磐越西線臨時迂回貨物 その1
 

2011.3/30


 東北大震災によって寸断された物流の大動脈、東北本線。その影響で被災地への物資、特にガソリン、軽油、灯油など燃料の輸送不足が深刻化してきた。そこでJR貨物、JR東日本は英断を下すことになった。横浜市の根岸にある製油所で精製された燃料をタキ20両で新潟ターミナルへ隔日輸送。2分割された10両が毎日磐越西線で郡山まで運行されることになった。迂回貨物といえば有珠山噴火により函館山線での旅客、貨物輸送。新潟中越地震では同じく磐越西線で迂回貨物が運行されている。理由が理由だけあってあまり勢い勇んで撮りに行くことは直前まで躊躇していたが、ここでは述べないが自分なりの免罪符を打ってから現地に向かうことにした。

 磐越西線迂回貨物 9292レ 9293レの運転開始は3月26日土曜日である。この初日の会津地方は雪に見舞われ、早朝郡山に向かうDD51×2+タキ10両の9292レは更科信号所付近の勾配で空転により立ち往生した。やがて会津若松から救援のDE10が現場に到着して後補機につき、無事に峠を越えたというエピソードもあり、そのため翌日より数日間若松→磐梯町のみでDD51重連とDE10のプッシュプルが見られることとなった。また当面は磐越西線内は1日1往復の予定であるが、今後の増便のために後日、全国の機関区からDD51が救援のために集結し始め、東新潟機関区には北は鷲別、南は門司まで総勢8両のDD51が集うことになった。

 自分はもともと連休だった月末に向かうことにした。深夜の東北道を白河中央ICで降り、国道294号で猪苗代湖へ。まだ雪の残っている磐梯町の国道パーキングで一夜を明かすことにした。




5:34 夜も明け始めた川桁付近を行く9292レ。
2011.3/30  磐越西線  川桁〜関戸  EOSKissX3  24-105mm




6:24 9292レは磐梯熱海を過ぎるとようやく朝日が当たる。
2011.3/30  磐越西線  磐梯熱海〜安子ヶ島  EOSKissX3  100-400mm




12:46 荷を下ろし郡山から新潟へと帰る9293レ。
2011.3/30  磐越西線  安子ヶ島〜磐梯熱海  EOSKissX3  24-105mm




13:44 定番。布藤の磐梯山バック。
2011.3/30  磐越西線  翁島〜更科(信)  EOSKissX3  24-105mm




15:40 非電化区間に入る9293レ。
2011.3/30  磐越西線  山都〜荻野  EOSKissX3  24-105mm




16:25 雨に煙る日出谷の鉄橋。
2011.3/30  磐越西線  日出谷〜鹿瀬  EOSKissX3  24-105mm


 ほぼ定番と言える場所は三脚も何本か立っていたし、長時間停車を利用して追っかけもちらほら発生した。雨もひどくなり本日の撮影は終了。国道49号線を会津若松まで走り、更科オメガ付近にある道の駅「ばんだい」で一夜を明かすことにした。

2011.3/31


 翌朝、4時ころ起きて会津若松の駅構内で新潟から到着した9292レをバルブの予定だったが、この道の駅の真裏にある線路を9292レが通過する轟音で目が覚める始末。起きてすぐの運転は危険なので外に出てストレッチなどをして覚醒させてからクルマを郡山方に走らせた。どこで列車を抜けるかは分からないが、とりあえず東へ急ぐ。クルマの通行量は早朝だというのにそれなりに多くて坦々としたペースで国道を走っていると、関戸付近で9292レと並走。いつしか列車を追い抜き、磐梯熱海手前の築堤アオリポイントで撮影出来そうだ。通過直前に追っかけと思われる2組が合流。峠を降りてくる列車を待つことにした。




5:46 今日は良く晴れそうだがこの時間ではまだ線路に日が届かない。
2011.3/31   磐越西線  中山宿〜磐梯熱海  EOSKissX3  24-105mm




6:25  晴れを予感したがこの時間では霧が発生。
2011.3/31   磐越西線  磐梯熱海〜安子ヶ島  EOSKissX3  100-400mm

 この9292レを見送った後、本日の午後の返却便の9293レの撮影場所を探すため再び更科付近に戻ってきた。品薄状態の続くコンビニでおにぎり+菓子パンを購入して、昨夜明かした道の駅「ばんだい」で作戦タイムを立てていると、突如として道の駅裏手を通っている線路から、電車のそれとは違う轟音が鳴り響いた。ふと見るとDD51の重連単機回送が郡山方面へ向かって坂を上っているところだった。食べかけのあんぱんをほおばりながらすぐに追跡。線路が大回りしている更科オメガなのですぐに追いつくことができた。




8:46  重連単機回送が郡山に向かった。
2011.3/31   磐越西線  更科(信)〜翁島  EOSKissX3  24-105mm




12:47  そして今日も積荷を降ろしたタキが首都圏へと帰る。
2011.3/31   磐越西線  安子ヶ島〜磐梯熱海  EOSKissX3  24-105mm




13:11 中山トンネルに間に合ってしまった。
2011.3/31   磐越西線  中山宿〜上戸  EOSKissX3  24-105mm




13:50 高原では依然霧は晴れず・・。
2011.3/31   磐越西線  更科(信)〜磐梯町  EOSKissX3  24-105mm


 この9293レは会津若松で機回しで数十分停車の後、非電化区間に入る。時間も余裕があったので朝と同じように、また道の駅で休憩していると、また朝と同様、重連単機回送が郡山方に向かっていった。もしや数日後に増発されると噂される2往復目の試運転か!? あまり深追いすると本命の9293レに間に合わなくなってしまうので、翁島付近まで先回りして重単を撮影した後、会津盆地を横切って非電化区間に向かった。




14:06  本日2度目の重連単機回送。
2011.3/31   磐越西線  更科(信)〜翁島  EOSKissX3  100-400mm




16:01  有名な国道オーバークロスから。今日の天気ではここまでが限界だった。
2011.3/31   磐越西線  野沢〜上野尻  EOSKissX3  100-400mm


 で、今日はここ野沢のオーバークロスで貨物列車を見送って終了となった。これで帰る予定だったのだが、3連休でもあったのでもう一日粘ることとし、県道を使い山都〜喜多方へ抜けて市街の北外れにある道の駅「きたかた」に併設されている温泉に行くことにした。会津盆地へ出るとそこは眩しいほどの快晴。夕陽を浴びながら露天風呂で汗を流した。この夜も昨日と同じ道の駅「ばんだい」。ここを拠点に動くとこの迂回貨物の撮影は朝から効率よく動けることが分かりお気に入りになってしまった。

2011.4/1


 翌朝も少し寝坊して川桁付近で流し撮りをした後、昨日と同じく安子ヶ島へ。今日はこの3日間で一番晴れているので、背後の山の稜線までクッキリ見通せる。昨日と同じ国道の脇で山バックを狙う。ちなみに予てから噂のあった2往復目の9294レ、9295レが本日より運転開始。ダイヤはおおよそで「ばんえつ物語」のスジであると思われるが、それら2往復分をまとめて撮影しようとすると、かなりエリアが広範囲になり効率的で無くなりそうだったので、今までのように既存の9292レ、9293レの追っかけに終始することに決めた。




6:28 9292レ
2011.4/1   磐越西線  磐梯熱海〜安子ヶ島  EOSKissX3  24-105mm




12:46 9293レ
2011.4/1   磐越西線  安子ヶ島〜磐梯熱海  EOSKissX3  24-105mm




13:06 23‰の勾配にアタックするDD511188+832のペア
2011.4/1   磐越西線  磐梯熱海〜中山宿  EOSKissX3  100-400mm


 ここ中山宿で撮影の後、更科方面へ追撃開始。その道中、今日から運行開始の2往復目、9294レ、9295レの様子はどうなっているんだろうと目撃情報を検索すると、なんと機関車故障のため磐梯町付近で立ち往生中とのこと。若松から救援にDE10が向かうのでは?という憶測まで飛び出している。だとすればこの臨貨開始当初に見られたDD51重連+タキ+DE10後補機の再登場になる訳で、これはどうしても見てみたい。すぐに進路変更し追っかけ中の9293レを追い越して磐梯町に到着すると、すでに駅構内にその姿はあった。恐らく故障していない機関車のみでこの駅まで息も絶え絶えかろうじてたどり着いたと思われる。発車の様子がなかったので若松からの救援待ちのようだ。この磐梯町駅構内は退避線のない交換駅のため、立ち往生している9294レ、反対方向から向かってきている9293レ(おそらく猪苗代で抑止中)で本線がふさがっているため旅客列車の運休も発表さている。しばらくするとクルマに分乗してJR職員がこの駅にやって来た。なにやら打ち合わせのあと、なんと機関車と貨車を切り離し始めた。片方の機関車が故障しているためパワーは1/2。機回しをして若松へ一旦降ろし、仕切り直しでもう一度峠を越えるのだろうと予測し待っていると、切り離された故障している機関車(DD51757+835)は重連単機のまま猪苗代方の坂を登って行った。当然機関車のいなくなったタキ10両だけが駅構内に取り残されている。どうするつもりだろうか?やがて30分ほどすると峠からDD51重連単機が坂を下って来た。カマ番を見ると先ほどまで9293レの先頭に立ち郡山から若松方に向かっていたDD511188+832のペアではないか。すぐに状況は分かった。上り勾配の途中で故障したDD51757+835を貨車から切り離し、単機で峠の上にある猪苗代まで回送。反対方向に向かっていた9292レを猪苗代で抑止させ牽引してきたDD511188+832をタキから切り離し、磐梯町からやって来たDD51757+835をタキに連結。同時にDD511188+832の重連単機を磐梯町に降ろし放置されていたガソリン満載の貨車に連結。9294レとして峠越え。猪苗代で待機していた故障中のDD51757+835が空荷のタキを率いて9293レとして坂を下る。ということだ。なるほど!上下から同時進行してきた機関車を交換し、故障したカマで下り坂を空荷で下り、正常なカマで満載の貨車を引いて上り坂に挑むという、ずいぶんと柔軟な対応だ。




14:04 機関車に置き去りにされて放置プレイ中のタキ。
2011.4/1   磐越西線  磐梯町  EOSKissX3  24-105mm




14:28 峠から降りてきた「調子のいい機関車」が連結されて峠越えの準備が整った。
2011.4/1   磐越西線  磐梯町  EOSKissX3  24-105mm




14:49 そうして無事に峠を越えた9294レ初日。
2011.4/1   磐越西線  更科(信)〜翁島  EOSKissX3  24-105mm




15:11  1時間20分遅れで9293レ通過。後日談によると次位の835号機がオーバーヒートしたという。
2011.4/1   磐越西線  更科(信)〜磐梯町  EOSKissX3  24-105mm


 当初の予定では、天気もいいので9293レを非電化区間まで追っかける予定だったが、翌日の仕事が早朝からであり、いささか焦りもあった。が、今回の件で列車は大幅に遅れ諦めもつき帰ることにした。

 東北本線は幸いなことに主要幹線であることから復興が優先され、4月中旬には運転再開されるとの見通しが発表されている。同じくしてこの磐越西線迂回臨時貨物列車もそれまでの役目であると予想される。今回は電化区間での撮影がメインだったが、運転終了までに再訪して、今度は非電化区間での撮影を試みたいと思う。