春の485祭り。
2009,4/18

 一番列車の音で目が覚めた。ここは新疋田駅。目を開けると駅待合室の天井が見え、窓の外を見ると空が白み始めたばかりだったが、外の透き通った空気が寝袋の中からでもよく分かる。旅に出て3日目、ようやく天気が回復したようだ。今日は土曜日。本来の計画なら臨時の583系「ふくしま花見山」をここから遠く離れた大河原付近で撮影している予定だったが、ともかくここは福井県。今日も快晴の空の下、ここを雷鳥が飛び交うであろう。
 すぐに出発の体勢に入る。時間はまだ6時であるが、周辺に名撮影地の点在するこの新疋田駅には早くも撮りテツたちが活動を開始していた。自分は寝袋をバイクに仕舞いこみ、逢坂峠に向かってバイクを走らせ始める。晴れてる晴れてる。可能な限り悔いの残らないよう最善の活動をしようと、昨夜頭に叩き込んだ485「雷鳥」の時刻と今日の行動パターンを、バイクを操りながら検証する。ふと夕べ思いついたのは湖西線の蓬莱〜志賀の琵琶湖バックだ。ここは線路が南へ向いており、西の国道側から線路へ真横にレンズを向ければ特急型電車のシルエットがキラキラの波間に浮かび上がるだろう。30分ほど走り現場に到着。眩しいほどの湖面からの照り返しでイメージ通りの撮影が出来そうだった。上り1番の雷鳥4号まで時間が少しあるので、直前に通過するサンダーバードで試し撮りを何枚かやってみた。
 



練習。朝日に輝く湖面を横目に疾走するサンダバ。
2009,4/18   湖西線   蓬莱〜志賀   EOS5D  100-400mm


 やがて大阪行きの485雷鳥が通過する時間だ。かろうじて湖面の反射もまだ間に合う。直前の普通電車で最後の確認をしようと列車の音に注意していると、所定時刻を過ぎてもやって来ない。やがて10分ほど遅れて普通列車が通過。ダイヤが乱れているようだ。10分ほどの遅れなら太陽もかろうじて間に合いそうだが、ここで新たな問題。急に便意を模様してきた。そして雷鳥4号通過時間・・・。来ない。5分経っても10分経っても姿を現さない。ローカル系統に加えて長距離特急系も遅れているようだ。ヤバイ・・。腹力でリミットまで締め上げていたが、この美しい撮影地で惨劇など適わないと、ついに限界を感じ一時撤退することにした。急いで三脚を撤収し内股でバイクに戻ろうとした時、高速走行でのフランジの摩擦音が聞こえるや否や485が通過。たったの15分遅れで標的を失ってしまった。「クソッ〜!!」 グチるのは後回しにして国道を走り最初のコンビニに駆け込むが個室は満員。3kmほど進んだローソンも満室。さらに北上した3軒目のセブンイレブンでどうにか間に合って毒素を排出。最悪の事態を免れた。次の485は1時間半後なので、逆光はもう遅いだろうが念のため現場に舞い戻り確認すると、太陽はすでに高度を上げてしまい、順光でも、シルエットが浮かぶ逆光でもなくなっており、中途半端なライティングではあったが、一応雷鳥12号を待ってみた



最悪ですね。しかしエマージェンシーには代えられないので危機一髪と言いたいところだ。
2009,4/18   湖西線   蓬莱〜志賀   EOS5D  100-400mm



2009,4/16


 最初に今日が旅に出て3日目と書いたが、ここまで紆余曲折だった。一昨日の深夜1時、横浜を出発し東名高速で西進。途中ガス補給とタバコを吸ったくらいの休憩のみで500km近くを走り抜き、敦賀ICで降りた。その時、日本全土にこの季節では希な猛烈な寒波が来ており、敦賀の天気は分厚い雲に覆われた見事な曇り空。昼間の気温も3月中旬並みの12℃であった。ともかく太陽光線は望むべくもないので、現地の桜の様子を調べようと、鳩原ループで1発雷鳥を撮った後、湖西線沿いに走ってみることにした。しかしとにかく寒い。猫背になりながらもバイクを運転して咲き遅れの桜を見つけては線路際に立ち寄って、わずかに残っている花びらと、どう列車を絡めようかと何度も吟味する。しかし時折霧のような小雨も降り始めてしまい、明日もこの界隈にいるだろうからと本日の撮影は中止して、体も冷えたことだし温泉に行くことにした。国道を走り山を一つ越え撮影地としても名高い今庄へ。ここからさらに標高を稼ぎ、スキー場脇の天空の温泉、「今庄365温泉」に着いたのは15時過ぎ。スキーリゾート地だけあってシーズンオフの今では周辺にほとんど人の気配が無く、営業しているか心配だったが一応利用客と思われる車が駐車場に3,4台停まっていたので一安心。一応温泉は営業しているらしく閑散とした施設に入り広い湯船に入った。昨夜からほとんど寝ていなかった上、一日中寒さを耐えながら走ってきたので生き返る心地がした。解凍されてロビーで休憩していると、もう何にもする気がなくなって抜け殻状態になり、面倒くさくなり今夜はここから一番近く、去年も駅寝した南今庄で駅寝することに妥協。新しい駅寝駅も開発したかったが、もうスイッチがオフになり完全に動けない。施設の閉館時間が21:30と時間もたっぷりあったので、ビールを自販機で1本購入。深い眠りに就いてしまった。4時間ほど寝て閉館も近くなったのでヤマを降り南今庄駅へ。前回と同様、通行もほとんど無い静かな無人駅で寝袋に包まり朝を待った。


2009,4/17



暗い。とても暗い。小雨の降る中、今日一番の485系がやってきた。
2009,4/17   北陸本線  南今庄〜敦賀   EOS5D 100-400mm

 翌朝起きてすぐに天気予報をチェック。昨日見た予報とほぼ同じ曇り、降水確率50%のままだった。もうこの近辺での雷鳥撮影は諦めるしかない。朝の1本だけ南今庄から程近い線路っ端で485を撮ったが、今日も満足の行く成果は絶望的だろう。さらに明日土曜は福島県に高飛びして583を戴かなくてはならず、今夜には600kmにも及ぶ大移動を控えているので、少しでも距離を稼いでおこうと大糸線に行ってみることにした。とは言ってもここから200km。気温も昨日と同じく、いやそれ以上に寒く長距離の単車運転での体力の消耗が心配される。しかしウダウダして福井県に留まっていても、いずれは発たないとならないので、曇り空の寒風吹く北陸道を北上した。金沢を過ぎて倶利伽羅越えにかかると雨が降り出し、もともと低かったテンションはガタ落ち。途中の小矢部川SAで見た糸魚川地方の天気予報の「曇り一時晴れ」という文言を一縷の望みとして糸魚川に急いだ。敦賀を発って3時間ほどで糸魚川到着。すぐに通い慣れた大糸線沿いの国道148号を南下した。頸城大野駅で少し昼寝をしてからロケハンを開始。すると沿線には満開とは行かないまでも、ソメイヨシノの美しいピンクの花弁がまだまだ見ごろであった。南下して標高を稼ぐほどに花のボリュームは増してきて、ついに平岩付近では満開になっていた。しかし天気予報に反して空は曇り。光に冴えない桜を絡めて何本か大糸線の気動車を撮影した。



古い桜の木なんだろう。その横を青黄褐色のキハ52が駅に入線する。
2009,4/17   大糸線   根知〜小滝   EOS5D  100-400mm







美しい名前に反して暴れん坊の悪名高い姫川一帯は大電源地帯。発電所敷地内の桜がキレイだった。
2009,4/17   大糸線   小滝〜平岩   EOS5D 24-105mm


 撮影を終えて、さてこれからどうしたものか・・・。天気予報では明日の予定地福島も、まだ撮り足りない福井県も明日の予報は「晴れ。降水確率0%」。1時間ほど迷いに迷って583は捨てて485撮影に苦渋の決断を下し、で、冒頭の湖西線での雷鳥撮影となった。糸魚川市街に戻り、本来の目的では東へ行く予定が、真逆の西に進路を取り、高速代節約のため国道8号線を富山、高岡と抜け、通勤割失効ギリギリの20時ちょい前に金沢西ICから北陸道に乗った。そして新疋田で旅装を解いたのだった。



 話を湖西線に戻そう。琵琶湖バックのポイントを出発し、初日にロケハンし目星をつけておいた場所にやってきた。ここはお寺の敷地の一角のお墓からのポイントで、咲き遅れた古木のソメイヨシノと、菜の花が彩りを添えている。ロケハンの時は曇りであったが、ここに陽が当たれば素晴らしい情景に変貌するだろうと予測していたのだ。果たして現地を再訪すると、予想通りピンクと黄色の色彩の背景に湖西線の築堤をド順光で遠望できる。まずは一応場所が場所だけに、ここに眠る仏様たちに「ちょっとお邪魔しますよ。写真撮らせて下さ〜い」と合掌。「アンタも好きやねぇ〜、まぁええよー」と聞こえたかどうかは覚えていないが、セッティングに入る。今日は昨日とは打って変わって暑いくらいの初夏の陽気で、2日間バイクの乗る時はずっと着込んでいたジャケットを始めて脱いだ。遠くの田んぼでは田植えの下準備である田起こしが始まり、近くに目を転じればミツバチが蜜集めにせわしない。そこで国鉄色を待つヒトトキ。あぁ桃源郷・・・。















たった2時間ほどの滞在だったが、本当に癒された。
2009,4/18   湖西線   マキノ〜永原   EOS5D 24-105mm / 100-400mm


 この墓地でのひと時に満足し出発することにする。しかし午後の撮影場所をキメる前にやることが一つ。実は訪問初日、曇り空の中、疋田の通称「ダンロップカーブ」で雷鳥を撮影したのが、そこで撤収するときにビデオ用のクリップ付き雲台を置き忘れてきてしまった。それを2日ぶりに回収しに行くのだ。ダンロップカーブに到着するとトワイライト撮影組がすでに5名ほど待機していた。彼らに近づいていくと、あった!恥ずかしいので気付かれないように雲台を回収し、国道へと逃げ、これからの撮影ポイントを探し始めた。もういっちょ桜をやりたいな・・・。そう思いながら鳩原ループ付近をうろついていたが、どうも今年の桜のシーズンはほぼ終焉を迎えているようであり、なかなかどうして、いいカットが思い浮かばない。そう思った時、国道の跨線橋から桃の花のようなドぎついピンクの花が見えた。逆光だったが手前の水を張ったばかりの田植え前の田んぼがのどかな雰囲気。大型車が間近で通り抜ける国道の路肩で列車を待つことにした。



春も終焉。午後の日差しを浴びて金沢へ急ぐ雷鳥23号。
2009,4/18   北陸本線   新疋田〜敦賀   EOS5D  100-400mm


 このカットをもって今回の撮影行は終了。機材をバイクにしまっていると携帯に着信が。昨夜メールを送ってきた学生時代の友人からで「今さ〜○○と富山にいるんだけど、どこにいる?」とのこと。聞くと暇だったのでオレを追っ掛けて安房峠を越えて金沢にやって来たそうだ。開口一番、「バカじゃねーの!!」とオレ。このまま東名でダイレクトに帰ろうかと思っていたが、せっかくのはるばるやって来た友人を反故にするのも悪いので富山に直行することにした。明日は早朝から仕事なので遅くならないうちに帰りたい。1時間半ほど北陸道を走り金沢到着。電話すると能登半島の先っぽのほうで道に迷ったそうな・・。ウロウロしないでくれと願うことさらに2時間。ようやく陽の落ちた北陸道小矢部川SAで、友人と何年かぶりの再会を果たすことができた。

今回の総走行距離  1810km  終了