着。狭い場所なのですでに先客でキャパオーバー状態。背伸びしたりしゃがんだりしながら一地点を決めて通過を待つことにしたのだが、待ち始めてからすぐ、体内の花粉センサーが作動してしまった。関東ではすっかり落ち着いたスギ花粉だが、ここ南東北では今がまさに旬。さらにこの撮影地は見事に成長したスギの木の林の中からなので、攻撃は半端無い。時折風が吹くと枝から黄色い煙のような花粉が、繁殖しようと一斉に大気放出されるのが見て取れる。目、鼻もやられしまい、さらに喉もやられ、一時間以上黄色いパウダーを浴び続けながら瀕死の状態で列車を待っていた。




13:56 ようやくやってきた。前にいる先客をかわすため厳しい画角になってしまった。
2011.4/14   磐越西線  翁島〜更科(信)  EOS5D 24-105mm


 辛かったスギの密生地を降り、再び非電化区間に分け入ろう。前回曇りで撃沈した山都〜荻野のSカーブだ。今日は夕方まで陽は持ってくれそうで出来れば追っかけて馬下くらいでフィニッシュと行きたい。到着するとさすがに人気スポット。すでに30人ほどが待機していたが、それより困ったのがクルマの数。停める場所がないのでしょうがなく、100mほど離れた地点にクルマを乗り捨てるが、これでは通過後のキャノンボールではかなり出遅れてしまうのが見え見えだ。




15:52 9293レ
2011.4/14   磐越西線  山都〜荻野  EOS5D 100-400mm


 ビデオはまだ回っているが、通過音を聞きながら撤収。動画停止してから、かつての鈴鹿8耐のスタートのようにクルマに向かって猛ダッシュ。一番遠くに停めた自分は完全に出遅れ、中盤のグループからさえも大幅な遅れを取ってしまった。どうやら本気で駆け抜けている先頭集団は野沢の国道クロスでもう一回やって、さらに日出谷の鉄橋だろう。自分はダイレクトに日出谷一本に絞っていたので、まったりペースで先を急ぐ。上野尻で貨物列車を追い越し、そのまま線路とは大きく離れて国道49号線で車峠を越える。日も傾き始め鋭くなってきた西日が奥会津の山々を照らしている。美し過ぎる。ウインドーを半開にしてタバコをふかしながら国道を飛ばし阿賀野川沿いの国道459号線に入る。追っかけ隊も分散して来たのか、デーデーを追いまわしている車が少なくなってきたと思っていたら大間違い。日出谷の撮影地にはすでに総勢100名ほどがこの狭い農道からのポイントに集結していた。




16:36  西日を浴びて定時通過。
2011.4/14   磐越西線  日出谷〜鹿瀬  EOS5D 24-105mm

 つくづく思うのだが、この撮りテツの執念と言うか徹底性と言うか、この労力には大いに感服する。だってほとんどのテツが自己満足のためにやってるわけだし、一銭の得にもならいからだ。1枚の写真を撮るためだけに飛行機に乗ったり、来るか来ないかも分からない列車を何時間も待ってみたり。こんな事言う自分もまさに唯中の一人なのだが、自問自答したところで答えが出たことは一度も無い。止めようと思ったことも無い。それはさておきもう一発深追いしてみよう。前回の初日、雨天のため露出も得られずこの場所で見送ったのだが、今日はまだまだ行けそうな雰囲気だ。9293レがさらに奥地へと誘っている。この先の津川では30分の運転停車があるので当然先行だ。目指すは馬下。この晴れ具合なら本日のグランドフィナーレを飾るに相応しいステージになるだろう。馬下は初めて訪れる撮影地だったので早めに現地入りする必要があるので、津川停車の撮影も華麗にスルーし、やがて到着した。するとそこには完全に紅くなった夕陽を浴びて日出谷と同じく100名ほどの猛者たちが、自分と同様本日のシメを待ちわびていた。




17:36 先行の2239Dが通過
2011.4/14   磐越西線  馬下〜猿和田  EOS5D 100-400mm




17:51 今日も一日お疲れ様でした。
2011.4/14   磐越西線  馬下〜猿和田  EOS5D 100-400mm




そして振り返ってギラリ。
2011.4/14   磐越西線  馬下〜猿和田  EOS5D 100-400mm


 こんな感じで今回の撮影は終了した。最後の最後でドラマチックな光景に出合うことが出来て感無量だ。今回、地震という天災によって急遽設定された磐越西線迂回臨時貨物列車。理由が理由だけにこの手の列車の撮影を咎めたりする向きもあるようだが、テツのみならず世間一般の人々にも多くの感動を与えたこの列車の使命を考えると、重い任務を背負いながらも、美しく逞しくもある老兵DD51を撮りたいというのは、テツにとってもっと自然で純粋な欲求だったと思う。「頑張れ」という言葉は簡単で無責任だけど、やはりついて出てきた想いは「頑張れ」なのである。