日本最後のキハ58運用。高山本線富山口に突撃 


2010.6/4


 つい数年前まで、全国各地で見ることのできたキハ58急行型気動車。しかしここのところ一気に引退が進み、記憶に新しいところだと2008年の盛岡地区からの陥落、九州、四国、そして昨年新津のキハ58も墜ちてしまった。7年前の山陰地区での国鉄型淘汰の際、最後に58が残るのはどこだろうと考えたことがあった。そして2010年の今、ついにキハ58の最後の定期運用1線区が残った。高山本線富山口。まさかここ富山のわずか10数キロで最後の活躍が残るとは、当時想像だにしなかった。たしかに高山本線はキハ58にとって所縁の深い路線ではあるが、与えられた使命は朝夕の通勤ラッシュ運用という、58には似つかわしくない任に細々と就いている。

 JR西日本金沢支社富山地域鉄道部に所属するキハ58、全4両は、2両が紫の新高岡色、そしてもう2両の58477+282360は国鉄色を纏っており、どちらか一方の編成が朝の3往復(うち片道は回送)と夕方の1往復に就いている。高山本線富山口はキハ120なる軽快気動車に一旦置き換えられたのだが、ローカル線の列車本数を増発したり、パークライドを整備し地域活性化にどれだけ効果があるかを判断する「社会実験」対象に選ばれ、結果不足する車両を補うため高岡鉄道部で予備車扱いになっていたキハ58を富山地域鉄道部に転籍させ、朝夕の増発に対応している。しかしこの社会実験も2011年春までの実施であるため、日本最後のキハ58定期運用もこの時期に消滅してしまうことが予想される。ならば国鉄色に逢いに行かねば・・・と思いつつはや1年。 しかし2編成ある58も状態が良く製造年も新しい新高岡色が運用に就く確率が非常に多く、国鉄色が稀に運用に就いたとしても、天候、休みなど条件が重ならないことが多く、国鉄色が運用に入ったとしても遠く関東で手をこまねいて思うことしかできなかった。そんなある日、ゴールデンウィーク以降1カ月ぶりに国鉄色が夕方の1往復に入ったとの情報を得た。一旦運用に入れば翌日も入る可能性は高い。翌日仕事が終わって20:33に間に合うように急いで帰宅しパソコンを立ち上げる。20:33というのは夕方の58運用が富山駅に戻る時間で、富山駅のライブカメラで編成を確認し国鉄色ならすぐに富山に向かって旅立つ予定だ。このライブカメラ、駅構内の様子は駅舎ビルに隠れてしまい、停車中の列車は見えないため、入線してくるわずか数秒しか確認できない。しかもこのカメラはパソコンで遠隔操作できるため、この入線の数秒の間に他人に制御権を取られてしまうと確認ができなくなる。やがて20:33。つい1分ほど前まで他人に制御権を取られてしまい、道行く女子高生のズームアップなどをされてしまいかなりヒヤヒヤしたが、すぐに飽きたのかライブカメラはオレの手に落ちた。マックスまでズームし高山方の構内を映し出す。やがてやって来たのは紛れもなく国鉄色編成だった。ライブカメラの粗い画像であるが、構内照明に浮かび上がった急行色は美しい。今すぐ逢いに行くべし!すぐに出発準備に取りかかる。

 明日は朝から北陸地方は快晴の予報。少し体力もあったので、バイクで行くことにした。この季節なら寒さも大したことはないだろうが、最短ルートである安房峠越えのために真冬の完全防寒で22時ころ自宅を出発した。八王子ICまでの道のり、汗だくになりながら国道16号を走る。八王子〜中央高速〜松本。順調だ。3時間も走り放しだったため少し寒くなって来た。市内で給油し、いよいよ峠越えにかかる。いつしか体温は完全に奪われ歯がガチガチに鳴るほどだった。標高1300mの安房トンネルを越え岐阜県へ。連続急勾配を下り神岡を過ぎ、猪谷の道の駅に着いたのは午前4時前だった。1時間ほど仮眠できそうだ。適当なベンチを見つけて横になるが強く風が吹いており寒さで寝付くことは出来ない。眠りに就く努力はしてみたが結局仮眠を取ることは出来ず、白み始めた空の下、越中八尾を目指して再び走り出す。朝一番の富山行き841Dはキハ58が使用されるが、越中八尾で滞泊ではなくて回送列車が富山から運転されるので、それから撮影を始めたいと思う。太陽も顔を出し周囲はオレンジ色に染まる。来るのは国鉄色か、新高岡色か? これで紫の高岡色だったらボクチンどうしよう・・・。セッティングを済ませ神経を集中させるた。



58 477+28 2360。来た! 朝の斜光線を浴びて越中八尾を目指す回送列車。
2010,6/4  高山本線 越中八尾〜千里  EOS5D  100-400mm


 眩しい朝日を受け、美しい国鉄色はかなりのハイペースで走り去っていった。すぐに移動開始する。バイクにまたがりキョロキョロしながら撮影場所を探していると、ちょうどこの季節、田植えのころより稲が少し伸び始め水鏡が出来る最後のチャンスであるようだった。また、沿線にはテツの姿も何人も見かけた。この天気と国鉄色となれば人出がでるのも当然だろう。次の千里駅周辺で順光で撮れる撮影ポイントがあったので早速セッティング。すでに先客の姿も何人かあった。




2010,6/4  高山本線 千里〜速星  EOS5D  100-400mm


 さて次の844Dまで1時間以上あるので近くのコンビニで朝食を仕入れ、駐車場でおにぎりを喰っていると急にあたりは真っ暗になった。早朝だというのに分厚い積乱雲のような雲が東側から湧いてきており先行きが不安になってきた。まさに暗雲立ちこめる状態。飯を食い終わり気になっていたポイントへロケハンしに向かった。向かった先は県道62号線のクロスポイント。井田川を渡りカーブを描く線路を見下ろすことができ、午前の貨物列車と掛け持ち出来そうな場所だった。現場確認。852Dの続行10分後に貨物はやって来るので、ここで越中八尾行きの午前最後の列車を撮ろう。確認するとすぐにUターン。先ほど目を付けておいた千里の田んぼに戻って来た。



逆光の中ギリギリ水鏡。八尾に戻る844D。
2010,6/4  高山本線 越中八尾〜千里  EOS5D  24-105mm


 気がつけば空を覆っていた雲はどこかへ去り、初夏の強烈な日差しが照りつけていた。昨夜の安房峠越えのためフル防寒装備でいたので猛烈に暑い。真冬の防寒から一気にTシャツ一枚になっていた。さてお次はどこで撮ろうか?







849D 千里のラッシュ風景。果たして社会実験の効果は出ているのだろうか?
2010,6/4  高山本線 千里  EOS5D  100-400mm


 849Dを見送ると先ほど下調べをしておいた県道の跨線橋に向かう。市内中心部に向かう車で混雑する交通量の多い県道。大型車が通るとフワリと地面が揺れる跨線橋の狭い歩道で、歩行者がいないのをいいことに三脚を広げる。ここではテツ5名ほど。アスファルトからも容赦なく照り返す熱線に、寝不足も加わって少しクラクラしながら列車を待つ。定刻通り国鉄色キハ58が川を渡ってこちらにやって来た。サイドに強烈な光線を浴びながらディーゼルサウンドを残して去ってしまうと、再び行き交う車の音が騒々しく聞こえる。そして10分ほどすると2灯のハイビームがゆっくりと近づいてきた。1090レがやって来たようだ。







貨1090レ。原色が来るもんだと思い込んでいたら更新機だった。
2010,6/4  高山本線 西富山〜婦中鵜坂  EOS5D  24-105mm


 貨物を見送るとすぐに撤収しバイクで1090レの目的地である速星へ急行する。線路沿いの道を飛ばし速星の場内信号が見えてくる。すでにDE10は運んできたコキから切り離されており、入れ替えが始まっている模様だ。にしてもこの速星の貨物扱い施設はかなり規模が大きい。現在では1日1往復だが最盛期の賑わいが想像できる。このような貨物取扱駅が少なくなってしまった現在では非常に稀な駅だと思う。しばらくすると工業所内からB型の入れ替え用の小さなDLが出てきて、コキをグイグイと引っ張ったり押し込んだりを繰り返していた。


 やがて先ほど見送った852Dが越中八尾で折り返してくる時間だ。午前のキハ58運用の最後の列車だ。駅を遠望する場内信号付近で望遠をいっぱいに伸ばして列車を待った。







857Dが速星を出発。DE10の並びも見せてくれた。
2010,6/4  高山本線 速星  EOS5D  100-400mm


 最後の撮影を終え、富山滞在わずか5時間でこの地を後にする。夕方にも58の運用は1往復あり、今夜はそのままこの国鉄色58が充当される可能性は高いが、今日はこれで満足した。撮影中時折確認していた485系の掲示板でK編成かT18なんかが北越に入ってしまったらどうしようと思っていたが、幸い485関連のネタでは今日は動きはないようだ。安心して帰途につくことができる。今朝通ったばかりの国道41号線を南下、安房トンネルで松本に出て中央道で帰るという往路と全く同じ予定だったが、走り出してわずか1時間の神岡付近でスイッチが切れてしまい廃人になり、炎天下の中2時間ほど昼寝して北アルプスを貫いたのだった。


本日の走行距離 763km