米坂線、3月編。
2009,3/5

 またしても米坂線である。こう躍起になっていると、特雪撮影で毎週新潟入りしていた時と同じように、何か撮りたいとかそういう欲望は消え失せて、天候+運用+休暇=米坂出撃みたいな本能のようになってくるのが分かった。・・・危険である。麻薬か?でも気持ちのいいものではない。はるばる遠征していい写真が撮れなければ過度のストレスとなって私を苦しめるし、反面満足の行く結果になっても罪悪感が残る。リベンジ、リベンジと軽々しく口に言うけれど、果たして今まで本当のリベンジはできたのか?という自問自答しながら眠気を堪えて東北道を走りながら握るハンドルは重い。

 なんてことは高速の「福島飯坂」とか「新潟300km」などの緑看板を見ればすぐに忘れてしまう単純な自分。というわけで今日もウキウキで首都高を飛ばしていると、初めて見る文言が道路情報板に踊っていた。「事故のため佐野藤岡IC〜栃木ICまで通行止め」。ここで気付いて良かった。いつも通り東北道ではなくて常磐道を経由することにした。東北道ルートよりも20kmほど遠回りだが、郡山JCTで東北道に再会。福島飯坂ICで降り、板谷峠を越えて置賜盆地に下ると、時刻は午前4時を過ぎていた。米坂線の国鉄型気動車置き換えまでついに2週間を切り、日々沿線には最後の姿を納めようと多数のテツがここにやって来るという。自分もそんな一人だが、今日はミーハーはやめてじっくり作品作りをしたいという、いつもと少し趣向の変わった気概でやって来た。米沢市内は前回の訪問の時より驚くほど雪が無く、平年なら3月中旬といったところ。明日は58+40と国52の国鉄色2本が運用に入るのだが、いずれもA2、A3という国鉄色狙いにはあまり「おいしくない」運用の日であるが、前日の天気予報では山形県内は晴れ時々曇りということで、少なからず「アノ」場所での撮影を克服したいと思っていた。中郡のサンクス駐車場で1時間ほど仮眠。携帯の目覚ましに起こされるとやや明るくなっており、上空の雲の様子が分かってきた。晴天域4割、曇り領域6割くらいで、冬型の気圧配置が緩んだこの季節では充分日中の晴れは確信した。間もなく純国鉄色編成ではないが、国52が青47を従えたA6運用がやってくるのでサンクスから程近い踏切に移動。下り一番列車である1123Dを待ち構えた。



期待できる、この雲と晴れ間の割合。さぁ活動開始。


空、雪、大気。まるで最後の花道を飾る国鉄気動車を清めるかのよう。1123D。
2009,3/5   米坂線   成島〜中郡   EOS5D  100-400mm


 一枚目を撮り終えて仕上がりはどーのとか言う前に、この張り詰めた早朝の空気で撮影できる喜びに清々しくなり、寝起きのタバコをふかすのもはばかれるほど。先程のサンクスに戻り、今日半日分の食料と飲料を買いだめし、宇津峠に向かう。しかし考えてみると先程撮った1123Dは国道沿いから大きく外れ今泉へ迂回しているし、また列車によっては長時間停車もしそうな羽前小松、今泉、羽前椿も途中にあるため、もしかしたら追い抜いており、この辺で待ち構えてりゃそのうち来てもう一発撮れるんじゃないの?と、時刻表を開いて見ると案の定、間もなくさっきの1123Dがやって来る。手ノ子から旧道に入ってセッティングをした。



道床も見えてしまっているほど春は近づいていると同時に引退も近づいている。この雪と運命を共にする国鉄型気動車たち。
2009,3/5   米坂線   手ノ子〜羽前沼沢   EOS5D  24-105mm


 このあと、1月にも登った明沢(みょうざわ)俯瞰に挑む。この好天と休みとは千載一遇のチャンス。また運のいいことに今日は国鉄色の運用に恵まれていないので、じっくり一枚一枚を仕上げることができてしまう。前々回と同様にトンネル脇の駐車帯に止め、カンジキを装着。雪壁を登り体勢を整えて踏み出すと、ここ数日降雪がなかったので溶けた雪が夜半の気温で凍りつき固く締まった状態で、カンジキは全く不要であった。実は俯瞰で狙う予定の急行色58の1128Dまで時間が無かったので、これは嬉しい誤算。前回は深雪の上を30分以上掛けて登ったが、今回は半分の15分で絶景の尾根に着くことができた。通過まであと15分。先客5人。まだ太陽の位置も低いので谷底の線路に光線が当たるか懸念していたが、心配無用。ぐんぐんと露出が上がってくる。露出確認のために何度かシャッターを切っていると毎度のことながら雲がこちらに向かって接近してきた。



そして曇る。1128D。急行色58とタラコ40が手を組んだ奇跡の編成。
2009,3/5   米坂線   羽前沼沢〜伊佐領   EOS5D  100-400mm

 列車が通過すると現場にいた同志一同大きなため息。でも相手が天気では文句の言いようがないので、全員そそくさと機材を撤収してヤマを降りてしまった。自分は一番最後になり、太陽がのぞいてきた目映い純白の山道を下りながら、今日の今後の予定を考える。昨夜は1時間ほどの仮眠だったので昼寝することにしよう。ちょうど運のいいことに1130Dの14時過ぎまで国鉄色の運用はないためたっぷり昼寝することができる。明沢トンネル脇の駐車帯に戻り、そのまま失神。何時間寝ただろうか。起きると1130D通過の30分前だった。一応今朝15分で登頂できることが分かっていたが、セッティングや場所取りなどを考えるとあまり時間はない。すぐにカメラバック、三脚を携え出発。天気は朝と同様で薄曇だが、明らかに晴れの割合が多い。期待が高まる。時折差し込む太陽光で汗ビッショリになりながら、今朝と同じ歩みを進めるが、気温が上がっているためか固く凍りついた雪が溶け始め、ところどころ体重を掛けるとズッポリと踏み抜いてしまう。カンジキを車に置いて来てしまったため、いちいち雪に足を取られながら山道を登るのは進行スピードが阻まれる。気ばかり焦りながらなかなか距離は進めない。ヤバイ。最後はがむしゃらになりながらようやく到着。心臓が口から出るくらいに息も絶え絶えになりながら頂上を見渡すと、天気の良さも手伝ってか撮影者は20名ほど。場所もなかったので三脚を立てている人に一言断って前に入れさせてもらい、手早くセッティングする。天気は上々。落ち着け落ち着けと念じながら最高のステージをやがてやって来る列車を迎え撃つため、こちらも武装する。やがて登り勾配のため牛歩のごとくゆっくりやって来る国鉄色が遠目に見えた。






1130D。やっぱり薄雲りになったが、一応目的は果たした。
2009,3/5   米坂線   羽前沼沢〜伊佐領   EOS5D  100-400mm

 バリ晴れとはいかなかったが、なんとか晴れ間も差した程度で計20名の同志も一概に喜びの雄叫びを上げられず微妙な手ごたえの様子。三々五々散らばって山を下ってゆく。自分も車に戻り米沢方へ出発。急げば今行った1130Dを成島付近で捕捉することは可能だが、晴れに巡り会わない米坂線撮影で薄晴れではあるもののようやく最後にして念願が叶ったので、深追いはせずにちょっと帰り道でもう一発撮影してから米坂線を後にすることにした。峠を越えると、自然とキンチョールポイントへ向かっていた。






こんなアングルの写真は良く見ることはあるが、遊びっていう意味でマネしてみた。さらば国鉄色。
2009,3/5   米坂線   羽前椿〜萩生   EOS5D  100-400mm