そうだ五能線に、行こう!


2010.9/28


 依然強い雨足の中、深夜の東北道を北へ向かってクルマを飛ばしていた。明日も予報では雨。明日から仕事が3連休なので東北へ撮影に行くことにしたが、北へ走りながらも肝心の目的地は全く定まっていなかった。
おおよその候補地として五能線タラコ、八戸線タラコ、下りブルトレの早朝撮影はなんとなく念頭に置きながらも、憎き天候と、八戸五能のタラコの運用が思わしくないことで、ほぼヤケクソ的に出発を決めたのであった。宇都宮を通過するまでにはどうにか大雑把なプランを立てようとも、眠さも相まって集中力は無く、やがて上河内SAにピットインするや否やだらしなくシートを倒してひと時の眠りを貪った。

 AM8時。起床。雨は少し小降りになっているものの、とても列車を撮影出来るコンディションではない。SAの自販機で買った缶コーヒーを飲みながら時刻表とDJ片手に作戦を練る。すると本日より磐越西線「あいづライナー」が編成差し替えで583が入る模様。撮影は到底出来そうにもないので、583に乗って1往復してみるのもオツかもしれない。時刻を調べると郡山から乗車するのではなく、会津若松から乗って一往復するのが適当だ。少しモチベーションが上がって来た。そういえば・・・、そういえば・・・583に乗るのって初めてじゃないか?オレ? と、気が付いてしまい、新設の白河中央ICで高速を降りて国道294号でヤマを越えた。

 やがて会津若松駅到着。まだ乗るべき「あいづライナー4号」まで1時間以上あったが、駅前の激安コインパーキングにクルマを入れ、ホームに入場。この時間構内にほとんど人がおらず、かなり閑散としていたが、遠目に留置線に停まって体を休めている魅惑のブルーの車体を発見すると、俄然ヒートアップしてきた。




居た。パンタも上げずまだお昼寝中。
2010,9/28 磐越西線 会津若松 EOS5D 24-105mm


 出発まで30分を切った頃、583のパンタが上がり、「フィーン」というMGの起動音が静かな会津若松駅構内を包んだ。「あいづライナー」待ちの乗客も三々五々ホームに集まりだして列が出来始めてきた。いいねーこの光景。旅行者の姿もあれば、快速列車なので通学の高校生も列に並ぶ。やがて583、堂々の入線。高校生たちはいつもの赤い485ではないので、さぞ面白い反応をするのかと期待したが、年に数回行われる編成の差し替えで慣れているようだった。2つ折りの扉が開き初の583車内へ。お!天井が高い。ボックスシートも超広い!青いシートに腰を沈めて、やがて発車となった。走りっぷりは485に似ているが、その巨体ゆえか高速でもドッシリ安定感があるのが新鮮で、まるで高級セダンのようだ。更科のオメガも見事な走りっぷりで克服し、ちょうど1時間。終点の郡山に到着した。













いずれも郡山駅。
2010,9/28 磐越西線 郡山 EOS5D 24-105mm


 ここからは30分後の「あいづライナー3号」でまた会津若松に折り返す。郡山を出るとすぐに寝てしまい、目が覚めた頃にはすでに終着間際の減速を開始していた。ふと車窓から空を見ると西の方が少し明るい。この列車、今度は20分後に折り返し「あいづライナー6号」となってまた郡山に向かって帰ってしまうので、もしやどこかで走行を撮れるんではないかと思い、すぐに駅前に停めてあるクルマに戻り撮影地を探し始めた。この界隈なら磐西貨物や485、583撮影で土地勘は十分にある。会津盆地は自分にとっては「庭」のような時代もあったもんだ、と思い出しながら広田付近までやって来てしまった。到着すると陽は当たらないが空は怪しいグラデーション。時間も無いのでとっかえひっかえ場所を選んでいるうちに踏切が鳴りだしてしまった。




面を入れるつもりは無かったが、失敗・・。
2010,9/28 磐越西線 広田〜会津若松 EOS5D 24-105mm


 さて・・・。さて、である。本当にこれからどうしたもんだろうか。八戸線、五能線ともに明日の運用は非常にウマくない。天気も日本海側以外は晴れないとのこと。その場で持ち合わせの情報入手手段である携帯、時刻表、DJをフルに活用する。で、行きついた答えは「信越海線で485」だった。今日の目撃情報からすると、新潟の国鉄色485、T18編成が現在金沢にいるそうで、このままなら明日は北越で新潟まで一往復ってところだ。といってもここから200km。いろいろルートを考えた末、もっとも距離の短い六十里越えを選んだが、暗くなった頃に急峻な峠道に少し気が滅入ってきた。高速でダイレクトで行ってもいいのだが、節約節約。とりあえず会津坂下の幸楽苑でラーメン餃子を喰った後、車通りの少ない只見線沿いの国道252へ進路を取る。只見駅前を通過しいよいよ六十里越え。真っ暗な断崖絶壁の上の峠道を進み、新潟県側へ。大白川駅で久々の休憩を取った。ちなみ只見〜大白川の峠越え区間20kmですれ違った車は皆無であった。その後は順調に街中を進み、小出〜小千谷〜柏崎まで走り通した。柏崎市内のコンビニでビールを調達し、国道から少し離れた丘の上にあるため、ほとんど利用者のいない道の駅「よねやま」で今日は寝ることにした。


2010.9/29


 予報も外れ朝からどんよりした天気だ。すぐに485の情報を確認すると、やはり予想の通りT18編成は「北越1号」で金沢を出発し、こちらに向かっている模様だ。まだ通過まで時間もあったので下界に降り、撮影現場に到着。買っておいたコンビニ弁当を喰いながら周囲の様子をうかがうと、バイクテツが1名様先客でいらっしゃった。遠くの水平線の向こうは晴れ間がかかっているというのに、自分の直上は昨日にも増してどんより空模様。急速に晴れ間が広がることも期待していたが、ついに時間切れ。最悪の露出の中、国鉄色485は快走していった。




定番中の定番。そういやここでロクな写真撮れたことない。「北越1号」
2010,9/29 信越本線 鯨波〜青海川 EOS5D 24-105mm


例えば・・・

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2008年末の「ふるさと雷鳥」 豪雨のため車内から撮影。ワイパーが写るというヤケクソぶり。


 やっぱり撮ってはいけない撮影地だったのかもしれない。このまま今から明日の目的地である北東北までひとっ飛びしようかとも思ったが、天気予報からするとここ新潟は午後は晴れるとのこと。その予報を信じて、このままさきほどのT18編成の折り返しまで5時間待つということにした。雨まで降り始めてきたことに少し留まることを後悔もしたが、昨日夜を明かした道の駅で少し仮眠を取っていると、ムシムシする暑さで目が覚めた。空は青空が澄み渡り鋭い晩夏の日差しが照りつけていた。そう!コレコレコレ!!この瞬間を待っていた! もう無敵である。時間も無かったのですぐに撮影地に向かい国道のオーバークロスに三脚を広げ臨戦態勢。「バッチ来〜い!!」と気合充分。ズームを目一杯400まで伸ばし現る獲物を狙った。




キタ・・?


キタキタ!  チャキチャキ・・・


オォーキタ!!  チャキチャキチャキ・・・


「北越6号」
2010,9/29 信越本線 鯨波〜青海川 EOS5D 100-400mm


 すぐに機材を撤収してクルマに飛び乗る。急ぐのには訳があった。明日ここから遠く離れた五能線でタラコキハ40が実においしい運用に就くのである。高速を使って現地入りすれば余裕で今日中に到着するのだが、まだ15時過ぎ。一般道でも頑張れば日付が変わる前に青森まで走れそうなのだ。ということで国道を日本海に沿って北上。新潟市内をバイパスでスルーし、無料実験中の日本海東北道で終点まで走破。近くの道の駅に併設の温泉で汗を流し、再び出発。窓を開け風呂上がりのコーヒー牛乳をすすりながらタバコを一服して走る国道7号は最高だ。いつしか完全に日没し鶴岡で再度無料化した日本海東北道で秋田市内をパス。矢立峠を越えてすぐの碇ヶ関ICから本家の東北道に1区間乗る。今日は次の大鰐弘前ICとの間にある阿闍羅(あじゃら)PAでマルヨする予定だ。PAに到着すると23時。朝まで時間もないので途中で買っておいた缶ビール一本だけを晩酌にして仮眠した。

2010.9/30


 セットしておいた携帯電話のアラームに5回ほど促されて目が覚めた。起きてすぐの運転は危険なので10分ほど経ってから出発。走り始めて5分の大鰐弘前ICを降りて五能線の線路に向かった。本日はタラコのキハ40522 48505 48520は日中、ほぼ全線に渡って走破するというA76運用。この日を待っていた。初めての撮影線区だったのである程度撮影地も絞って来た。最初の一発目821Dは津軽のシンボル的山、岩木山をバックにリンゴ畑を縫って走って来るアングルを選んだのだが、雑誌などでよく見る構図は、どうやらそのリンゴ畑の中に入らないと撮影できないようで、人ん家の敷地内に入るなどとてもではないが選択肢になかったのでパス。現場の踏切に到着していろいろ考えてみたのだが、どうも画面に収まりがつなかなかった。ふと、線路際にコスモスが可憐な花を咲かせているのを見つけた。ここにしよう。とクルマを停めコスモスに近付くと踏切が鳴りだしてしまった。




まぁどうってことのない作品になってしまったが、狂おしく咲くコスモスとタラコが殊のほか鮮やかだった。
2010,9/30 五能線 川部〜藤崎 EOS5D 100-400mm


 この821D、朝のラッシュのためか4両編成で、前2両はタラコ、後ろ2両は五能線色だった。もしこのまま昼の運用に就くのであれば、まともに国鉄色を捕らえられるのは半分ほどのチャンスになるだろう。気を取り直して移動を開始する。今日は本当に天気も良く津軽のランドマークでもある岩木山がすぐそこまで迫っている。そんな岩木山を横目にぐるっと北側に回り込み撮影地を探し始める。いっそここで、タラコの折り返しまでまだ3時間以上あるので、驫木駅(とどろき)駅に行ってみることにした。寂しく荒涼とした日本海にすぐ面した僻地に佇む無人駅。事前の情報ではかなり地味だが存在感のある駅だとのこと。1時間ほど走ってついに到着した。驫木はイメージ通り海沿いの小さな無人駅だったが、駅のすぐそばをバイパスが走っており、それだけがすこし想像と異なっていた。すぐに折り返しを撮影するため戻らねばならないので、滞在時間10分ほどで鰺ヶ沢に舞い戻ることにした。 










いずれも驫木駅。




後追いで2826D。五能線色は切り離されていて国鉄色100%に変身してきた。
2010,9/30 五能線 鰺ヶ沢〜鳴沢 EOS5D 100-400mm


タラコは日本海に向かって消えていった。すぐにクルマに乗り込み2826Dの追跡態勢に入る。といっても鰺ヶ沢で10分以上の停車があるのと、先ほど驫木まで下見してきたので、目的地までの到達時間は分かっているため、かなり余裕を持っていた。鰺ヶ沢市内を通過し先ほど通った国道を快走する。天気も穏やかだったので窓を開けると秋の乾いた風が入って来て気持ちいい。ほとんどノンストップでさっき下見したばかりの驫木駅に到着。ホームを見下ろせる高台に登って追い越した列車を待つことにした。




驫木駅遠望。大荒れの真冬にも訪れてみたい駅だった。
2010,9/30 五能線 驫木 EOS5D 100-400mm


 その後もこの2826Dの終着である深浦までしつこく追っかけを敢行した。終着といっても約1時間半後、深浦始発となる326Dもこのまま運用は回るそうなので、先回りして調べておいた十二湖俯瞰で一発キメようと思い、俯瞰ポイントに続く林道入り口にクルマを停め徒歩にて登ることにする。現着するとなるほど、雄大な白神山地の裾野を走る一条のレールを見下ろすことができる。が、撮影後、停めてあるクルマまで戻り、さらなる追っかけをするとどうしても、この先間に合わない可能性が高い。ここも捨て難いし、ここで終わりではいくらなんでも勿体ない。仕方なく国道まで戻り、追っかけのため国道へのアプローチが容易な海岸での撮影に決め、時間もあったので1時間ほど昼寝することにした。




列車番号は変われどそのままタラコが運用。326D。
2010,9/30 五能線 陸奥岩崎〜十二湖 EOS5D 24-105mm


 快調快調! すぐに追っかけを再度開始して、2駅目くらいでタラコとデッドヒートをしてかわし、これまた目を付けておいた八森〜東八森の海バックに到着した。山の耕作地に続く林道まで駆け上がり、急いでカメラとビデオをセットしていると、予想外のものがファインダーに飛び込んできた。なんだかすごーくイヤな予感・・・。




「キョウノ326Dハタラコ」と狼煙(のろし)を上げる民家一軒。風向きも怪しくなってきた。




すぐに望遠に付け替えて煙をかわしたつもりだったが、案の定イヤな予感は的中。
2010,9/30 五能線 八森〜東八森 EOS5D 100-400mm


 とまぁこんな感じで追っかけは無事終了した。一仕事を終えるとどっと疲れが出てきた。さっき追っかけ中に発見した温泉施設まで数km戻り、町営のため安い入湯料金数百円を支払い、誰もいない広い風呂で日本海を見ながらホコリを流した。アイスを喰ったり座敷で昼寝をしたり1時間ほど時間を潰していると、いつしか太陽は高度を下げ、鮮やかなオレンジ色の光が室内に差し込んできた。こ、これはもしや? 東八森で見送ったタラコが東能代で折り返してくる323Dと夕陽のコラボが実現できるのではないか?323Dはどこかの駅でバルブしようと思っていただけに、これは見過ごす訳にはいかなかった。すぐに携帯で能代の今日の日没時間を調べ、時刻表を確認。323Dは今いる八森付近が日没直前の通過であることがわかった。すぐに飛び出てクルマに飛び乗り急発進。有名な撮影地である岩館〜あきた白神の鉄橋を目指した。ここは海バックにサイドから狙うのが定番なようだが、せっかくのタラコがただのシルエットではもったいない。国道を行き来しているうち、後追いになるが海側からのサイドビューが望める場所に到着した。




2010,9/30 五能線 岩館〜あきた白神 EOS5D 100-400mm


 これにて今回のアテのなかった撮影紀行は終了した。いつもならまた違った季節を違った角度から撮影するために再訪を誓うのだが、なぜかここ五能線だけは2度と訪れないような気がした。万感の思いを胸に、暗くなった東北道600kmをほぼノンストップで南下して南関東に帰って来た。